ホール・オペラ「ドン・ジョヴァンニ」の巻

サントリーホール。昨年のプロダクション(フィガロ)はチケットを取らなかったのですが、NHKで放映されたものを見て地団駄を踏んで悔しがるほどの見事な内容だったので*1、今年はしっかりチケットを確保しました。で、まあ、期待以上の出来。最初のうちはオケの音が大きすぎたのですが*2すぐにバランスを修正してからはもう音と歌の流れに身を任せるだけ。歌手は全員うまい上に役にバッチリ合致したキャラクターなので本当に違和感がありません。
すごいのはやっぱり指揮のルイゾッティ。レチタティーヴォの伴奏もルイゾッティがフォルテ・ピアノを弾くのですが、歌手の芝居にしっかり合わせる上に即興も入るというすごさ。そもそもドン・ジョヴァンニレチタティーヴォが飽きやすいオペラです*3。なので、いかに緊張感をもってレチタティーヴォを歌わせるか、というのが音楽表現上とても重要なんですけど、今回の公演はバッチリ文句なしでした。そしてオケの伴奏は表情付けがものすごく細かく、微妙な感情表現しまくりでした。私が大好きなエルヴィーラのアリア「あのろくでなしは私を裏切った」とその前振りのレチタティーヴォにおける複雑な感情表現を見事にオケ伴奏で作り上げていたので本当に感心しました。*4
総じて第二幕の音楽の掘り下げ方が深く、非常に感動しました。消え入るようなピアニッシモの伴奏の中から歌と呼応する弦や管楽器の対旋律がフワッ、フワッと浮かび上がってきたり、緊迫した場面で不協和音を急に強調したり、低音を唸らせたり。とにかくデュナーミクが自由自在、それについていくオケの反応も非常に速い。だいたいデモーニッシュなフレーズはそれなりに溜めた入り方をするんですが、フレーズの終わりをダラダラ延ばさないので重くなりすぎない。ベートーヴェンモーツァルトの違いはここです。終盤のクライマックスは盛り上がりっぱなしになりがちですが、ここでもフレーズの押しと引きをしっかり打ち出して渦巻くような暗く激しい情念を表現していました。っていうか騎士長怖すぎ&白すぎ。しかしカンタービレとはどういうことか、歌うような演奏、語るような演奏とはどういうことか、「それはこういうものである」というのを3時間、一瞬の気の緩みもなく表現しつくした演奏だったと思います。文句のつけようがない。日本のオケは基本的に聞く価値は無いんですが、ルイゾッティみたいな指揮者だと別物になります。理由はね、演奏しているところを見れば一瞬でわかるんだけど、女性陣の目が全員ハート型なの(笑)。みんなルイゾッティに恋してるの(笑)。そんな状態でドン・ジョヴァンニを演奏したら悪くなるわけがないよね、というただそれだけの話。なんだけど、オケのメンバーを惚れさせる指揮者ってすごいと思いませんか。まあルイゾッティは典型的なイタリア人の伊達男みたいで、いつでもフェロモン全開だけどな。それが嫌味じゃないんだな〜。降参です。
演出に関しては批判もあるようですが、私はそんなに悪くないと思いました。とりあえず、このプロダクションもTV放映されると思うのでぜひ見てください。ちなみに来年は「コシ」です。
なお、こちらのニュースで写真が見れます。ドン・ジョヴァンニがイケメンで、説得力がありました(笑)。

*1:どうせ日本のオケだし…と見くびっていたらルイゾッティの指揮が超絶奇跡的で、東フィルが別のオケに生まれ変わってしまった。

*2:オケの皆さん、やる気出しすぎです。

*3:アリアは名曲そろいなのですが

*4:エルヴィーラは、第一幕はドン・ジョヴァンニに振られてストーカー化した変な女、という位置付けですが、第二幕になると放蕩な生き方の彼を本気で心配し愛していることが判明します。そのアリアが「あのろくでなしは私を裏切った」。