「ショパンのピアニスム」を読むの巻

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4276143233/249-2190308-9743535
楽譜満載のフレーズ解説書です。ショパンに特徴的な書法を思い切り微視的に掘り下げていて、楽曲全体の構成や解釈については何も書かれていないという、非常にマニアックな内容なのです。ただ、ショパンのピアノ書法に関してここまで突っ込んで解説をしている本は他にありません。主要作品について漏れなく言及しており、大変な労作だと思います。内容が盛りだくさんなので読むのも大変です。音大ピアノ科にショパンについての講義があったとしたら、教科書はこの本になると思います(笑)。
この本のポイントは、出版譜だけでなく自筆譜や弟子が所有していた楽譜(運指や奏法についてショパン自身の書き込みがある)まで引用してショパンのピアニズムに迫ろうとしている点にあります。2004年に書かれていることもあって、エキエル編ナショナルエディションの楽譜についても触れられているなど、情報が新しいところも良いと思いました。
「こういうフレーズはこんな音楽が元になっている」「この手の運指はこういう理由がある」という感じで、内容的にはそれほど難しいわけではありません。楽典や音楽史の知識があって、ショパンの楽譜を複数のエディションにわたって見ている人なら大抵は気がつくことばかりなので、この本ならではの知見はあまり書かれていないように思いました。元ネタを知っている人にとっては目新しい情報は少ないのです。ただ、網羅性に優れていることと、声楽(特にベルカント唱法)がショパンに与えた影響などは、器楽専門でオペラを聴かない人にとっては新鮮な話題だと思います。これからショパンについて深く知りたい人は読むと良いと思います。
ひとつ注意事項があってタイトルはピアニズムではなく「ピアニスム」です。濁点が付いていません。「ショパンのピアニズム」で検索しても見つからないので、気をつけてください。