シューマン:ダヴィッド同盟舞曲集&幻想曲by内田光子の巻

昨年のソロリサイタルで素晴らしい演奏を聞かせてくれたのでかなり期待していたのですが、これは・・・もう音楽というより文学ですね。楽譜を通して伝わってくるシューマンの想いを、内田光子が代弁している世界。またその読みが深い。
以前の録音(謝肉祭&クライスレリアーナ)は、内田さん自身の自我が抑えられずに「勝気な私」「頭の良い私」「内気な私」とどこを切っても彼女の人格が投影されていて、まあそれは悪くなかったんだけれど、いまから聞くとやっぱり若い。その若さが曲調に合っていたから名演になった、という感じで、割と危うい内容だったと思います。今回はそういうことはなく、さすが年の功というかんじ。特にダヴィッド同盟の方は曲数も多くて難しいところだと思うのですが、用意周到に演奏計画を練り上げつつ、それを感じさせない自然体がいいと思います。幻想曲は去年のリサイタルの時より一段と表現が深まっていて、本当に感動します。ポリフォニックに展開する時の声部による微妙な音色の使い分け、アーティキュレーションの違いなど、文句のつけようがありません。日ごろテクニカルな面ばかりに目が向きがちな私たちですが、たまにはこのCDの幻想曲の第三楽章を聴いて反省すべきだと思いました(笑)。
あ〜、それにしてもすごい。なんてすごい人なんだろう。サントリーホールでリサイタルをやるたびに、聴衆が熱狂しまくるのもわかる。シューマンの幻想曲で熱狂よ?アンコールのベートーヴェンの30番で熱狂よ?どうなってんのよ(笑)。昔はこんな感じじゃなかったんだよね。もっと尖ってて、厳しい音楽で、ぶっちゃけ苦手でした。それがいつの間にか懐が深くなって、より表現の密度を増して、気付いたら超一流ピアニストになっちゃった。まさかこんな晩成型だったとは、びっくりです。