ヤマハ/カワイ/スタインウエイ/ベーゼンドルファー/ベヒシュタイン グランドピアノ試弾感想の巻

2月末~3月初旬にかけていろいろなグランドピアノを試弾してきたので感想をまとめます。

 

ヤマハヤマハ銀座店および山野楽器銀座店で試弾

  • C3 TD(Traditional)
    C3Xで以前のヤマハの音色とはかなり変わってしまったので、伝統的な(Traditionalな)音が好みな方のために用意されたモデルだそうです。自分は平成期に発売されたC3LAよりも古い世代の音のように感じました。ただ旧型で問題だった低音域の金属的な濁った響き(主に第22倍音=4オクターブ上の減五度が原因)は大幅に軽減されています。
  • C3X
    従来のC3のドギツさや派手さを払拭して、少し重心を下げた音作りになっていて、柔らかい音色も出せるようになっています。C3LAやC3TDとは異なり、大人の男性(わたし)が全力フォルテで弾いても破綻しなくなりましたが、最大音量は若干下がったように思えます(全力フォルテでもうるさくない)。また最低音域はほとんど音程感が判別できなかった過去モデルより大幅に改善されています。ただE(ミ)以下は厳しいです。といってもめったに使わない音ですし、これでいいんじゃない?という人も多いでしょう。
  • C5X
    C3Xの拡大版です。このサイズでE以下はもちろん、Low-Bまでしっかり出せるのがヤマハの特徴です。響板があまり鳴らないのですが、それゆえ響きの歯切れが良くジャズに向きそう。
  • C6X/C7X
    6以上は設計が違っていて低音域がいっそう安定します。やはり響板が大きい割にあまり響かないので室内で弾いてもうるさくないですし、なによりスピード感があります。ポップスやジャズで使われるのもそのためだと思います。
  • C3X espressivo
    S3Xの廉価版。響板が良く鳴るので、音の伸びや共鳴の度合いがノーマルのC3Xとはかなり違います。じっくり弾くと、アリコートがよく響くため高音が伸びることがわかります。低音域はノーマルとは弦が違うということです。ただ自分が試弾した個体は納入されて2日しか経っていないこともあり反応が遅かったです。
  • S3X
    SXシリーズは従来のヤマハとはまったく違うピアノです。S3Xは共鳴が大きいので、3サイズとは思えないスケールの大きな音になっています。共鳴音が音色を全体的に支配するためか、とても甘い(ドルチェな)音色に仕上がっています。演奏においてはこの共鳴のコントロールが重要だと思います。
  • S6X
    こちらはさらに大きさが効いてきて、とても雄大な響きを堪能できるピアノです。1音鳴らしただけでもいいなと思えました。20年前のS6より雄弁です。ただ音量が大きなピアノなので、狭い部屋には置けないと思います。SシリーズやC3X espressivoの響板を豊かに鳴らすという設計思想は、買収したベーゼンドルファーの影響があるのではないかと思います。
    なおヤマハのグランドピアノは全体的に鍵盤が軽く、タッチが弱い人でも演奏しやすいと感じました。

カワイ:カワイ南青山店で試弾

  • GXシリーズ
    カワイのグランドピアノGXはヤマハのTraditionalに相当します。重めのタッチで、重心が低い、従来のカワイらしいシックな音色を意図しているそうです。ただ高音域の音色は固めになっていました。おそらく弾き込まれているためと思われます。
  • SK2/3
    SKがすごいのは2型ですら最低音~最高音の全音域が普通に演奏できるという事実です。スタインウエイやベーゼンドルファーでも小型グランドになると低音域は捨ててしまうので、これは本当にすごいと思います。ヤマハC3Xの低音域が改善したのは間違いなくSK2/3の影響だと思います。音の傾向はヤマハC3X espressovoやS3Xより共鳴が控えめで、なおかつわずかに重いタッチになっていることにより、弱音部の繊細な表現を得意とするように思えました。
  • SK5
    大きくなったSK3です。SK6との差が大きいのでそのような評価になってしまうのです。割りを食ってる感じがしました。なおSK5まではヤマハ比でタッチが重めに感じます。
  • SK6
    ここでタッチが軽くなり、共鳴成分がぐっと増えます。本領が見え始めます。
  • SK7
    SKの本領はこのSK7だと思いました。スタインウエイBを凌駕する深みのある低音域と豊かな音量に圧倒されます。ただ音量が非常に大きいので普通のご家庭では置けないと思います。

スタインウエイ

  • B-211
    中古を扱う工房で試弾しました。ヤマハSやカワイSKと比べると響板があまり鳴らず、フレームで響かせる構造なのできらびやかな音とは裏腹に潤いに乏しく腰高の響きに感じます。音量もS6Xに及びません。もちろん低音域を含めたしかに全音域がスタインウエイの音なのです。しかし弾いていて楽しくないですし不満が残ります。あと雑音がすごく多いです。スタインウエイの場合は雑音も含めて楽器の音だというポリシーがあってそのような作りだと思うのですが、スピード感(音の立ち上がり)がとても速いこともあってタッチが雑だと演奏が荒っぽく聞こえてしまいます。
    フルコン(D-274)の小型版という印象です。なのでプロの方が練習するためのピアノとしては適していると感じました。
  • D-274
    おなじみのフルコンです。温厚篤実なSK7を弾いてきたあとだったので、カミソリのような切れ味の音色にビビりました。最低音域はピアニッシモで弾いても金属っぽい響きが乗ってきます。以前はこれが好きだったんですが、SKのコシのある低音のほうが好きです。
    コンサートホールで演奏することを考えると、この金属っぽい響きからエネルギー感を得ているようにも思います。

ベーゼンドルファー:山野楽器銀座店で試弾

  • Model 170VC
    サイズが小さいので低音部(とりわけ巻弦音域)は残念な音ですが、共鳴は非常に豊かなので中高音以上はサイズからは想像できないほどよく伸びていて、満足感の高いベビーグランドです。
  • Model 214VC
    中高音域がスタインウエイBによく似た音色で、スピード感があります。共鳴はS6XやSK7ほどではないものの、スタインウエイよりは豊かですし雑音が少なく演奏しやすかったです。S6XやSK7のような圧倒的な音圧で攻めるのではなく、やや控えめで上質な音色ということでかなり気に入りましたがすごく高いです(約2000万円)
    ベーゼンドルファーはほとんど手作りのため個体差がかなり大きいそうですが、214VCは新しい設計になったことで個体差が小さくなるのではないかということでした。

ベヒシュタイン:山野楽器銀座店で試弾

  • コンサート A-192
    やはり雑音が少なく、ベーゼン214VCよりもさらにストイックな音色です。214VCは中高音がスタインウエイ的にキラキラするのですが、ベヒシュタインはキラキラ感が控えめ、スピード感も控えめです。また共鳴音は腰高なのでSXのようなドルチェな音色にはなりません。