肺がんってすごくこわいんだよ、の巻

医療系職業の端くれとしていろいろ怖い病気のことを調べてきたのですが、肺がんって本当に治りません。ガンは、治らない=死です。それも3年以内とかそういう短期間に、確実に訪れる死です。*1肺がん以上に予後の悪いガンって、あまりありません。ぱっと思いつくのは膵臓がんとグリオブラストーマ*2くらいです。ちなみにグリオブラストーマは事実上治療法がなく、大半の患者さんが1年以内に亡くなります。
肺がんに効く抗がん剤もありますが、完全に治るわけではないです。生存期間が数ヶ月延びるとか、そのくらいです。しかもとても高価です。副作用もあります。そんな薬に、はたして社会的な存在意義あるのか?いつも自問しながら仕事してます。弊社は抗がん剤を売っていないんですけどね(苦笑)。慢性骨髄性白血病に対するグリベックのように、人類の英知の勝利ともいっても過言ではない医薬品が出てきましたので、この業界も21世紀らしくなってきたと実感していたのですが、最も死亡者数の多い肺がんに対する状況がこのざまではどうしようもありません(涙)。
本質的(あるいは分子生物学的)には、ガンは遺伝子の病気といえます。なので、異常な遺伝子を排除することでしか、完治はありえません。外科手術や骨髄移植は原因遺伝子を排除する治療法といえます。一方、グリベックのような分子標的薬は、異常遺伝子から産出されるたんぱく質をターゲットにしていますので、限りなく原因療法に近く、副作用も低減させやすいといえます。遺伝子はまだ完全に解明されていないことも多い上に、生きている細胞内のDNAを直接改変するのはいろいろな問題があって現状では非常に難しいので*3、分子標的薬のようにDNAやRNAから一歩引いたところで対策を立てるというのは、合理的な戦略です。こうして生まれたのが、イレッサです。
とはいうものの。皆さん、お願いですから禁煙してください、と申し上げるしかありません。禁煙すれば確実に肺がんで死ぬリスクが減少します。人間はいつかは死にます。これは仕方がありません。ですが、肺がんにかかって死ぬのは本当に大変なんです。肺がんで死ぬというのは、数ヶ月〜数年で徐々に呼吸困難が増強して窒息死する、ということとイコールです。人間にとって、呼吸困難は最高に強力なストレスであり、苦痛です。すぐには生命に危険のない程度の呼吸困難でも非常に辛く感じるのは、それが生命維持にとって欠かすことができないからです。そんな辛さが、最期の数週間〜数ヶ月、延々と続きます。安らかな最期なんて望めません。これが私が肺がんがこわいと思う、最大の理由です。禁煙ファシズムは私も嫌いですが、肺がんリスクを回避するにはまず禁煙するしかないのです。

*1:治らなくてもそう簡単には死なない、比較的大人しいガンもありますが、今回は割愛。

*2:非常に悪性度の高い脳腫瘍

*3:遺伝子治療は前途多難です。