エヴァンゲリオン解説その5:サードインパクトについての巻

サードインパクトはアンチATフィールドによって生命体がATフィールドを失いLCLに戻ること、すなわち滅亡を意味します。エヴァンゲリオンの劇中において何度となく出てくる用語です。サードインパクトは使徒どうしの接触(具体的には遺伝子の融合)で起きるといわれていますが、実は使徒の種類によって結果が異なると思われます。裏死海文書には「サードインパクトで生命体全滅」ということだけが書かれていると思われますので、ゼーレもゲンドウも自分の理想とするサードインパクトを起こそうと躍起になります。それがエヴァンゲリオンのストーリー上、重要な構成要素になります。というわけで、劇中でサードインパクトが起きる可能性のあった組み合わせを上げてみましょう。

アダム+アダム由来の使徒

アダム由来の使徒が母に回帰して、再生します。同時にアンチATフィールドが展開されて地球上の生命体が全滅です。アダム由来の使徒以外は再生できません(人間はリリス起源の使徒です)。したがって、この状況はゼーレ、ゲンドウの両者にとって困ります。アダムはセカンドインパクトのときにいったん四散しましたが、再生後はこれを目指して使徒がやってきました*1

リリス+アダム由来の使徒

この場合、使徒はリリスに回帰しません(母じゃないので)。たぶん、リリスを殲滅するか、セカンドインパクトのように大爆発が起きると思います。その時点でアンチATフィールドが展開されて、生命体が全滅します。リリスが死んじゃうので誰も再生はできません。これもゼーレ、ゲンドウの両者にとって困る状況ですから、エヴァを利用して使徒殲滅を繰り広げるのです。エヴァンゲリオンって物語は、弐拾四話までは上記2タイプのサードインパクトを防ぐための戦いを描いたものである、と考えることもできます。

アダム+リリス由来の使徒

アダムとヒトとの融合です。アダムとリリスはもともと相容れない存在なので、成体同士で融合させたことがセカンドインパクトの原因の1つになりました。つまり、ロンギヌスの槍を使ってユイの遺伝子をアダムに融合しようとさせたのです。いろいろあってアダムが暴走し大爆発を起こしましたが、この時点で渚カヲルの元になった融合体も生成しています。融合する相手が人間(使徒としては非常に弱い)だったために、南極が消滅した程度の威力で済んだという感じです。後にアダムのサンプルをゲンドウの手に融合させますが、まだ胎児状態なので自我(コア)がなく、パワーを発揮しないのでしょう。

アダム+リリス

リリス由来の使徒(ヒト)がリリスをよりしろにしてアダム(胎児)さらには卵へと回帰します。リリス由来の群体として存在する生命体が全滅し、アダム由来の単体として再生します。これが最初にゼーレが目指したシナリオと思われます。アダムの胎児に回帰した人類は、ゼーレにとってはまさに神の子といえるでしょう。しかし、アダムの卵(白き月)がセカンドインパクトで四散していたので、この方法は利用できないことがわかりました。

リリスリリス由来の使徒

やはりリリス由来の使徒(ヒト)がリリスに回帰して、再生します。ヒトは使徒としての能力が低いので、使徒と同等のエヴァ初号機をよりしろに使います。アダムが絡まない点でゼーレとしてはあまり容認したくない状態ですが、「Air」において次善の策としてこの形のサードインパクトを目指しました。

リリス+アダム+エヴァ初号機(+シンジ)

まごころを、君に」で実際に起きたサードインパクトがこれです。ほとんど怪我の功名という感じでアダム胎児が加わったため、リリス=レイがカヲル君のイメージになったりしました。

リリス+アダム+エヴァ初号機(+ゲンドウ)

ゲンドウの身勝手理論で推進された人類補完計画という名のゲンドウ補完計画(笑)。要するにエヴァ=ユイと一体になって永遠の生命に生まれ変わるという、あまりにも自分中心的な計画です。こんなアイディアに賛同していた冬月先生って変な人ですね。

使徒はなぜ他の使徒との融合を目指すのか。

一人はさびしいからです。これはヒト(第十八使徒)を含めエヴァンゲリオンに出ている全ての使徒に共通します。特にアダム由来の使徒は永遠の生命を持っているにもかからわず単体ですから、永遠にひとりぽっちの存在なんです。こんなのさびしすぎますよね*2。ヒトは群体ですが、やっぱりさびしいんですよ。だから他者を求めるんですね。この辺は子供にはちょっと理解できない感覚だと思います。*3

*1:「アスカ来日」

*2:カヲルの台詞:生と死は等価値なんだ、ボクにとってはね。(なぜなら生きていても、死んでも、ひとりぽっちな事にかわりなのだから。)←なんとも悲しい言葉です。

*3:加持の台詞:完全に他人を理解することはできない(自分じゃないから)。そもそも人は自分のことすらよくわかっていない。彼女というのは彼方の女と書いて……このカッコいい台詞は、実は重要な内容を含んでいたのです。加持がシンジ君に対してブツブツ喋ってることは概ね作品のテーマに関わると思って間違いありません。