上原ひろみの打鍵力の巻

「アナザースカイ」という番組でラーメン好きピアニスト上原ひろみが打鍵力を見せるために、ピアノを弾く要領でテーブルをカタカタと叩いていました。女性としては驚きの打鍵力だと思いました。それでワタシも真似してみましたが、彼女と同じくらいの勢いでできましたwていうか半年以上ピアノ弾いてなくてかなり衰えたと思っていたのに、相変わらずこの打鍵力。私は仕事中でもデスクの上をピアノを弾く要領でリズミカルにダダダダダダダダッと叩くクセがあります(テンポ140くらいの16分音符。速いです)。まさにそれです。私のこの動作は音量が大きい上にアタック鋭いので、いつも、あ、ヤバイやっちゃった、と思って中断するのです。16分音符連打ではなく、タッタカタッタカだったり付点だったり、3連−16分の組み合わせだったり、そのときの気分でいろいろ叩きます。

この指先パーカッションができるかどうかが、ピアノ演奏の鍵なんです。

これはずっと以前から書きたかったことです。ピアノ演奏の鍵はいくつもあると思うのですが、打鍵力はよい音色を出すためには必須なので、とても重要です。
10年くらい前、とにかくラクに弾きたかった私は異様に脱力しまくった状態でピアノを弾いてました。速くラクに弾けるんです。でも音色に芯がない上に伸びがない。そこで登場したのがやっぱり浜野先生。「ねえ、指先までチカラ抜きすぎじゃない?あたしはこのくらいの力で弾いてるよ!」と私の背中の上でドカドカドカ!と指先パーカッションしちゃう先生。いたたたた、と思わず言ってしまうくらいの勢いです。本職はこんなに圧力をかけて弾くんだ、とカルチャーショックでした。それからは脱力しつつ指先だけをしっかりとさせて、鍵盤の底までフォルテで打鍵し続ける練習をしました。というか、そのときどきに弾いている曲にそういう練習を織り込みました。はじめのうちはすぐ疲れるし、筋肉痛になるし大変でした。しかし1〜2週間で苦労に思わなくなり、以降は大音量を持つ生徒として今日まで君臨するのでありました。以上のことには、さまざまな示唆が含まれます。

  • 脱力しきった奏法はラク。だから、打鍵に使う指以外は全部脱力する。⇒各指の独立が大前提になる
  • 芯のある音色を出すには速い打鍵速度が必要。
  • 圧力(打鍵後の保持力)も必要。これがないとペダルなしでレガートするときに音が途切れやすい。
  • 打鍵速度は指を上から落とすのではなく、鍵盤に触れた状態からの瞬発力で発生させる。
  • 男性ホルモンの影響により、男性ほど短期間で筋力がつき、しかも低下しにくい。
  • 女性は筋力がつきにくい上に、3日程度休むだけで筋力が低下する。

まあそんなわけで、男性の私が大した苦労をしないで得てしまった打鍵力を、上原ひろみはおそらく血のにじむような努力で掴み取っていると思います。矢野顕子さんは肘を使った奏法では打鍵力がありますが、指先で連続したフレーズでの打鍵力が弱く、速いパッセージになると音が伸びてきません。いままではそれでも実用上影響なかったのですが、上原さんと組むようになって弱点が表面化していろいろ苦労しているようです。「ラーメン食べたい」のライブ映像を見ても、速くて押しの強い音色が必要なパッセージはすべて上原さん担当になっていました。その一方、肘で弾けるリズミックでダイナミックなコード・バッキングは矢野さん担当でした。このデュオはお互いの欠点や長所を知った上でアンサンブルを作っていて、完成度がとても高いと思います。