ポリーニ/ティーレマン/ドレスデン・シュターツカペレのブラームスチクルスの巻

交響曲はきちんと聴いておらず、ポリーニが弾いたピアノ協奏曲2・1番しか聴いていないのですが、なにか書かずにはいられない名演だったので感想を書きます。

NHK-BSプレミアムでの放映で、全部で3時間半ほどの長丁場だったんですが、放映順が「出来の良いものほどうしろにまわす」という流れで、ピアノ協奏曲第2番が最初から2番目(1曲目は小品なので、実質1番目)、ピアノ協奏曲第1番が最後でした(笑)。そして、この最後のピアノ協奏曲が類を見ない名演だったのですが、まずは第2番のほうから。

ブラームスのピアノ協奏曲は2曲ありますが、どちらも上手に弾けるピアニストは、私はクリスティアン・ツィメルマンしか知りません。たとえばルドルフ・ゼルキンは1番で名演を残していますし(小中高時代の愛聴盤*1)、ポリーニアバドとやった2番が良いです(これも愛聴盤)。

さて、ピアノ協奏曲第2番は円熟期の作品で、交響曲と遜色のない4楽章構成の大曲です。しかしこの2番は、ピアノパートが演奏効果に乏しいくせにやたらと難しいという、ブラームスのピアニズムの悪いところが集約されたような難曲ということでも有名です。ちなみにオケもかなり難しく、冒頭からソロを吹くホルンは特に緊張すると思います。
近年ピアノ演奏技術の衰えが指摘されるポリーニが、この難曲をどのように弾くのか、そもそもまともに弾けるのか、かなり心配になりながら見ました。結論的には、第一楽章はろくに弾けず、第二楽章以降も弾くだけでせいいっぱい、といったところ。ティーレマンの超絶サポートのおかげで、流れを失うことなく最後まで弾ききることができた、という感じでした。ティーレマンは本当に素晴らしく、第四楽章の絶妙な付点音符のリズム感は、付点の演奏が甘いポリーニをうまく乗せていたと思います。この演奏の殊勲賞は、間違いなくティーレマンです。

そして問題の第1番。
この曲も、特に第一楽章がやたらと長く(でも大好き)、オクターブのトリルがあるのでピアニストにとっては嫌らしい楽章です。ポリーニも、主題提示部冒頭のオクターブのトリルの速度が全盛期より3割くらい遅く、「あ〜あ、やっぱりね」と落胆したんですが、しかし、非常に丁寧に弾いていて、全体として好感が持てました。また、ティーレマンの指揮がめちゃくちゃ上手くて。第一楽章は4分の6拍子なんですけど、ほとんどの指揮者は1・2・3・1・2・3という感じで3拍子にしか聞こえないんです。これがしっかり「1・2・3、2・2・3」という複合拍子に聞こえるわけです。そうなったことによって、曲調がどう変わるかというと、単に重苦しいだけでない、どこか舞曲のような不思議なグルーブ感が生まれ、それが感情表現となって聞き手や伝わってくるんですね。こういう状態になると、もうオーケストラもピアニストも、ティーレマンが生み出す気持ちよい流れに乗って、どんどん演奏が良くなっていくんです。第一楽章は展開部で完全に流れに乗ってしまって、ポリーニさんも顔を真っ赤にして全体重を鍵盤にかけながら再現部に突入です。そうしたら、提示部なんて目じゃないほどトリルが速く入るわけよ(笑)。もうこの段階で、先々の楽章まで期待できてしまいます。
あとはもう、あらステキ、う〜ん素晴らしい、うわあカッコいい、と褒め言葉しか出てこない演奏でした。第2番のときは演奏で手一杯だったポリーニも完全に没入して、ピアノを弾かない場面でもオーケストラに合わせて体を揺らしまくるし、第二楽章は盛大にメロディを歌いながら弾いてくれるし。ゼルキンが降りてきたのかと思った。協奏曲でこんなにノリノリな彼を見るのは初めてでした。第三楽章は見事に燃え上がる演奏で、中盤以降ずっと目頭が熱かったです。演奏終了後は、第2番のときには出なかったブラボーとスタンディングオベーション。聴衆も、わかるんですよねぇ。万雷の拍手を浴びながら、ポリーニさんはずっとティーレマンを立てていましたが、確かに素晴らしい指揮でした。自分が聴いた中で、この曲のベストの演奏だったと思います。
いやあ、しかし、衰えたといわれていたポリーニさんがこれほどまで情感豊かで熱く、しかも対旋律とか細部にもしっかりと気をつかった演奏をしてくださったことに驚きました。ピアノの音色の種類も、以前より増えたように思います。感動しました。
ティーレマンは響きの重心のコントロールが抜群に上手いですね。ドレスデンのオケを、ウィーンフィルのように踊らせたり、ベルリンフィルのように重厚に吼えさせたり、自由自在に鳴らし切ってました。この人の伴奏で弾いたポリーニは、さぞかし気持ちよかったんではないでしょうか。

CD出てます!

ふたりともいい顔してるなあ。

*1:暗い音楽が好きな子供でしたw