エヴァンゲリオン解説その8:碇ゲンドウ

エヴァンゲリオンには個性的な登場人物が多く出てきますが、年齢層がいくつかに分かれています*1。その中でもストーリーの鍵を握るのがゲンドウとユイです。私自身、最も興味を持ったキャラはゲンドウとユイでした。そこで、まずはゲンドウから見ていきたいと思います。

ユイとの出会い
  • 六文儀ゲンドウは学生時代から「世界のひみつ」を知りたいと願い*2、調査を進めるうちにゼーレとキール、そして裏死海文書に行き着きました。ゼーレ有力者の娘(碇ユイ)が自分の近くにいることもわかりました。そこでゲンドウはユイに接近し、結婚します。このときユイの父と養子縁組しており、姓が変わっています。ゼーレ中枢に入るには世襲的なつながりが必要だったのでしょう。
  • この先が問題で、ゲンドウにとってユイは道具にすぎないはずだったのですが、いつのまにか愛してしまったのです。ゲンドウはシンジがそのまま大きくなったような人間です。他人から疎まれるだけの人生で、愛されることなど一度もなかったと自認しているのですから、「あの人けっこうかわいいんですよ(はあと)」なんて全肯定されては、もうメロメロになるしかありません。これはカヲル×シンジと全く同じ関係です。惜しみなく与えられる愛によってのみ心が補完される、似たもの親子なのです。
ユイ消滅
  • そうこうしているうちにセカンドインパクトが起こり、E計画が始まります。いずれユイがエヴァに取り込まれることは予想していたと思いますが、まさか最初の実験でそうなるとは思っていなかったでしょう。目の前から突然消えてしまったユイに対し、ゲンドウは「裏切ったな!ボクの気持ちを裏切ったな!」という気分になったはずです(笑)。だからほとんど反射的にユイの忘れ形見のシンジを拒絶しました。その後もずっとシンジを愛したい気持ちはあったのですが、どうやって愛を表現したらいいかわからないゲンドウは、延々拒絶することになりました。*3
  • ユイの存在は捨てがたいものがあったので、ユイが取り込まれたエヴァ初号機に対して強い執着を持ちます。ユイのクローンと言ってもよいレイも手元におきました。
ゲンドウの補完計画
  • ゼーレによる人類補完計画が具体化してきた時点で、ゲンドウはこれを「エヴァとユイによるボクとみんなの心の補完計画」に仕立てようとして動き始めます。他者とわかりあえない人生を送ってきたゲンドウにとって補完とは、他者と一体化することで満たされない心を補完しすべてをわかりあうこと、すなわち永遠の融和です。具体的には、レイをよりしろ(土台)としてリリスと自分+アダムを融合させ、そこへエヴァ初号機を取り込むことでユイとも同一化して永遠に生きようという計画です。こうすれば、自分やユイを含めもう誰もさびしいなんて思わないはずです。*4
  • ゼーレの補完計画は贖罪を重視していましたが、ゲンドウは心の補完を重視します。ここが大きな違いになります。*5
  • ゲンドウの補完計画はユイの計画とかなりの部分でリンクしているので、エヴァ覚醒→S2機関取り込みなんて大イヴェントが起こると「とうとうユイが目覚めた!もうすぐ君にあえるんだね!ワクワク!」という気分になってしまい、ニヤニヤ笑いが止まりません。
  • しかし最後の最後でレイに同化を拒絶され、右腕とともにアダムを奪われてしまいます。これはゲンドウにとって最悪の展開です。結局、ゼーレの描いたシナリオでサードインパクトが起こり、人々がLCLと化していく段になって、ようやくゲンドウは自身のエゴイスティックな生き方を振り返り、ユイとその子供たち(シンジ、レイ、カヲル)と和解します。そして自分がエヴァ初号機に喰われるイメージで最期を遂げます。ユイとの一体化を願ったゲンドウにとって、この最期はそれなりに納得できるものだったのではないかと思います。

*1:エヴァパイロットを中心とする14歳の中学生、ミサトを始めとするネルフ若手、そしてゲンドウより上の世代

*2:若きゲンドウが何を考えていたのか微妙ですが、満たされない心をの隙間を埋めるために、何でもかんでも欲しがっていたと考えるのが良いと思います。

*3:これは典型的なコミュニケーション不全です。シンジ君を傷つけたくないというのはウソで、本当はシンジ君から拒絶されて自分が傷つくのを恐れているのです。

*4:「誰もさびしいなんて思わないはず」という考えそのものが、とんでもなく傲慢です。

*5:次回にユイの計画を解説しますが、彼女は永遠に生きることを重視しています。