ヱヴァQで地味にすごいと思ったこと

ほかのサイトやブログであまり言及されてないと思う点をいくつか指摘してみます。

  • リップシンク/ピアノシンク
    • リップシンクは、台詞や歌に合わせて口の動きをシンクロさせる手法。こういうドラアグクイーンで有名(違
    • AKIRAのように、口唇やあごの動きを細かくガッツリとシンクロさせるとすごく気持ち悪いので*1、気持ち悪くならないギリギリの範囲で口唇の動きをシンクロさせてます。
    • この手法を取るためにはプレスコ*2が必須でした。エヴァはもともと限りなくプレスコに近く、かなり早い段階で声入れが行われるようですし、アニメ制作がコンピュータベースになって、口パクのタイミングの修正がやりやすくなったことで、リップシンクロがしやすくなったと思います。
    • なぜQでここまでリップシンクロをさせたか?という点を読み解くことが重要(かもしれない)。
    • この映画の中間部がほとんどシンちゃんと他のキャラの1対1会話だけで成り立っていて、ものすごく地味なので、地味なりに力のある画面作りをする必要があり、そのために必要以上に細かな演技をさせたかった、という演出的な理由。
    • リップシンクロすると、なんか色っぽくていいよね、という演出的な理由。┌(┌^o^)┐ホモォ…な演出にしか生きてないのではないかと思いましたが、それは私やあなたの目が腐ってるからです。
    • ピアノ演奏で弾いてる鍵盤と音が完全に一致している件は以前にも書きましたが、これは本当に感動しました。ピアノをやってきた人なら感激もののシーンではないでしょうか。
  • 安っぽいCGの使い方
    • 崩壊する物体の破片を、大きさのそろった六角形や立方体で表わしている場面があって、これを手抜きとみるか演出と見るかで評価が変わってしまうと思います。
    • 自分はシュルレアリスティックな表現を意図した演出だと捉えています。つまり、そもそもアニメはマンガなのだから、いくらリアルに描いても所詮はマンガ。であるならば、あえて均質化させたオブジェクトを見せることで、観客に様々な想像を喚起する、というような。
    • これは旧エヴァでよく見られた手法で、そういう点では先祖がえりなような気もします。旧エヴァのころは純粋に予算と制作時間がなくて、長い止め画や線画のみのカットが入っていたようですが、今回は予算も制作時間も潤沢なはずなので、後ろ向きな理由は考えられません。
    • あの映像を手抜きと見て、制作時間がなかったのでは?と考える人もいるようですが、先に述べたリップシンクロのような手間のかかる編集がなされていることを考慮すると、スケジュール的に切羽詰っていたとは考えにくいものがあります。
    • 均質に揃ったオブジェクト表現は、人間に対して生理的な嫌悪感を抱かせたり、感覚を麻痺させる効果があります。これは確実に意図していると思います。昆虫の複眼や、蓮コラといった映像はもちろんですが、音楽でも同じパッセージを延々繰り返す手法は当たり前のように用いられます。
  • 安っぽくないCGの使い方
    • CGでアウトラインを描いておいて、それを人がトレースして画面を作っています。よくわかるのは、ピアノです。この手法は、最近のアニメの流行らしいです。
    • ピアノをCGで描くと、鍵盤の区切り線がとてもうるさく、ロングで見たらトレス線で真っ黒になってしまいます。これを適宜省略して、すっきりと見やすい画に修正しています。手間がかかる作業です。アップで映る鍵盤も修正が入っているので、とてもリアルだけれどセルアニメ調な雰囲気がよく出ています。
    • ヤマト2199が同じことをやっていて、あまりにも手間がかかるのでひんしゅくを買ってるらしいです(笑)。その成果は、この本で見ることができます。
  • ピアノのペダルの使い方がすごい
    • 譜例)サントラ1枚目の8曲目「Qui veut faire l’ange fait la bete (piano solo) =3EM17=」

  

    • ちょっとこれ、ピアノが弾ける人はこの楽譜のとおりに弾いてみてくださいよ!ってくらいの、すごいペダルの使い方です。この曲はペダルを多く使って音を混ぜて、少ない音符にもかかわらず複雑な色合いの響きを作り出していると思います。超絶技巧曲だけではないピアノの魅力が存分に堪能できる曲です。
    • ドビュッシーをやってればそれほど驚かないペダル用法ではありますが、ラシドレミファソラシド、という音階を弾いている間ずっとペダルを踏み続けるのは、相当な勇気が必要です。これは鷺巣さんの指示でやってると思います。
    • それにしても、美しい響きですよね。こういう響きの美しさを感じ取れるようになるのが、ピアノ上達の秘訣だと思うので、指の練習だけでなく、ペダルの勉強をしながら耳を鍛えましょう。この響きを美しいと感じてはじめて「その美しさを表現するにはどうやって弾けばいいか?」という技術論が始まります。表現したいものがないのに、技術だけを学ぶのは不毛だと思います。
    • 自分は電子ピアノで弾いてますが、共鳴しないためこの響きが再現できなくて、ものすごく欲求不満が溜まりますw
    • ヤマトとかエヴァとかマクロスとか、アニメの曲がいろいろ弾けるので、ピアノを勉強していてよかった!と心底思ってます。一般ウケを狙ってナウシカとかラピュタとか、ジブリの曲も常時弾けるようにしていますがw
    • Fly me to the moonはエヴァ以前から弾いてるので、この曲を「ああ、エヴァの曲ね」と言われると、ちょっとムカツキます。この曲を知った理由が竹宮恵子のSFコメディ「私を月まで連れてって!」なので、結局はヲタク文化由来なんですが。おそらく庵野さんも同じ漫画で知っただろうと推測しますw
  • 次回予告が終わった後、(C)カラーが表示された後も真っ黒な画面がしばらく続いて、そこからおもむろに客電が灯くように作られているところ。
    • 板橋マイカルとバルト9で同じことを確認したので、たぶんすべての上映館で同じようになっていると思います。
    • この映画はそういう余韻が必要だと思うので、ありがたい配慮です。しばらく座ったまま、エンディングの余韻を味わいたい作品です。

*1:AKIRAは気持ち悪く見せるために、あそこまでシンクロさせてるので、あれはあれでお見事。

*2:声を先録りする手法。というかこの用語の意味がわからない人はもう読まなくていいw