ラヴェル ピアノ曲全集の頂点が決定しましたの巻

現時点&自分の中での頂点という意味ですが、スティーヴン・オズボーンの全集は、多くの録音の中で唯一ロルティ盤を超えるレベルにあると思えた、最高の録音だと思います。どの点でロルティを超えたかというと、それはもっぱら演奏表現の部分です。とにかく自分の好みにバッチリ合っている理想的な演奏で、そのうえでいままでラヴェル関連のCDで味わったことがない新鮮な感動が得られたことが、評価爆上げの要因です。
また曲順がよいです。1枚目はガスパールから始まって、ソナチネ、幻影または鏡、と内面を掘り下げた後に、ラ・ヴァルスで華々しく締める。2枚目はクープラン様式の追悼曲で始まって、小品をさまざま聞かせてから、高雅で感傷的なワルツで締める。といった具合。

ピアノ演奏技術的には文句のつけようがありません。1音たりともおろそかにしないのがモットーと思われる、異常なまでに精度の高い演奏です。一寸の隙もありません。こういう傾向のピアニズムは、ともすればガチガチの硬い演奏になりそうなものですが、そうならないのがすごいと思います。
演奏表現面では、まず楽曲分析が抜きんでていて、それをもとにアゴーギクデュナーミクやリズムの扱い、アーティキュレーションを徹底的に磨き上げている感があります。オンディーヌの嘆き悲しみ、絞首台を取り巻く絶望的な孤独、道化師の悲哀、メヌエットやワルツは舞曲として表現しつつ曲による個性の弾き分けができている、などなど高評価ポイントを列挙しだすときりがないです。全体としては精細で繊細な演奏で、消え入るように終わる曲の余韻がいいです。しかし一方ではfffは大爆発というか、来てほしいと思うところではしっかりとピアノを鳴らし切ってくれます。フォルテで終わる曲はどれも完全燃焼で、爽快感ばっちりです。道化師、ソナチネトッカータ、ラ・ヴァルスなどの終わり方は、とても感動しました。大音量を出せる人は大勢いますが、胸が熱くなるようなフォルテを弾く人は、なかなかいないです。
私はラヴェルのことが大好きで、おこがましい言い方ですが、オズボーンの演奏も自分と同質の作曲者に対する深い想いが伝わってくるように思えます。先に「自分の好みに合っている」と書きましたが、自分がラヴェル楽曲分析で積み重ねてきた演奏解釈が、完全に具現化されている録音だとも感じています。休符や間の取り方までドンピシャなので、勝手に「このピアニストはきっと自分と同じことを考えているに違いない!」とか思ってます(笑)。

最近も相変わらずラヴェルのCDを聴きまくっていまして、「音楽図鑑CLASSIC」のほうに載せていないものもたくさんあります。オズボーンの全集はだいぶ前に聴きましたが、あまりにも素晴らしいので、さっさと他人に教えてしまっては惜しいと思って、ずっと隠していました。実はamazonのレビューでは一足先に絶賛中(笑)。

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