ゴーティエ・カプソンのラフマニノフ・チェロソナタがすごかったの巻

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上記のHMVレビューで私の感想と正反対のことを書いている人がいるので「世の中にはこうも感性の違う人がいるんだぞ」ということを知らしめるために、ここで大絶賛します。
私がショパンの曲とともに偏愛しているチェロ・ソナタラフマニノフソナタです。この曲はチェロ、ピアノともに非常に演奏が難しいようで(技術的にも演奏解釈的にも)、なかなか満足のできるCDがありません。私が満足できそうな演奏ができそうな人No.1だったロストロポーヴィチに関しては、なんと50年くらい前の音質の悪い録音しかなく、その後も第三楽章だけしか弾かないとか*1そんな感じでした。満足できそうな人No.2のナターリア・グートマンも「この曲は難しいし、過去のすごい人と比較されちゃうから録音したくないの。*2」と録音してないです*3。とにかく、ロシアのチェリストはみんなこの曲に対して臆病すぎ。近年になってクニャーゼフとマイスキーの録音が出たのですが、クニャーゼフは音程がイマイチなところが多い上に解釈が合わないし、マイスキーは伴奏が例のセルジオ・ダニエル・ティエンポなので切れ味が鋭すぎてラフマニノフらしいマッタリ&ドロリとした情念が希薄になってしまいます。
で、ゴーティエ・カプソンの録音が出たのであんまり期待しないで聴いてみたら、もうムンムンと体臭が匂ってきそうなほどアホみたいに濃い演奏解釈で大満足なのです。カプソン君の演奏は何度か生で聴いているのですが、上手いんだけど童貞だよね人生経験足りないというか、呼吸が浅かったり、溜めが不足していたりするイメージがありました。それがこのCDでは全く変わってしまって、きっと女でもできたんだろうさまざまな人生経験を積み重ねた深みのようなものがビンビン伝わってきます。あとピアノ弾いてる人は全然知らない人ですが、すごくうまいです。とりあえずラフマニノフ好きな人は買っておいてください。
演奏解釈についてはいろいろありますが、「そういう風に弾いて欲しかったんです!」というフレージング満載で、個人的には文句のつけようがありません。あと、終楽章の終わらせ方が最高にいい。この曲の終結部はラフマニノフにしては短く、交響曲や協奏曲のようなお祭り騒ぎ的な盛り上がりを出しにくいんですね。なので、みんなザザーーッと突っ走って終わってしまうのですが、やはり最後の「シラソソ!!」は重さというか凄みというか、「今までいろいろあった旅も、これでとうとう大団円!!」という念押しが欲しいんです。カプソン君&モンテーロさんはそれをやってくれました。どっちもフェロモンぶっかけ合うような、ものすごい演奏になっております。この二人って、ぶっちゃけデキてるよね。単に息が合っているとか、十分にリハーサルを繰り返したとか、そういうレベルでない音楽的な親密さが感じられて、とてもよいと思います。他に収録された「ヴォカリーズ」「パガニーニの主題による狂詩曲から第18変奏」はカプソン君&モンテーロさんの編曲でほらやっぱりデキてるソナタと比べるとあっさり目の小品として弾いています。

*1:伴奏はホロヴィッツで、奇跡のような演奏です。

*2:ロストロポーヴィチの50年代の録音を指しているっぽい。

*3:生演奏では聴きました。伴奏はかのエリソ・ヴィルサラーゼで、素晴らしい名演でした。