久しぶりのババカン。杉並公会堂での演奏会でした。
・ショスタコーヴィチ 祝典序曲
・シベリウス 交響曲第5番
・カリンニコフ 交響曲第1番
・アンコール:カリンニコフ 交響曲第1番より第二楽章+第四楽章抜粋
ラフマニノフが支援したということで名前だけは知っていたカリンニコフ。曲を聞けばすぐわかるように、チャイコフスキーとラフマニノフをつなぐ人でした。対立的な2つの主題がフィナーレのコーダで同時に演奏されて盛り上がるという構造は、ラフマニノフの協奏曲や交響曲にそのまま受け継がれます。
ただ自分的にはシューベルトのような和声進行に心を打たれました。ここでその和音を使うか~というようなことをやるんですけど、それを絶妙に強調する演奏が良かったです。
譜例は第四楽章のラストで、ト長調トニカへの移行の途中でE♭の音を入れてくるのがポイントです。減五度の跳躍でE♭を強調していますね。♭六の音です。これはフラットさせないふつうのEだと明るく前向き一直線な印象になるけど、フラットさせることでハ短調の切ない響きが生まれます。さらにA(ハ短調の六の音)が入っているので哀しいだけではなく、泣き笑いのような絶妙な哀愁が表現されます。たった1発のコードでそれが表現できます。つづいてフラットを取ったEをバンバン使っていよいよ終わりに向かうのですが、そこで二度目に出るE♭。今度は内声に隠れて上がAになるので、笑いの中にちょっとだけ痛み。その痛みすら肯定するかのようにシに上がってからソで終わるという流れです。
最後の二分休符についているフェルマータまでちゃんと表現していたのもよかったです。余韻は大事。青春の回想の曲なのでしょうか。
あと指揮者の方の感性だと思いますが、アンサンブルを合わせることよりも各パートの流れを重視していたので、音楽に躍動感があってよかったと感じました。
ベートーヴェンとシューベルトの器楽の違いって、こういう部分だと思うんですね。完全勝利で終わるベートーヴェンと、痛みを残すシューベルト。カリンニコフが参考にしたと思われるチャイコフスキーの交響曲5番も最後は大勝利で終わるんですが、カリンニコフにとってこの曲は初の交響曲ということで、一捻りしたかったのかもしれません。