ベートーヴェン ピアノソナタ12番第一楽章の巻

詳細編ということで。この曲の第一楽章はテーマ+5つ変奏です。中でも第2、第4、第5変奏はちょっと注意が必要です。第2変奏は左手が2声体になってオクターブや跳躍など演奏技術的に高度になることと、旋律が裏拍に潜んでいくのがポイントです。技術的な問題を解決すれば、あとは旋律とバスを意識すればよさそう。第4変奏は左右の手のリズムが弱拍で食い合う表現が難しく、「スケルツァンドだけれども、スケルツォではない落ち着いた雰囲気」を出したいところです。あと第5変奏だけ演奏技術的に1ランク上がるので、表現の密度が落ちないように十分にさらっておかないといけません。
演奏表現からみると、この楽章は全体的にデュナーミクの指示がとても細かいので、見落とさないことが重要になります。1小節でクレシェンドしてフォルテ→すぐピアノ、みたいな表現が頻繁に出てきます。いわゆるsubito p(スビト・ピアノ:急に弱く)なんですけど、ベートーヴェンは「subito」を書かない人なのでどの程度のタイミングで「急に」弱くしたらいいのか、表現のニュアンスが難しいです。インテンポなままガクッと音量を落とすと不自然ですから、アゴーギクと合わせて表現を考えなければいけません。クレシェンドしつつ少しテンポを落とし、直後にわずかに間をおいて(ブレスを入れる感じで)フッと音量を落として元のテンポに戻すのがよさそうです。こういうことをするとロマン派っぽいと言う人もいるようですが、むしろこれこそが古典派の基本的なアゴーギクだと思います。古典派のアゴーギクはフレージングやデュナーミクに従属し、それ以外のアゴーギクは楽譜に指示がない限り基本的に不要というのが私の考え方です。フレージングやデュナーミクに追従するアゴーギクまで否定してしまっては、生き生きとした演奏はできません。