弦楽器を打ち込むようになったの巻

自分がDTMをやるときは、リアルタイムに鍵盤を弾いてシーケンサーに記録したものをクオンタイズ*1したり、差し替えるなどしてトラックを作っていきます。打ち込み(音符の長さを指定して、音程と打鍵の強弱だけ鍵盤から入力するやりかた)は、ドラムくらいしかやってなかったんですが、弦楽器も打ち込むほうが効率的なので、打ち込むようになりました。

なぜ打ち込むようになったかというと、弦楽器をポリフォニック・モードで演奏する場合は厳密な音符の長さの制御が必要で、それが自分の演奏技術ではできないから、というのが最大の理由です。フレーズの音と音がブツ切れになってはいけないし、次の音と重なりすぎてもいけない。繊細なコントロールをしなくてはいけません。モノフォニック・モードなら、次の打鍵をすると自動的に前の音が消えるので弾きやすいんですが、INTEGRA-7の弦楽器をモノモードで弾くと不自然なニュアンスになるので、ポリフォニック・モードで弾くしかないのです。そんなわけで、音符の長さをあらかじめ指定できる打ち込みが大活躍です。

なお、管楽器はモノモードでも自然な演奏ができるので、相変わらずリアルタイム演奏でやってます。

打鍵がコントロールができないのは、実はキーボード(Roland A300 pro)自体の問題もあります。本当に弾きにくいのです。なので買い替えたいんですけど、INTEGRA-7と組み合わせるにはRoland製品の機能が必要なので我慢しております。

電子楽器界隈では、日本メーカー各社のピアノタッチ鍵盤は進化しているのに*2、軽量鍵盤はコストカットのため質が低下しています。それでも折に触れてはいろいろな鍵盤を試しています。近年良いと思った軽量鍵盤は、なんといっても Native Instruments の KOMPLETE KONTOROL です。コスト度外視の豪華仕様で、機能もタッチもすばらしいです。

*1:拍子に合わせる機能

*2:海外製キーボードはFATORというメーカーの寡占状態

デジタルピアノ&ステージピアノ新機種レビュー(2017年版)の巻

Roland RD-2000を購入しようと画策する日々を送っていますが、購入を決める前に他の機種も見ておきたいということで、たくさんの電子ピアノ・ステージピアノが比較できる島村楽器新宿店で比較試奏してきました。

ヤマハ:グラビノーバCLPシリーズ

3年サイクルで新製品を出すヤマハは、今年もスケジュール通りに新機種を発売しました。その内容は、より明確にカワイを意識したラインナップです。どういうことかというと、まず上位2機種4モデルにグランドタッチ鍵盤という、明らかにカワイCAシリーズを模倣した鍵盤を搭載し、それ以下の機種と差別化するという戦略です。黒鍵の素材も格段に良くなりました*1。これでようやくカワイと対等に渡り合えると思います。あと上位機種しか搭載していなかったベーゼンドルファーのサンプルを下位機種にも搭載したことで、下位機種も売れているそうです*2。カワイよりも演奏しやすいのが特徴だと思いますが、いい加減に弾いてもありえないほど同音連打が入ってしまうとか、甘いタッチでもきれいに鳴るとか、気持ちよく弾ける要素が満載で、自分がうまくなったと錯覚する危険性があります。ヤマハの方針(音楽をエンジョイする)には沿っているとは思います。

Clavinova(クラビノーバ) CLPシリーズ - 電子ピアノ - ヤマハ株式会社

  • CLP-685
    最上級モデルで新開発の鍵盤を採用していますが、打鍵感が同社のアップライトピアノに近いように思えるのと、若干ガタつき音があるので、あまり好きではありません。タッチそのものはCLP-675より軽く感じます。譜面立てがアップライト方式なのは改善してほしいところです。
  • CLP-675
    CLP-685とは鍵盤が違っていて、こちらのほうがグランドピアノに近いタッチ感ですし、タッチの強弱で音色が変化するのがリアルです。このモデルは設計が熟成されていて、完成度が高いと思います。
  • CLP-645
    2世代前のフラッグシップに使われていた木製鍵盤を採用していますが、タッチ感は生ピアノとは程遠いです。また音色の強弱の段階数が減っているようで、タッチの強弱による音色変化に乏しいので、サウンドの面でも生ピアノから遠いです。クラシックピアノの練習をするなら、CLP-675以上を選択すべきだと思います。

コルグ:G1 Air

松井咲子を起用して勝負に出たらしいステージピアノです。波形はスタインウエイ、ベーゼンドルファーヤマハの3種類のサンプルを搭載しています。スタインウエイはKRONOS流用っぽいですが、強弱の段階が省略されているようで(3段階くらいしかない)、表現力が乏しいです。ヤマハも同様。女性をターゲットにした感があり、鍵盤を撫でるような弱いタッチで弾いても芯のある音色が出る設定になっていて、その意味では弾きやすいと思います。問題はベーゼンで、これの波形だけ音色の段階数が多く、弱音の表現力が格段に高いです。柔らかい音色が好きな人は、ベーゼンで弾いたほうがいいと思います。下記のホームページでデモ演奏を聞けますが、ベーゼンだけランクが違うことがわかると思います。

www.korg.com

ローランド:RD-2000、FP-90ほか

RD-2000と同じPHA-50鍵盤を採用したことで話題のFP90は、実質的にはRD-2000のマスターキーボード機能とV-piano音源を省略し、スピーカーをつけたモデルです。スピーカーとアンプを内蔵した分だけ、RD-2000より重くなっています(23.6kg)。ということで、自分はRD-2000でなく、FP-90を購入しようと思います。これで十分なので。ローランドのピアノ製品は、PHA-50鍵盤採用モデルとそれ以外という区別が明確ですね。あとこれも話題になったKIYORAは、外観がオシャレなFP-90です。FP-90は見た目が野暮ったくて20万円超の高級感とかまったくないのですが、KIYORAの高級感は素晴らしい。サウンドデザイナーがアプリ経由というのが欠点ですね。デジタルピアノは10年くらい使えますけど、タブレットスマホはせいぜい3~4年で買い替えますし、古いアプリはどんどん使えなくなります。

www.roland.com

 

新製品ではありませんが、今回もカシオGPシリーズを試奏してきました。弱音の表現力では、やはり段違いだと思いました。次がローランドの製品で、ヤマハ、カワイになるともう弱音の表現はあまり望めません。GP-300や500を弾いていると、自然に音色や音量を意識した演奏になりますので、中級以上のピアノレスナーのかたでデジタルピアノの購入を考えている際はぜひ考慮していただきたいと思います。

※追記

KORG Grandstageとnord piano 3も試奏しました(結局nord piano 3を買った)。レビューは下記参照。FP-90を買わなかったのはPHA-50鍵盤に違和感を覚えたからで、そのあたりのことも書いています。

 

harnoncourt.hatenablog.com

 

*1:電子ピアノの黒鍵の素材の悪さについては、以前から多くの人が指摘しています。

*2:最初からやれよ、と思った人も多いでしょう。

ユーリ!!! on ICE から Yuri on ICE を演奏してUPしましたの巻


ユーリ!!! on ICE から Yuri on ICE を弾いてみた

タイトル曲ということで、オケまでコピーして演奏しました。「愛について~eros~」がけっこう荒っぽい仕上がりだったので、できるだけ丁寧に、繊細に弾いたつもりです。あと少々オリジナル解釈で、デュナーミク(強弱表現)をつけています。

自分は天邪鬼なので、他の人が弾いている曲はなかなか腰が重いです。この曲も、実は半年くらい前から採譜して、ドラムや弦楽器の演奏もしていたんですけど、いまごろUPになってしまいました。ピアノパートに聞き取れない部分があって、なかなかきちんとした楽譜が書けなかったのも原因です。聴取環境をAKGK240というヘッドフォンにしたところ、うまい具合にオケとピアノが分離して聞こえるようになって、なんとか採譜できました。といっても、動画に掲載した楽譜は何箇所か間違ってて、演奏のほうが正しいです(とほほ)。

DTM的にはドラムパートがポイントです。スネア5種類、シンバル6種類、ハイハット4種類を使い分けてます。INTEGRA-7のSNドラム音源は、叩く強弱で音色がスムーズに変化するので、こういう繊細なプレイに向いていると思います。録音とミックスはDigital Performerで、96kHz/24bitベースで作業しました。いままでDPではMIDIデータにはほとんど手を入れなかったんですけど、今回は弦やドラムで細かい修正をやってます。全体的にフォントサイズが小さくて(9ポイントだらけ)、老眼にはつらいソフトだとしみじみ感じました。

ボンクリ・フェス2017 スペシャル・コンサートの巻

現代音楽作曲家の藤倉大さんがディレクターを務めた演奏会に行ってきました。概要は下記ホームページを参照。

ボンクリ・フェス2017 スペシャル・コンサート 東京芸術劇場

内容は、藤倉さんが好きな曲を、できるだけオリジナルに近い形で演奏するというもので、取り上げられる楽曲も坂本龍一デヴィッド・シルヴィアンといったポップスから、武満まで多岐にわたりました。

印象的だったのは、坂本龍一の最新アルバム async から演奏された "tri" です。tri = 3、トライアングル、三位一体、などさまざまな意味があると思いますけれども、原曲通りに3名のトライアングル奏者による生演奏で、非常にテンションが高く、ピリッとした空気感が素晴らしかったです。

あとオリジナル編成で演奏された武満の雅楽風の曲など、気になった曲もいくつかありましたが、やはり初体験ではなかなか楽しむことができませんでした。何度もasyncを聞いて予習ができていた "tri" はとても面白く聞くことができたので、やはり音楽を楽しむには事前準備が必要と感じた次第です。一発でサウンドを聞いてもなかなか楽しめない(なじめない)のは、現代音楽に限らないとに思います。

新世紀エヴァンゲリオン DEATH(TRUE)2 BGM「AIR」を弾きましたの巻


新世紀エヴァンゲリオン 劇場版 AIR より「AIR」を弾いてみた

※突然こんな曲を弾いてしまった経緯

  1. マルティン・シュタットフェルトショパンエチュードのジャケットがポゴレリッチそっくりで驚いて買う。
  2. 聞く→よい。大人っぽいというか、プロっぽい演奏になった。
  3. シュタットフェルト、ちょっとすごくない?
  4. バッハ平均律集をいつのまにか録音してるので、あわてて買う。
  5. 聞く→これもよい。
  6. イギリス組曲も録音していたので、買う。
  7. 聞く→とっても良い。
  8. イギリス組曲のCDの最後になぜかAIRが収録されていて、とてもいいアレンジ&いい演奏だったので、弾きたいモード発動。
  9. アレキサンドル・シロティ編曲ということでIMSLPに楽譜があったので、ダウンロードして弾く←イマココ。

なぜかホモフォニックな曲だと勘違いしていて、楽勝で演奏できるだろう思っていましたが、しっかり3声で地味に難しかったです。なお、細かなところで楽譜を改変して弾いています。たとえば、繰り返しのときに「ファミファ~」と弾き始めていますが、これは弦楽器ではやらないフレーズで、鍵盤楽器的(チェンバロ的)な奏法です。自然に出てしまいました。演奏中はエヴァのことが思い出されて、ともすると感情的な演奏になりがちで、セーブするのが大変でした。

あと、ついでに平均律集1巻のホ短調のプレリュードとフーガの練習を始めてしまいました。シュタットフェルトショパンエチュードを買わなかったら、バッハを弾くなんてことにならなかったので、人生何があるかわかりません。

 ※AIRの楽譜は下記リンク先にあります。

https://imslp.org/wiki/Special:ImagefromIndex/09510/wc13

 

CHOPIN

CHOPIN

 

 これがポゴレリッチそっくりなジャケット。ショパンエチュードに即興演奏のコラールを追加して24曲+アルファの組曲にしてしまったという企画盤。クリックするとamazonに飛んで、私が書いたレビューが読めます。アフィリエイトとか貼ってないのでお気軽にどうぞ。

 

Classic CD, Martin Stadtfeld - Bach: English Suites Nos.1 - 3 BWV 806-808[002kr]

Classic CD, Martin Stadtfeld - Bach: English Suites Nos.1 - 3 BWV 806-808[002kr]

 

 AIRの入っているイギリス組曲です。輸入盤や国内盤があってお値段が違うので、購入される際は最安のものをポチってください。

 

ショパン:4つのスケルツォ

ショパン:4つのスケルツォ

 

 こちらは本物のポゴレリッチ先生。このスケルツォは聞く人の神経を逆撫でするような、非常に個性的な演奏です。

 

PM2.5 に悩むの巻

この1週間ほど呼吸器系と眼粘膜が炎症起こしまくりで大変です。原因はPM2.5っぽいです。空気がとっても刺激的です(物理)。どういうことかというと、眼や鼻の粘膜に刺すような感覚をもたらします。

昨夜も、外で何か燃えているんじゃないか勘違いするほど、刺激臭のような匂いを感じていたんですけど、どうやらこれがPM2.5らしいです。

こんな感じなので、症状は咳と鼻水で終わるわけはなく、めまいやふらつきといった方面まで影響を及ぼして、午後はぐったり、という感じでした。花粉症とダブルパンチなので、早く雨が降ってほしいです。

アラベスクはアラビア風の模様のことなのか?の巻

徒然なるままにというか、気が向いたときに、適当に音楽美学を勉強しています。

そんなわけで、アラベスク

ピアノを習っていた人は、ブルグミュラーとかドビュッシーとか、ちょっと詳しい人はシューマンの曲を思い浮かべると思います。バレエ好き、少女漫画好きな人は山岸凉子先生の作品を思い出すでしょう。そして、みんなアラベスクってどういう意味なのだろうと、疑問に感じるのではないでしょうか。

楽曲解説や辞書には「アラビア風の模様。唐草模様」と書かれていていますが、それが音楽と何の関係があるのか、いまひとつピンときません。ということは、解説や辞書が間違っていたり、説明不足の可能性があるのではないか?と疑い始め、この数年間かけてアラベスクについて勉強してきました。

その結果、アラベスクはアラビア風という意味にとどまらず、芸術における美の概念であるということがわかりました。本エントリーはその報告(中間報告)です。

アラベスクとは。
もともとは辞書のごとくアラビア様式の模様のことなのですが、転じて「人為的に統制された、混沌や混乱や不自然さを用いた美の表現」という意味を示すようになります。これがさまざまな派生を生んだと考えられます。たとえば、下記のようなものです。

  • 文学では、特にロマン派文学において混沌が重要な要素になりますが、でたらめではいけないということで、アラベスク理論つまり統制された混沌が重視されました。
  • 音楽では、たとえばシューマンピアノ曲アラベスク」は、混沌より統制が重視され、文学的要素も希薄でそれゆえ習作感があります。しかし「クライスレリアーナ」になると統制された混沌が見事に表現されます。
  • 「グロテスク」と同義なものをアラベスクと呼ぶことも、しばしばあるようです。グロテスクとは、古代ローマを起源とする異様な人物や動植物等に曲線模様をあしらった美術様式で、曲線の使い方が上記のアラビア模様と似ているので、区別せずに使われていたようです。
  • さらに派生して文学や演劇における共感と嫌悪感の双方を抱かせるような人物はグロテスクであると考えられていて、これもまたアラベスクと混同されます。「ああ無情」のジャン・バルジャンなどが典型例でしょう。
  • クラシックバレエにおいて、片脚で立ち、もう一方の足を上げる有名な姿勢も、アラベスクと呼ばれます。たいていはトウ(つま先)で立ちます。姿勢は完全に統制されていますが、自然ではありえない姿勢です。不自然なものを完璧に表現する、それが美である、という考え方ではないかと思います。

自分もまだまだ勉強中なので、勘違いや行き届かないことがあると思いますが、とりあえず以上といたします。