内田光子のモーツァルト:ピアノ協奏曲第20番&27番の巻

昨年の来日公演で聴いたプログラムと同じ曲目のCDです。デッカということで少し心配していたのですが録音は非常によくて、内田さんの繊細なピアニッシモからズシリとくる低音のフォルテまでしっかり再現しています。特にウナコルダを踏み込んで作り出す弱音のニュアンスの再現度が非常に高く「そうそう、この音色を聴いたんだよね」と思えますので、満足度が高いです。
演奏内容は生演奏より丁寧というか、若干テンポを落として精度をあげている感じです。特にオーケストラの部分がより緻密になっていると思いました。ピアノパートはもともと超緻密なのでどうでもいいです(笑)。ただ、生演奏とこのCDのどっちが好きかというと、私は生演奏を取ります。そのくらい凄かった。実演はまさに一期一会。あの夜の内田さんの放出していたものすごいオーラを体験してしまうと、もう何を聴いても「あの日はすごかったよなあ」と比較してしまってダメです(苦笑)。
内田さんは近年いろいろな人から絶賛状態で、日本国内でもようやく「全く別格」「日本人ピアニストの中では突出している」「世界的に見ても5指、いや3指に入るほどの名ピアニスト」と、その卓越した腕前が正当に評価されるようになりました。私としては、これだけの音楽構築力をもち、弾きぶりとはいえ指揮もできる人は、通常だったら指揮者に転向してしまうと思うのです。オーケストラにはそういう魔力があるようですし。でも、内田さんはピアニストに踏みとどまってくれています。この見識、この判断には心から敬意を表したいですし、まだまだ内田さんのピアノを聴ける機会がいっぱいあることに感謝したいと思います。