内田光子ピアノリサイタル@サントリーホールの巻

20番までが前半で、後半は21番のみでした。前半が終わってホワイエをうろついていたら「CDとは違うね」「当たり前だけどね」と話していたおじさまがいました。私としては、CDとは楽譜が違うのではないかと思いました。
たとえば20番第二楽章のこの部分。普通の楽譜だと3連符の連打で、CDではこのとおりに弾いています。しかし今回のリサイタルでは16分音符で4連打していました。もしくは16分音符の頭ひとつを抜かして3連打です。エコーみたいに聞こえるので、いくつ叩いたのか正確には判明せず(汗)。というわけで以下各曲について見ていきます。
まず19番、例によって第一楽章の冒頭からCDと全然違います(笑)。始まる前はもう何があっても驚かないよ〜と思ったけど、この違いには驚いてしまいました。CDは和音連打が徐々に弱くなっていくのですが、今日は弱くなるどころかどんどん強打になっていくのです。解釈の変化ですね。あとこの日はプログラムがながいので、第一楽章のリピートはカットしてました。これは仕方ない。全体としては、第二楽章以外は速めのテンポで攻めまくり。多少ミスってもかまわず突っ走るのはかっこいいです。
20番は泣かないって思ってたのに、やっぱり終楽章の最後の方でウルっとwシューベルトらしいいい曲だよなあ。第一楽章の冒頭は、4日ほど全開ではなく、少し抑えてました。リピートも「あり」でした。リピート前と後で末尾のフレーズがちょっと違うんです。3小節だけなんだけど、そこが光子のこだわりなのでしょう。時間の関係上21番以外は繰り返さないと思っていたので、これは嬉しい驚きでした。
21番はほぼCDと同じような解釈でした。この曲は特別なので弾き始めるまで時間がかかるよな、と予想していたのです。というか、すぐに弾き始めるべきではないのです。光子はピアノの前に座るとまず腕組みをして、それを解いてから僕をみて微笑みました。いや単に視線がRBブロックの方を見ていただけなんだけど(笑)、そこにシューベルトさんが降りてきていたのかな、と思います。*1
そしてゆっくりと鍵盤に手を乗せると、霧の中から聞こえてくるような音色で第一楽章が始まりました。基本的にはCDと同じ。もちろんCDよりダイナミックレンジが格段に大きいけれど。当然、繰り返しありで。この曲の第一楽章はリピート専用に9小節も付け加えられているため、リピートしないのは悪とされています。過去にはキーシンがリサイタルでリピートしなくて酷評されました。黄泉の国で眠っている人がゆっくりと目覚める、みたいな曲なのでリピートしないで展開部に入られると困るのです。第二楽章はかなり幽玄的で、あっちの世界にいっちゃうのかな?という感じで、第三楽章もあっちの世界で遊んでるみたいで、ちょっと寂しく、悲しくなります。ところが第四楽章になって徐々に現世に降りてきて、コーダは20番と同様に力強く閉じました。
少しだけ暗譜がとんだところがあったけれど、すぐ戻したので全然問題なかったです。トラブル対応術もさすがです。
光子は弾いていないときはいつもの顔ですが、弾いているときは異様に若返って見えるのが不思議でした。若いお嬢さんがこんなに深い解釈で弾くの?みたいな違和感が起こりましたwいや、もう還暦すぎてるんですけどね。
この日も座席はRBデルタでした。このブロックは急にキャンセルが出たという話です。おそらく美智子皇后&警備関係者のための席です。天皇陛下がご入院なさっているので、予定を取りやめたのだと思います。ご快癒をお祈りします。

*1:美智子皇后いないけど心は伝わるわよね、という気持ちかもしれない。

シューベルト:ピアノソナタ19番D.958予習中の巻

明日の演奏会に向けてピアノソナタ19番を予習中です。20番と21番は実際に弾いたりして曲の構造が頭に格納されているのですが、19番はちょこっとしか聴いてなくて記憶に残ってないので。きょうは朝7時くらいから2回きいたのですがよくわからなくて、結局は楽譜をひっぱり出してきて読みながら聴いてようやく理解できました。1度楽譜を見ながら聴いた後だと、楽譜なしでもすごく見通しがよいのです。予習CDはもちろん内田光子さんですが、う〜ん、ソステヌート使いまくりですね。だらだら聴いてるだけでは見逃してしまうようなポイントで上手にソステヌートを使って、演奏効果を高めています。第二楽章などで、片手でスタカートしながら一方の手でレガートなメロディを奏でる時にソステヌートを踏んで旋律の響きを補強しています。あと終楽章の最初のテーマがブルグミュラー25練習曲みたいで笑いました。この部分は初心者でも弾けるはず。その後はシューベルトらしい、譜面づらは簡単だけど実は弾きにくいパッセージが続くのです(汗)。技術的な難易度は10段階の8くらいで、ベートーヴェンの月光と同じくらいだと思います。しかし地獄のように(もしくは天国のように)長いので、集中力を切らさず弾ききるのは至難です。特に、第二楽章は弾きながら寝そう。もちろん明日の演奏会では寝るなんてことはありえないのです。
それで、ちょっと身体に不具合が生じてしまって(単におできがつぶれただけw)、不安材料を解消しておきたいので明日は仕事を休んで病院に行くことにしました。会社では私は病弱キャラの座を獲得しているので、休みを取りやすいはずでございます。おできごときで休んですまぬ。体調そのものは先週からまたちょっと回復してるのに(笑)。でもサントリーホールに6時に到着するには、いろいろ工夫が必要なの。長丁場だから、その前に軽食も取りたいの。すまぬ。許して。

きのうの追記の巻

サントリーホールWebをなにげなく見ていたら、内田さんのリサイタル最終日のチケットにキャンセルがあったみたいで、猛烈な勢いでゲットしてしまいました。月曜日はがんばってサントリーホールに行きます。例のシューベルト最後のピアノソナタ3曲です。演奏時間が長いからなんと午後6時30分開演!ダッシュで会社を出れば間に合うはず?というわけで火曜日は念のためお休み取ります。ごめんなさい。それにしても元気あるな俺。

内田光子ピアノリサイタル@サントリーホールの巻

最初に前置きを書くと(ながいです)、この演奏会のチケットが発売されたのは体調最悪時期で、平日のこの演奏会を聴きに行けるとは到底思えなくて、チケット購入を見送っていました。というか、演奏会の日まで生きていられるかどうかすら怪しい状況でした。なので、連れと聴きにいく室内楽だけ買って、あとは知らん振りだったんです。ですが、8月下旬から開始した治療が当たり、予想以上に体調が回復してきました。10月になってサントリーホール・チケットぴあを見ると、11月4日の公演はまだ売れ残ってるじゃありませんか。数日間考えて、やっぱり行くことにしてチケットを買いました。この時点でなんとRBデルタ*1に空席があり、最高の位置を無事ゲットです。そして当日。「この世にいなくて聴けかったかもしれない演奏会」ということで、始まる前から気分的に盛り上がってしまいました(笑)。

幻想曲ニ短調は「そこまで追い込まなくても」というくらい暗かったです(汗)。ダヴィッド同盟はいつもどおり考えすぎだけど、そこがいい。シューベルトソナタはただただ感動・感涙。アンコールはおなじみのモーツァルトソナタ2楽章で、とても丁寧な演奏でした。座席がよかったので音は最高だしペダルの踏み方もバッチリ見えるし、いろいろ気付いたことを書いていこうと思います。
まずモーツァルトの幻想曲は意外にペダル少なめで、1音1音の音色勝負でした。この時点で、ひょっとしてソステヌート・ペダルを使ってる?と気付きました。
ダヴィッド同盟は、1曲ごとの性格をくっきりと浮き立たせる解釈で、激しい曲はとことん激しく、夢想的な曲はどこまでも幻想的。この曲では明らかにソステヌートを多用して、特定音だけを伸ばす技を駆使していました。だからなんだという感じですが、シューマンでは特定の音が重要な役割をするので理に適っている思います。全体として速度や音量において振れ幅が大きく、音色も目まぐるしく変化するのが印象的でした。私はこの解釈でOKだと思うのですが、人によってはまとまりに欠けるとか、表現にゆとりがないと思うかもしれません。
シューベルトソナタは、もう正常な気分で聴けなかったので、細かいことは割愛で。でもいっぱい書くけど(笑)。
結局、内田さんの解釈だと、この曲はシューベルトの「まだ死ねない。もっと生きていていたい。」という願望の具現化、ではないかと思います。というのは第一楽章の冒頭からものすごいフォルティッシモなんですよ(笑)。あの一撃で「まだシューベルト死んでないよ!生きてるよ!」ということがわかるのです。なんだもう、CDとは解釈変わってるじゃんかよ、とか思ったのですが、ここですでに涙腺が怪しくなってしまいました。だって俺もいまこうして生きてるんだもの。2、3楽章もすばらしく、終楽章は最初から涙が出てきました。冒頭の旋律が始まったときからけっこう泣いてる人いました。なんだろう、この終楽章ってシューベルトが愛してやまなかった歌曲そのもので、美しいメロディーが2回、3回と出てくるのね。3回目に一瞬中断が入って、ここで、あ、止まっちゃう!って思わせておいて何事もなかったように続き、4回目ではついに消えかけたロウソクのようにピアニッシモで途切れ途切れに歌い、過ぎ去った日々を回想します。ここは本当に泣けてね。「ああ〜シューベルト死んじゃう〜」みたいな感じ。でも最後に猛然と甦って華やかなアルペジョを繰り広げ、第一楽章冒頭と同じフレーズを力強く奏してこの曲は輝かしく終止します。くそう、こうして解説書いていても感動するじゃねえかよ!
でね、シューベルトの状況が俺とそっくりなの。不治の病が発覚して、徐々に体調が悪化していよいよもう持たないと悟ったシューベルトが作った最後のソナタ3曲のうちの2曲目なのね。その曲を同じように病になって死にかけた自分が聴いてるって状況がね、それだけでもう感動的なのよ。だからとてもじゃないけど冷静に聴けなかったの(笑)。
あ〜でも内田光子ほんとうにすごい。残念ながら録音では彼女の魅力の半分も伝わってこない。フルコンのピアノを自由自在に扱い、あるときは壮大に響かせ、あるときは繊細に鳴らす。演奏解釈や構成感の作り方も抜群。そしてなにより、音楽が好き、ピアノが好き、という気持ちが溢れんばかりに伝わってくる。だから演奏を聴いている間も、終わったあとも、心がとても温かい。これがあるから、また次の演奏会も聴きに行きたいと思うのでありました。

あとね〜、俺ってピアノ演奏なめすぎ。大反省。自分じゃどうやっても内田さんみたいに弾けないって。技術以前の問題で、俺が人間として小さすぎる。だから音楽のスケールも小さい。表面的なフォルティッシモの音量が音楽の大きさとはまったく比例しないことを思い知りました。せっかくまた弾き始めたので、いろいろ考えながら自分なりの表現を探していきたいと思います。

それにしてもRBデルタ最高。いままでバランス的にLBで聴くことが多かったんだけど(ピアニスト自身が聞いているのと同じ後ろに飛んでくる音)、豊かな音量で聴くならやっぱりRBだと思います(ピアニストに相対してピアノの弦や響板がむき出しで見える位置)。あの太くて雄大な低音を体験してしまうと、オーディオシステムの貧相な響きが悲しくなってしまいます。ピアノ自体の繊細な残響もよくわかるし、とても気持ちよかったです。まあでも、デルタでないRBでもかなり同じ音が聴けてなおかつ安いし、さらに安いRAやLAでもまずまずだったりするので、サントリーホールでピアノソロリサイタルを聴く時は2階バルコニー前方ということを覚えておくといいと思います。サントリーホールWebチケットぴあの会員になると、座席ブロックを指定してチケットを予約することができます。

*1:ピアノソロを聞くには最高の座席

誕生日関係の話題の巻

連れがデジカメをプレゼントしてくれた〜(泣)。いままで使ってたサンヨーの古いデジカメが壊れてしまって、なんとかしなきゃいけないね〜という話をしていたのですが、まさかプレゼントしてもらえるとは。オリンパスSZ-10という機種で、ただいま絶賛値引き中なのもポイントかと(笑)。とても評価の高いカメラで、オークション出品用の写真撮影もはかどりそう。ありがとうございました。望遠がすごいらしいので、天気のいい日にわが家から見える東京スカイツリーを撮影してみよう。
知恵袋でも、会ったことがない人から誕生日メッセージをいただいてしまった。恐縮です。ありがとうございます。お互いオッサン同士ですが(笑)。

今週のお題「センチメンタルな秋」の巻

はてなの「お題」に出ていたのでやってみました。でも最近とても気候が暖かいし、仕事再開してから忙しくてセンチメンタルになってる暇がないです。例年だとブラームス室内楽デヴィッド・シルヴィアンの"Secrets of the Beehive"を聴いて秋を満喫するのですが、今年は内田光子さんの演奏会でいっぱいいっぱいです〜。そうこうしているうちに、明日は誕生日。おめでとう自分!生きて45歳になれるとは思わなかったのですごく嬉しい!いろんな人に感謝です。来年のエヴァQまでは元気でいたいのでそれまで頑張れ俺(笑)。体調はまだ良くならないけど、もう怖いものはなんにもないよ。このあたりの心境変化はまたいつか書こうと思います。

松本和将先生、大いに語るの巻

http://kaz-matsumoto.cocolog-nifty.com/blog/2011/10/post-a504.html
まったくそのとおり、としか言いようがありません。
楽譜を見るだけで「練習」と言ってしまえるのはすごいと思います。私はせいぜい「勉強」とか「アナリーゼ」です。ピアノに向かう前に、楽譜を利用して理想の演奏を作り上げることはとても大事ですね。ここでイメージが固まっていないと、実際に弾く練習を始めてから混乱することになりやすいです。