このブログにはたびたび登場するピアニストのオズボーン氏の新譜です。
昨年リサイタルを聞いておりますが、そのときに2020年はプロコフィエフを弾くという情報を入手していて、楽しみにしていたところでした。おもったより早くCDがリリースされました。
みなさんが興味がありそうな7番から書くと、フィナーレのプレチピタートは3分10秒程度で弾ききっています。ポリーニと同程度ですね。これを上回る動画(3分ジャスト)を下記に貼っときます。ものすごく軽々と弾いてますねw
Argerich - Prokofiev: Sonata in B-flat, opus 83, Precipitato
このフィナーレは再現部の中盤以降でひどい跳躍があるので、ポリーニにしても上記のアルゲリッチにしても一瞬遅れるフレーズがあるのですが、オズボーンはちょっと溜めたかな?程度にとどめていてそのまま加速しながらコーダに突入するので笑ってしまいました。
順序が逆転してしまいましたが6番について。
6番はベートーヴェンを思わせる苦悩~闘争~勝利という構成を俯瞰したような表現になっていて、(作曲当時の事情を反映したであろう)グロテスクさや熱狂といった感情を全面に出さずに、透徹した冷めた目線を感じさせます。あとお得意の爆音が炸裂しまくっております。このピアニストはぜひ生演奏を聞いてほしい。耳栓して演奏するのも無理のない大音量です。
8番はおそらくこのCDでもっともよい演奏がなされた曲だと思います。
この曲もベートーヴェン風(月光ソナタのように緩徐楽章から開始する)の曲で、先進的な7番と比較すると古典性を強めたようなところがあります。それでも第1楽章の展開部のグロテスクな混沌(きちんと統制されてはいる)は、プロコフィエフならではだと思います。この混沌の中で打ち鳴らされる主題は6番の第1楽章と同じ書法なので、6~8番はセットで考えたほうが良いのかな、と思ったりします。第2楽章はよく知られるようにエフゲニ・オネーギンのメヌエットを転用したもので、弱音を主体にして声部ごとに音色を使い分けてポリフォニーを表現する技術が卓越しています。フィナーレは文字通りのヴィヴァーチェで元気よく弾ききって、爆発的な終結となります。
全体的に動機の表現があっさりしていて(ぶっきらぼうというわけはなない)、ロシアのピアニストにありがちな粘っこさや陰影の深さはさほどなく、スタイリッシュさが際立つプロコフィエフだと感じました。楽曲が作られた裏事情などは忖度せず、楽譜にだけ向かい合うとこういうふうになると思いますし、新古典派の楽曲解釈として大変すぐれていると思います。