ピアノ・ルネサンスのスターたち エマールの巻

BSのハイビジョン・ウィークエンドシアターでやっているシリーズで、1回目がアムラン、2回目がペンティネン、そして3回目がエマールでした。アムランもペンティネンも「ふ〜ん。それで?」といいたくなる内容の薄さだったので、もう見るのやめようかと思ったのです。しかしエマールさんはすごかった。
エマールというと、アーノンクールとの共演のベートーヴェン・ピアノ協奏曲全集がアレな感じで、それ以降あんまり好きなピアニストじゃないんです。でも今回の番組で弾いていた現代曲は見事だし、ベートーヴェンピアノソナタ31番なんかもう泣きそうになるほどの名演。もう何度も書いているようにベートーヴェンの最後の3つのソナタは至高のピアノ曲なので、誰が弾いても感動することに変わりはなかったりするんですけどね。ポリフォニーの各声部を1台のピアノで多層的に弾き分ける、というのがコンセプトのプログラムの最後にもってきたのがこのソナタ。案の定、終楽章のフーガの声部の明晰な表現がすごい。後半どんどん盛り上がるのに、見通しはクリアで進行。この曲はクリスティアン・ツィメルマン内田光子といった超一流どころの演奏を聴いているので、そこそこの名演奏では驚かないのですが、今回エマールさんはツィメルマンを超えているように思いました。実はツィメルマンは多層的な表現があまりうまくないというか、同時に複数の音色を操るとかそういうことを意識しないタイプのピアニストで、その辺が弱点でないかと思うのですが、エマールさんの流儀がだとポリフォニーの各声部を違う音色、違うフレージングで弾くんですね。このタイプのピアニストはベートーヴェンは合わないことが多いんですが、エマールさんの奏法がフランス流派とドイツ流派のいいとこ取りになってるので問題がないんです。そんなわけで、あらためて感心した私でした。エマールがあんなにベートーヴェンに入れ込んでるとは思わなかったので、嬉しい誤算です。