ロストロポーヴィチのショスタコーヴィチ続編の巻

先日すみだトリフォニーで聴いたロストロのタコ8があまりにもすごくて感激したので補足エントリーします。でも、まずはピアノ協奏曲から。

ショスタコーヴィチ ピアノ協奏曲第1番(ピアノ:上原彩子

上原彩子って髪型を含めてルックスとか、猫背でガツガツ弾くところとか、リアルのだめ状態なんですね(笑)。以前からクラヲタ界隈では似てるという話が出ていたのですが、今回初めて実物を見て、似てるというよりそっくりだと思いました。演奏はかなりユニークで、ロストロさん椅子に座っちゃうし、上原さんは何かに憑かれたように弾きまくり状態でほとんどアイコンタクトを取りませんでした。にもかかわらず、アンサンブルのタイミングはバッチリ合っています。テンポがくるくる変わるのにここまでのシンクロ度を見せるのは、相当にリハーサルした証拠です。
上原さんで感心したのは、まず第一点にこの曲を完璧に掌中に納めていたこと。日本の売れっ子ピアニストは一見レパートリーが多いようで、こういうマイナーな曲を客演でやるときに*1音楽の全貌を把握しきれない中途半端な演奏に終わる場合が非常に多いのです。しかし上原さんにはそれがなく、完璧な曲想把握でした。第二点として、一瞬の緩みもなく高い緊張度を維持したまま弾ききったこと。演奏家の集中力が高いと聴衆の集中力も上がり、それが演奏家に伝わってさらにヒートアップする…という相乗効果が起こります。この日の演奏はそういう状態だったと思います(だから終了後はブラボーとカーテンコールが止まらない)。第三点として、演奏技術的にヤバそうな感じが皆無だったこと。弾きにくい箇所になると、鍵盤に手を持っていく直前に視線が動いて確認してました。そしてサッと手が移動して、目的の鍵盤上で一瞬静止して(余裕があるからできる技)、そこから打鍵動作が始まるんでミスタッチなんてするはずがないのです。抜群の安定性です。これはラローチャはじめ一流の演奏家ではよく見る技術で、指の動きの速さでなく、動く前の準備を早めることで時間を稼いでいるわけです。
伴奏は非常に丁寧で、曲想の移り変わりと弦の音色変化の一致が考慮されていました。まあロストロさんなので当然と言ってしまえばそれまでですが、弦の音色がいつもの新日フィルでなくロシアのオケみたいになっちゃうんですね。しかも普通のロシアオケだとアンサンブルがテキトーでアーティキュレーションなんか揃わなくても平気だったりするんですが(笑)、ロストロさんが振るとアンサンブルがビシッと決まるのです*2。あの音色と緻密なアンサンブルが組み合わさると、それはもう無敵です。起伏の大きなデュナーミクも全く無理なく自然に決まってるし、速いところはフレーズの終わりをすっきり切って一層スピード感を煽りつつ、でも明瞭なフレージングは堅持する、というかなりレベルの高い伴奏にも大満足でした。そして、そのあおりを食らってほとんど目立たなかったのがトランペットでしたね〜。ラスト近辺以外は補佐に徹してしまい、自己主張の少ない演奏だったのは良くないと思います。もっと上原さんとやりあって欲しかったなあ。ライヴ演奏でバランスやまとまりを重視しすぎると、音楽の持つ勢いとか生命力がスポイルされちゃいますね。

*1:皆さん自分のリサイタルでは気合いが入っているのですが…

*2:特にチェロパート。チェロの神様の前で弾くのですから、気合いが入らないはずがない。