You've got to help yourself. 巻

昨日の話のつづきですが、「誰か矢野顕子を何とかしてあげて」とは書いたものの、結局は彼女自身でクリアしていくしかないのかなと思っています。壁にぶち当たったり、スランプに陥ったりするからこそ人間ですよね(えらそう)。
それにつけても、80年代末から坂本龍一との関係が次第に悪化していくのと連動して、発表される作品のテンションがどんどん高まっていったのが驚きです。絶望のピークは「ピアノ・ナイトリィ」ですね。吉野氏が気を利かせてNYから離れてわざわざウィーンまで出かけていって録音してますから、それはもうすごい。このときのライヴもすごかった。彼女自身が「日常生活でふと気づく孤独や寂寥感を込めた」というような言葉でアルバムのテーマを語ったのですよ。さすがにこの人ヤバいんじゃないかと思っていたのですが、その後のさとがえるコンサートは音楽的にはかなりアグレッシブだし、ツアーパンフレットとなった書き下ろし絵本のストーリーはドス黒くて語り草になるし*1、いろんな意味でトバしまくりで、負の感情すら創作エネルギーに変換されるタイプの人なのかなと認識しました。Methenyの「Secret Story」も失恋がキッカケだったようですが、こういう形で昇華するのなら、アーティストの皆さんはどんどん不幸になって欲しいです(無責任)。
ただ、矢野さんって「ごはんができたよ」はラヴラヴ・パワー、「愛がなくちゃね」「峠のわが家」は共演者に対するミーハー・パワー、「ブロウチ」は純然たる自分自身への挑戦、みたいな感じでポジティブな感情も強力な創作エネルギーに変換するんですよね。ということは、いまは単にやる気なし子さん状態なだけで、そんなに心配する必要もないのかもしれません。一ついえるのは、あんまり洗練してほしくないということ。ライヴでもきっちり構成決めて洗練しちゃってるのよね〜。未だに即興演奏にコンプレックスを抱いていることが見て取れますが、完成度の低い、カッコ悪い演奏しちゃっても別にいいと思うんだけど。1980年代中盤の空気*2をいまだに引きずって、サウンドに完璧さを要求しているっぽい。いまは明らかに違いますので、もう少し気楽に音楽してもいいんではないかなあと思ってます。ピカピカの靴を脱いで、上手なメイクを落として、スッピンの矢野顕子を見せて欲しいです。それが脱却のきっかけになりそうな気がする。

*1:登場人物が片っ端から亡くなっていく

*2:矢野顕子は自分自身で「音楽的にもルックス的にもこの時期がベスト」と感じているらしい。