キリル・ゲルシュタインのリスト超絶技巧練習曲集の巻

 

フランツ・リスト:超絶技巧練習曲集[SACD-Hybrid]

フランツ・リスト:超絶技巧練習曲集[SACD-Hybrid]

 

 先月、樫本大進さんのヴァイオリン・リサイタルを聞きに行きまして*1、伴奏をしていたのがこの人です。打鍵コントロールが精緻でものすごくうまいので、会場で売っていたこのCDを購入しました。

感想はアマゾンレビューに書いたとおりでして、演奏技巧がどうのとかそういう次元でなく、「巡礼の旅」を聞いているような不思議な気持ちになりました。この練習曲集から、後にリストが追求し始める詩的な(あるいは宗教的な)幻想性を感じ取って表現するという極めてユニークなアプローチです。なので全体的にテンポが遅くて、全12曲で70分以上かかりますが、けっしてノロノロした演奏ではないし、じっくり腰を据えて聞くことができます。

リストの超絶は演奏効果が高い曲が多くて、若いピアニスト、特に近年のロシアの男性ピアニストがそちらに注力した演奏を披露しています。それはそれで面白いんですけど、CDを購入しても愛聴盤にはなりえなかったんですね。この録音は、テクニックがその存在を感知させないレベルにまで昇華されていて、リスト超絶としては初めての愛聴盤になりました。

ゲルシュタイン氏は出身はロシアですが、中学生くらいでアメリカに渡ってそこで勉強しているためか、いわゆるロシアのピアニズムとは異なります。樫本さんとのデュオでもドイツ系の拍節感を披露していて、この超絶も間のとり方がドイツっぽいです。アルフレッド・パールのような傾向のピアニストだと思いますので、ベートーヴェンシューマンなど独墺系の作曲家との相性もよさそうです。

*1:大変素晴らしい演奏会でした。若い頃の彼を知っているものとしてその成長ぶりというか化けっぷりと、ストイックに音楽を追求するという芯の部分は変わっていないことを目の当たりにしてとても感動。