届きました&聞きました。
ピアノソナタに関しては、基本的な解釈は30年前の録音からまったくといってよいほど変わっていません。変わったのはピアノの調整と拍節感、そしておそらくそれに伴うアクセントの弾き方です。
まずピアノは30年前より若干やわらかい音質に調整されています。30年前はかなりピーキーな調整でぎりぎりを攻めていると感じましたが今回は穏当な調整です。
拍節感は変化といってもわずかです。30年前は初期のソナタでテンポの速い楽章では前のめり気味に演奏することもありましたが、今回は前のめり感は微妙に抑制されています。とはいえこの差は本当に微妙で、30年前に感じられた若々しさや瑞々しさはまったく変わっておりません。
アクセントの弾き方は明らかに変わりました。30年前の録音で唯一疑問に思えたのがアクセントでした。とりわけ「タターンタ」というようなシンコペーションのフレーズにおいて、太字で書いた裏拍アクセントの弾き方が単に「アクセント記号やsfが付いているので強く弾きました」というような印象で、若干即物的に感じられました。今回はそこが全面的に改められています。つまりアクセントが付いた音を強く弾くだけでなく、その前の音を若干軽いニュアンス(わずかに弱く、なおかつ短い)で弾くことで「タ・ターンタ」というアーティキュレーションになりました。この部分は割と徹底しているので、パール先生の中で明らか解釈が変化したと考えられます。またピアノの調整が抑制的になったことと合わさり、耳に刺さるようなアクセントになっていません。急迫的なアクセントを好む人には少々物足りないかもしれません。しかし自分としては、こういう弾き方のほうがベートーヴェンの意図を反映していると感じます。
この全集は3分割でリリースされます。今回リリースされたVol.1にはピアノソナタ1番~11番と19、20番(ともにop.49)のほかにベートーヴェンが創作初期に作曲した変奏曲がかなりたくさん収録されています。この変奏曲の多くは習作と思われ、ピアニスティックなフレーズの書き方を実験しているように感じます。また書法はクレメンティの影響を強く感じます。長い楽章が多い上に技巧的な難度が高めピアノソナタと比較すると、1つの変奏がとても短く(多くても2ページ)ツェルニー30番~40番程度の難度におさまる初期の変奏曲は練習曲としてもよいと思います。
ベートーヴェンのピアノソナタは今年は相当聞いていますし、自分で演奏もしてきたのでいずれ詳しく解説を書きたいと考えています。(32曲もあるから大変!)
なおパールの以前の全集に関する紹介は下記をご覧ください。