ギャラクシティ シンフォニーコンサート『交響組曲 宇宙戦艦ヤマト』の巻

10月6日(日曜)の演奏会のレポートです。いまごろになってしまい申し訳ありません。

<この演奏会が開かれた経緯>
宮川彬良先生のトークタイムで経緯がたっぷりと語られましたので要約します。

  • ギャラクシティの館長がヤマトファン(そもそもギャラクシティ自体が天文オタク&松本零士オタク感に満ちている理由)。ちなみにパンフレットに載っている特濃な曲目解説を書いたのもこの館長さんという話し。
  • 指揮者の池田開渡さんが親の影響でヤマトファン。子供の頃から英才教育を受けてしまう。初めて聞かされたオケ曲が『交響組曲 宇宙戦艦ヤマト
  • これは自慢だが、自分は交響組曲 宇宙戦艦ヤマトのレコードを発売前に聴いている。父親(宮川泰)が聞かせてくれた。父は反省点などを語っていた。
  • 第1作の交響組曲の演奏を考えたこともあるけれども譜面がないので諦めていた。ところが、ヤマト3199の作業のためスコアが無いかと実家に行ったところ、交響組曲ヤマトのスコアが出てきた(ヤマトよ永遠に、ヤマト3のスコアではなく!)
  • スコアと実際の演奏には異なる箇所もあるので、池田さんとチェロの飯島さんが耳コピで修正した
  • その結果が、今日の演奏会!

前置きはここまでで、演奏会の模様に入ります。

まずオーケストラは弦楽器が10型でチェロ6、コントラバス4でした。にも関わらず、金管は4-4-3-1なので金管が強めになります。もう少し弦楽器が多いほうが(14型程度)バランスが良くなるはずですが、オリジナルの交響組曲ヤマトも10型程度であることと、ステージ上にチェレスタシンセサイザーなどいろいろな楽器が置かれているうえに、合唱もしっかり12人加わるということで人員配置的にもギリギリだと感じました。

次は演奏について。

まず第1部は若干リハーサル不足感やバランスの悪さがありました。第2部のリハーサルに重点を置かなければならない演奏会ではわりとよくある現象です。特に1曲目の「ニュルンベルク~」は特定のパートが出たり引っ込んだりしていて、アンサンブルが不安定でした。おそらくリハーサル時とホールの音響が変わってしまったためと思われます。「幻想序曲 ロメオとジュリエット」は宮川泰先生が影響を受けたと思われる曲です。ロミジュリのストーリーを20分少々で表現するという意欲作です。1曲目のニュルンベルク~と同じ「序曲」という言葉は入っていますが、これ1つで完結する曲です。クラシックの曲で標題に「幻想」と入ったら「形式感は重視していません」という意味になるので、とらえどころがない演奏になりやすいのですが、ロミジュリのストーリーをなかなかうまく表現していたと思います。

第2部はお待ちかねの交響組曲ヤマトです。

この演奏で素晴らしかったのが、ポリシーが一貫していたことだったと思います。自分が聞き取れたポリシーは3つです。それは、

1.ディテール(細部)は極力オリジナルを尊重し、完コピを目指す
2.その一方で、演奏表現のスケール感はオリジナルを超えたその先を目指す
3.自分が愛する音楽を大勢の聴衆と共有し、後世につなぐ矜持を示す

ということです。
1番目は誰でも考えることですが、再現芸術としては2番目以降の姿勢がとても大切であることはいうまでもありません。自分たちにはヤマトの音楽をさらなる未来へ音楽をつなぐ使命がある。このことを自覚したら、50年前の演奏の再現だけで済むはずがない。これはクラシック音楽界隈でも重視されていることです。再現芸術と言えば聞こえは良いですが、同じ曲を何度も演奏するとどうしてもルーチンに陥ります。また同じ音楽を聞きたいなら録音を聞けば良い。わざわざ生演奏で聞く意義は、毎日熱くベスト記録を更新する勢いで演奏に臨む姿を目の当たりにするところにあると思います。

そして、この日の演奏は見事にベスト記録を更新してくれたな、と思いました。

だからスコア的には完コピといって差し支えない内容でしたが、演奏解釈はオリジナルとはかなり違っていました。
オリジナルの交響組曲ヤマトは質の高いインストゥルメンタルではありますが、それほど肩肘張って聞くようなものでもないと考えて企画されたと想像します。またリズムの足取りが軽く、先へ先へと前に進むのが宮川泰先生の音楽の特徴が存分に発揮されていました。ところが、この日に披露された演奏はヤマトへの思い入れがこれでもかとばかりに注入されていて、とにかく演奏表現が濃かったです。テンポは大胆に変化するし、強弱のレンジも原曲よりかなり大げさになっていました。ただ単に楽曲を再現するのではなく、継承するという想いやヤマト音楽の魂を再現していると感じました。

ということで各曲の演奏についてコメントしていきます。

  1. OVERTUE-序曲
    おなじみサスペンスAから始まりますが、冒頭のヴァイオリンのポルタメントが原曲より粘っこいので、おや?と思いました(これが前フリだった)。なおサスペンスAの演奏上のポイントは最後のフレーズの最後の音(レ♭)をどのように鳴らすか?というところだと思います(譜例参照)

    クラシックの作法だとレ♭の直前のソでちょっと溜めてからレ♭を鳴らします。自分がYouTubeにアップしているサスペンスAもそうやって弾いています。これはもう、クラシック音楽を演奏する人の性(さが)みたいなものです。今回の演奏も一瞬溜めてからレ♭を鳴らしていたので『そうなるよね!』と深く同意した次第です。なおオリジナルの演奏はまったく溜めずにレ♭を鳴らします。これが宮川泰流です。
    サスペンスAが終わるとおなじみ「無限に広がる大宇宙」です。実はこの部分は音楽的にほとんど禁忌とされる接続になっていて、歌い出しがとても難しいです。なにが禁忌かというと…と解説していくと本が書けてしまうので、割愛します。(なにしろ言いたいことが山ほどあるので、交響組曲宇宙戦艦ヤマトの解説本を作ることにしました。笑)
    それで、とにかく歌いだしが難しいのです。しかしとても自然にスキャットが始まりました。声や歌い方が川島和子さんに似ているので驚きましたが、指揮者の方のリクエストだと思います。
    スキャットが終わると音楽の様相が展開部的なものになります。木管楽器がヤマトのテーマを奏でて弦楽器がピチカートで合いの手を入れます。この部分でホルンがものすごく難しいフレーズを吹かされます。ちょっと失敗して悔しそうでした(ホルンの失敗はここだけ)
    そしてティンパニロールからオーケストラで盛大に「無限に広がる大宇宙」が奏でられますが、オリジナルの演奏より遥かに壮大なスケール感になっていて、もうこの段階で私は滂沱の涙でした。この曲はそれで終わらなくて、終盤にも一捻りのユニークな展開が入ります。このユニークさをオリジナルよりも強調していたのが印象的でした。
  2. THE BIRTH-誕生
    この曲は「さらば宇宙戦艦ヤマト」におけるヤマト発進シーンで使われたので、始まった瞬間に聴衆全員が「微速前進0.5」と心のなかで呟いたと確信しています。
    重苦しいテンポから始まって、対位法的展開でテンポを上げて、「ヤマト乗組員の行進」に入ります。原曲はリズムが先走り気味でヴァイオリンがついていけないところがあるなどかなりスリリングな演奏になっていますが、普通にバッチリでした。最後にヤマト主題歌に入るところでドカンと音量を上げてきたのでまた涙です。そうだよね、ここで音量上げるよね、と深く同意するのでありました。
  3. SASHIA-サーシャ
    これはかなり演奏が難しい曲なので、一発勝負の本番はかなり怖いと思います。原曲は例によってスーッと流れるように演奏していますが、この日は拍節感(4拍子)を明確に表現していました。これもクラシック的な解釈です。なお2回入っているハープのグリッサンドは開始音やフレーズの弾き方まで完全に原曲をコピーしていましたし、弦楽器の弱音器を付けた音色もそっくりでした。まことにあっぱれです。
  4. TRIAL-試練
    冒頭から溜めまくりでした(笑)。サントラだと3曲分のメドレーで曲調もテンポも違います。この違いをオリジナルより明確に表現していると感じました。難しいのは後半の「ヤマトのボレロ」のパートだと思いますが、やはりクラシック音楽の解釈で強弱をよりダイナミックに表現していました。
  5. TAKE OFF-出発(たびだち)
    冒頭の難しいホルンは今度はバッチリ決まりました。この曲はテンポが徐々に速くなるのが特徴だと思います。原曲よりテンポアップ感が遥かにアグレッシブだったのでドラマティックでありながら華やかな聞き映えの演奏になりました。みなさんも爆炎の中を飛び立つヤマトが見えましたよね(集団幻覚)
  6. REMINISCENCE-追憶
    「悲しみのヤマト」です。トランペットソロが完コピでした。
  7. SCARLET SCARF-真赤なスカーフ
    冒頭の弦楽合奏パートはオリジナルよりも深く掘り下げ、後半のダンサブルなパートはオリジナルより遥かに躍動感がありました。ここまでは「オリジナルと違ってどちらもいい」という感じだったのですが、この曲に関しては今回のコンサートの勝ちです。やっぱりこういう曲は生演奏でこそ盛り上がりますね。「二人のヤマト」のアンコールで演奏されたときもそう思いました。
  8. DECISIVE BATTLE-決戦(CHALLENGE-挑戦~SALLY-出撃~VICTORY-勝利)
    サウンドトラックの4曲がメドレーで起承転結の構成になっています。内容が盛りだくさんなうえカタストロフ的な展開の楽曲が多く難度が高いと思われます。この日の演奏は構成の表現が見事でした。2番目の「敵宇宙船の襲撃」で緊張感を煽って、コスモタイガーでは原曲を凌駕するような躍動感を聞かせ、最後の大河ヤマトのテーマは壮大な大音量で締めくくります。わかってるな~とひたすら感心しまくる演奏でした。
  9. ISKANDALL-イスカンダル
    ヤマトの旅もいよいよ終盤。イスカンダルに到着します。アンコール前にも登場した彬良さんが言っていたのですが「本当に気持ちよさそうに演奏していた」。
    この曲が終わった後で合唱団が入場します。
  10. RECOLLESTION-回想
    「ショッキングなスカーフ」は思い切りショッキングに演奏されます。ここまでくると、そういうふうに演奏するだろうと思っているのですが、その想像を上回ってきます。「沖田の死」ではヴァイオリンソロがこれまた原曲を上回るのではないかと思うほど情感豊かに演奏されますが、ヴァイオリニストの方もヤマト大好きだったようです(笑)
  11. HOPE FOR TOMORROW-明日(あす)への希望〈DREAM―夢~ROMANCE―ロマン~ADVENTURE―冒険心〉
    まず、この曲が生演奏で聞ける喜びが大きかったです。ここまでの曲の多くは、ヤマト2199関連のコンサートで演奏されることがありましたが、「明日への希望」を生で聴く機会がありませんでした。合唱も入るので、今後も聞ける機会はまずないだろうと思っていたのですが、しっかり再現してくれました。しかもオリジナルの演奏よりずっと熱かったです。聴衆もすっかり盛り上がってしまっているので、演奏する方も乗せられている感がありました。
  12. STASHA-スターシャ
    弦楽器が弾き始めた瞬間にオリジナルと同じ弱音器の音色が出てきます。壮大な「明日への希望」のあとに、アンコールのようにこの曲を追加することを要求した西崎義展氏は、音楽のセンスは本当に抜群だったと思います。またそれに応えた宮川泰先生も素晴らしい。そんな奇跡のアルバムがこの『交響組曲 宇宙戦艦ヤマト』だったことを改めて実感しながら聞き終えました。

アンコール1

宮川彬良氏が「交響組曲を演奏したあとに、アンコールを求められなくても絶対やるっていってた曲がある」と言っていたので何が来るかと思ったら、まさかの「さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち」のラストシーンの再現でした。

  1. M-69
    「明日への希望」を歌った合唱隊がステージにいたので、そのままアカペラで歌いだしました。この瞬間はヤマト主題歌が始まるかな?と思った人も多いと思いますが主題歌とM-69はキーが違います。自分はM-69ということに気づかずに「あれ?低いな?」と思っていました。
  2. M-70「大いなる愛」
    そしてこの曲が始まります。ピアノは完コピです。最後の金管楽器ロングトーンは原曲にはありませんが、これは入れて正解だと思います。素晴らしかったですよね。

アンコール2+3

お約束の「宇宙戦艦ヤマト」です。ヤマトのイベントの締めの定番で全員で歌うことになります。この締めを何度も経験していますが、間違いなくこの日が最高の盛り上がりでした。