1ヶ月ほどかけていろいろピアノを試弾してきた中で、自分自身が感じたことや調律師の方々のお話も交えて忖度なしでピアノの評価をします。
- 新品か中古か論
自分の耳に自信がない人や、ピアノという楽器の仕組みに詳しくない人は新品を選ぶべきです。この自信というのは「好きな音、苦手な音が明確に定まっている」と言い換えてもいいです。
中古に関しては、スタインウェイなど一部のメーカーを除き年代によって音の傾向がかなり違うので、根気よく試弾を繰り返して好みのメーカーと好みの年代が定まってから本格的に選定に乗り出しましょう。 - おすすめ海外編
スタインウェイ:結局みんな好きなのだと思います。自分も好きです。
ペトロフ:グランドに関してはスタインウェイの半値くらいでスタインウェイに近いピアノが手に入ります。スタインウェイほど盛大に鳴らないところも日本の家庭事情にあっています。またアップライトも品質がよい上に、特注になりがちな白いピアノを標準で作っています。
ボストン:スタインウェイのジェネリック的な触れ込みですが、確かに小型グランドピアノの豊かな音量が特徴です。 - おすすめ日本編
ヤマハ(グランドのみ):普及モデルであるCXはコスト対策で妥協したピアノです。しかし機械生産のメリットを生かし品質の安定性が極まっています。購入にあたっては掛川の工場で選定できますが、選定する必要がないくらい同じピアノが並びます。
カワイ(グランドのみ):次点。ヤマハより貪欲で他社のいいところを真似しがちですね。 - おすすめできないピアノ
ファツィオリ:コスト無視で妥協しない精神ゆえ、常に発展途上のような製品になっていると感じます。また設計が頻繁に変わるため修理部品を入手できるか心配です。ピアノは一点物の工芸品ではなく、ある程度の汎用性が求められますのでリスクが大きいです。
ベーゼンドルファー:ヤマハ傘下になり音が以前とは変わってしまいました。214 VCはスタインウェイB-211とほぼ同価格なので大半の人はB-211を買うでしょう。
ベヒシュタイン:グランドピアノは良いものもありますが、アップライトは品質低下が著しく買うべきではないです。
新品のアップライトピアノ:スタインウェイなど一部のメーカーを除き、新品のアップライトピアノを買うべきではありません。その理由はコストダウンのために部品や組み立ての質がどんどん低下していることと、出荷前の検査や調整も甘いため不具合があっても見逃されやすいからです。新品よりもきちんとメンテナンスされた中古のほうが良いでしょう。
各論
- スタインウェイ
新品のハンブルク製O-180、A-188、B-211は鉄板のピアノです。でもこの三者を比較して結局みんなBを買います。OやAが悪いというわけではなく、Bが突出して良いのがその理由でしょう。低音部が手巻き弦で音色にかなりの個体差があるため、複数から選定できないショップでは買わないほうがよいです。
またS-155とM-170およびNY製は買ってはいけません。品質に問題があります。これらは自分が試弾したすべてのピアノに問題がありましたし、スタインウェイジャパンの方もNY製に関しては言葉を濁すほどです。
K-132(アップライト)は間違いなく世界最高のアップライトピアノです。スタインウェイが諦められずSやMを買うくらいならKとペトロフ(グランド)の2台もちをおすすめしたいです。アップライトでもスタインウェイの音色がしっかりと鳴ります。しかも響きの豊かさはO-180に匹敵します。その理由はアップライトゆえ中音〜最高音部の響板が広いからです。
SPIRIO(自動演奏ピアノ)は明確な目的がなく買ってはいけません。なぜかというと、自動演奏の部分は家電製品なので10年ほど壊れるからです。このピアノはiPadでコントロールします。でも10年後に同じiPadは入手できませんよね。なのでスタインウェイを弾きたい人は、普通のスタインウェイを買うべきです。BGMのように自動演奏させておきたい人などはジュークボックス代わりに買ってもいいでしょう。(実際、そういう用途で買われる事が多いとのこと)
中古は100年くらい前のNY製が非常に良いです。アップライトのKやZも良いものが多いです。それ以外は良いものは少ないです。MやBの中古を何台も試弾しましたが、非常に個体差が大きい上に音が新品とまったく違うものばかりです。スタインウェイのピアノは、古くてもスタインウェイの音が出るのが最大の特徴です。なので自分がイメージするスタインウェイの音が出ないピアノは選ぶべきではありません。残念ながらそういうピアノが多いのには理由があります。中古の多くはアクションやハンマーを交換しています。この交換部品が純正でないのです。このようなピアノは、手放すときにスタインウェイとして売れないでしょう。
なおペトロフやヤマハのS4/S6、カワイSKを売ってスタインウェイB-211に乗り換える人がかなりいるそうです。特にピアノの先生はそのパターンになりがちという話です。スタインウェイは新品中古問わず値上がりする一方で下がることはないので、いずれ買うなら借金しても早めに買ったほうがいいと思います。金利と値上げ率が大差ありませんし、来年にはB-211の新品価格が2000万(税込み)を突破します。 - ペトロフ
P 173 BreezeとP 194 Stormは非常に良いです。スタインウェイの同サイズと比較すると多少スケールの小さい音になりますが、繊細な表現が得意で日本人向けと感じます。2m以上のサイズのグランドピアノは残念ながらバランスが良くないです。白いアップライトが200万そこそこですし、白いグランドピアノもあります。白いピアノならヤマハ・カワイよりこちらをおすすめします。名前が知られておらずブランド力が低いためか、中古になるとさらにお買い得になります。それゆえすぐに売れてしまうそうです。ペトロフは趣味で弾くなら最高のピアノだと感じます。 - ボストン
GP-163、GP-178は同サイズのグランドピアノより響板が大きく、それゆえ見た目以上に音量が豊かでダイナミックな表現に優れます。また音量が大きいとタッチが軽く感じるようになるため、それも含めスタインウェイ風に思えるピアノだと感じます。ただGP-193以上はあまり良くないです。 - ヤマハ
C3X espressivoとC5X、C6X、CFがおすすめです。C3X espressivoは共鳴の立ち上がりが遅いのですが、その遅れゆえ奥行きのある響きに聞こえます。C5Xは立ち上がりが速く、ポップスやジャズにも向きます。C6Xは倍音の持続時間が長くスタインウェイ的な響きになります。音量はスタインウェイBの7割ほどに感じますので、天井が低い日本家屋でも十分に対応します。なおグランドピアノがほしいが予算がない場合はC2Xが有力候補になります。以前のヤマハの2型はかなり問題があったのですが、C2Xになって大幅に改善しています。
最も売れているというC3Xは個人的には立ち上がりが遅さが気になるので、C3LAなど少し前のモデルのほうがよいかもしれません。しかしこの遅さをまろやかな耳あたりと捉える人も少なくなく、好みの範疇だと思います。
S3XはC3X espressivoと比べるとぐっと重心が下がって厚みのある音になります。音量も上がるので満足感が高いピアノです。しかしほぼ同サイズのスタインウェイやペトロフと比較するとスケールが小ささは否めません。S6Xは立ち上がりが速く極めて鮮烈な音色が出せる素晴らしいピアノです。しかしとても音量が大きい上にピーキーでコントロールが難しいので注意が必要です。自分はS6X狙いでいたのですが、あまりにも弾きにくいピアノでどうにもなりませんでした。弾きこなせる人なら素晴らしい演奏ができることでしょう。CFは部材の妥協がないという点でスタインウェイにも匹敵するピアノです。
中古について。ヤマハはアップライトを含め中古が数多く出回っています。先に述べたように、製造された時代によって音色の傾向が異なりますので、さまざまな時代のピアノを実際に弾いて耳で確認するのが重要です。2000年代前半に製造されたS4、S6は雑音が少なく絶妙なピアニッシモが出せるという美点があるものの、フォルテの音量がまったく足りないピアノのため勧められません。ただし部屋が狭いなどの理由で音量が小さめなピアノを求めている場合や、アンサンブルや歌の伴奏として用いる場合は第一選択になるくらいのポテンシャルはあります。S400Bはかなり良いです。ただこれもペトロフの中古と比較したほうがよいと感じます。 - カワイ
SK2、SK3がおすすめです。この2つは甲乙つけがたいです。2型の国産グランドピアノで最も優秀なのは間違いなくSK2です。SK5はアクションが異なりタッチが微妙に重いのが特徴です。SK6、SK7はスタインウェイに勝るとも劣らない豊かな低音域が魅力ですが、中高音の厚みや華やかさが足りないので厳しいと感じます。ただ逆にそこを生かして、歌(とりわけ女性歌手)の伴奏に合わせるとよいと思います。実際、有名な女性歌手がSK7を購入されています。目の付け所がいいなと思いました。
なおSKは2010年頃にモデルチェンジしています。自分はモデルチェンジ前のほうが好きでしたが、モデルチェンジ後のほうが良いという人もいます。SKは人気があり、中古はすぐに売れてしまうので購入を考えているのであれば楽器屋さんに確保しておくようお願いしましょう。
なおカワイのトーンが好きでグランドピアノがほしい、しかし予算がないという場合はGX2が有力候補になります。このピアノもローコストながらバランスのよい仕上がりになっています。