フィリップ・ヘレヴェッヘ指揮ロイヤル・フランダース・フィル

第九だけ聴きに行こうと思っていたのですが、どうせなら運命も聴いてみようということですみだトリフォニーへ。パンフレットには「ヘレヴェッヘといえば古楽器、と思われるかもしれませんがこのオケは現代楽器ですからお間違いなく」みたいな文言が書いてあったのですが、要所要所にはしっかり古楽器古楽器エッセンスが見て取れました。当方が確認したのは以下のようなもの。

  • トランペット:ナチュラルトランペットでした
  • ティンパニ:少なくとも現代のものじゃありません。バチも見たことない物を使ってました。
  • 弦:バイオリンはガット弦。ビオラ以下はよくわかんない。
  • 編成:弦は対向配置で中央奥にコントラバス。管も左にホルン、右にトランペットという対向型。
  • アーティキュレーションは完全に古楽器タイプ。
  • 使用している楽譜はベーレンライター新版。

以下感想をつらつらと。
1.第8番
第一楽章はアンサンブルが揃わないwラッパの鳴らし方がアーノンクールっぽい。第二楽章からまともなアンサンブルになる。完成度が非常に高い上に、ベートーヴェンにしては珍しい知的ゲームのような曲なのでおもしろい。
2.バイオリン協奏曲
ほとんどソリストの方を見ないで指揮してるのですが、オケとソロのデュナーミクがバッチリ一致してるので相当にリハーサルしたものと思われ。こんなに協奏曲の指揮がうまい人とは思わなかったので嬉しい誤算。後で考えてみたのですが、ソロ楽器=ソロ歌手に置き換えて、いかにバイオリンの歌を聞かせるか考慮すればおのずとああいう指揮になるという結論に到達。
3.第5番
まさに爆演。第一楽章入りの「ダダダダーン」のフェルマータを正確に2倍の長さにして(指揮棒を振ってカウントを取っていた)インテンポな感じを保ち、あとはもう攻めまくる。アインザッツは猛烈に速く、強く、きつい。第二楽章でヘレヴェッヘらしい美しい歌を聞かせてくれるが、第三楽章はまたギリギリの高速。トリオのフガートなんかもうオケメンバーみんな必死。フィナーレはお祭り騒ぎ。運命動機をこれでもか!これでもか!と叩きつけられる快感を存分に堪能させていただきました。脳内麻薬出まくり。ブラボー。

マクロ的な観点だと8番はアーノンクール、5番はカルロス・クライバーの影響が大きいと思います。5番のフィナーレなんか、物凄い勢いでダダダダン!ダダダダン!と畳み掛けてくる熱狂の渦に巻き込まれて、もうあまりにも気持ちよくて死にそうだったのですが、クライバーの5番を聴いた人もこんな気分を味わったのかなーとかね、ちらっと感じました(連れもクライバーの演奏を想起した模様)。ただディテールは隅々までヘレヴェッヘ流が貫かれていたと思います。速いけれども呼吸をしっかりとってしっかりアーティキュレーションを意識して弾いているところとか、騒音的にやってるようで裏で鳴ってる木管が聞こえてきたりする絶妙な音量バランスとか。やるなーすごいなーと思わせるポイントがたくさんある演奏会でした。自分はベートーヴェンの曲の演奏についていろいろ考えている最中なのですが、明快な回答をひとつ提示してもらったと思います。