プレトニョフのベートーヴェン・ピアノ協奏曲はどこをとっても普通じゃないの巻

以前「世界一うまい現役ピアニスト」と評したプレトニョフ。ピアニスト引退を表明したと思ったのにいきなりベートーヴェンの協奏曲チクルスをリリースしはじめました。この野郎め〜。ちなみにジャケ写だけ見ると弾き振りっぽいですが、ちゃんと指揮者はいます。
演奏内容はどこをとっても普通なところのない個性的なもの。オブリガード的なフレーズはかなり大胆に改変しています。*1第1番第一楽章に出てくる例のオクターブグリッサンドの部分なんか「そうきたか!!」というような発想で改変していて、めちゃくちゃカッコいいです。しかし、いつものこととはいえ全体的に恣意的なアーティキュレーションだらけで、先生お願いだから普通に弾いてください、と言いたくなるフレーズの嵐。デリカシーの権化のような音色と響きは相変わらずで、おかしなフレージングとの相乗効果で、めったやたらと人の心を逆撫でする演奏になってます。まあでも、上手いか下手かという観点では、もう議論の余地のないほどバカテク・バカウマのピアニズムということだけは間違いありません。こういう人をピアノが上手いというんです。ドレミファソラシドって音階からして全然違うんだもん。生演奏を聴いたときも感じたことですが、打鍵〜離鍵まで含めたタッチ制御が完璧。普通のピアニストは打鍵はいいのですが、この人は鍵盤の離し方までいろいろ微妙にコントロールしてフレーズのニュアンスに変化を付けるので、本当に変幻自在なアーティキュレーションになります。あと、好き勝手やってるようでカデンツァなどは意外に保守的に手堅くまとめていたりして、この人なりのバランス感覚があるみたいです。私には理解不能ですが*2ちなみにオケはロシアとは思えないほど緻密で締まった演奏です。前述のように指揮者はいますけど、たぶんプレトニョフ本人がだいぶ絞り上げてるはず。
結論としてはプレトニョフのファンでなくても、ピアノやってる人は買うなりして聴いた方が良いと思います。特に第3番はフレージングの自由度が異様に高く、ガチガチに演奏されることが多いこの曲が別物のようなしなやかさと軽やかさで歌い上げられるさまは目からウロコものです。この後、残りの曲も順次リリースされるようです。

*1:オブリガードじゃない部分もこっそりいろいろ改変していますが、演奏そのものがあまりにも個性的なので気づかない。

*2:「バカには僕のピアニズムは理解できないよ。フフン」と鼻で笑われてるような雰囲気。頭の良さと、意地の悪さが十二分に発揮されてます。