スティーブン・オズボーンのラフマニノフ関係CDの巻

またまたスティーブン・オズボーン氏の登場。今回はラフマニノフ関係のCDです。

オズボーン氏はどちらかというとカンタービレがあっさりしているピアニストなので、ロマンティシズムや感傷性の表現は抑えめで、純音楽的な演奏だと思います。その一方で、きわめて充実したフォルテを出せる人なので、雄大な表現を味わうことができます。

こちらのCDは選曲がコンセプチュアルです。メトネルの小品+ソナタop.53-1とラフマニノフソナタ2番はどれも変ロ短調なんです。その 合間にコレルリ変奏曲が加わっています。
ラフマニノフの2曲は見通しの良さに関しては文句なくナンバーワンです。音符が多くごちゃごちゃしやすいフレーズもしっかり整理して演奏できるので、常に余裕があるのがその要因ですね。特にソナタ2番のフィナーレはオズボーン氏の特徴である胸が熱くなるようなフォルティッシモを存分に堪能できる名演です。

前奏曲集はop.3-2の鐘から始まって、op.23とop.32が収録されています。これも実に見事でして、楽曲ごとのキャラクターの弾き分けなど本当に鮮やかで感心します。ただ欠点があって、あまりにも楽譜どおりにビシッと弾ききっているので、ロシアらしくないというか、寒さや厳しさといった表現が若干弱いと感じます。たとえば有名なop.23-5などは、ロシア人ピアニストだと主部の凍てつく寒さの表現と、中間部の濃厚な歌いまわしの対比がいかにもロシア風で良かったりするんですけど、そういうことはしないんですね。でも表現がおざなりというわけでなくて、楽譜に対してじっくり向き合っていることは十分伝わってきますし、とても真摯な演奏だと感じました。