ヤマト音楽本「魂の変奏曲」再版しますの巻

ツイッターではお知らせ済みですが、夏コミケで完売してしまったヤマト音楽本「魂の変奏曲」を再版します。レイアウトやフォントを見直して、本文40ページになりましたが、中身はほとんど同じです。通販の準備ができ次第、またお知らせします。

KORG Grandstageを試奏したら、なぜかCLAVIA nord piano 3買っていたの巻

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「あ…ありのまま今日起こった事を話すと、俺はGrandstageを買うつもりで楽器屋に行ったんだが、いつのまにかnord piano3を買っていたぜ。 な…何を言っているのかわからねーと思うが、俺も何をしたのかわからなかった…頭がどうにかなりそうだった…催眠術だとか超スピードだとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。 もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ。まあとりあえずGranstageの試奏レビューから読んでくれ」

 

www.korg.com

KORG Grandstage試奏記>
  • 起動時間:60秒弱。システム起動が15秒程度、波形ロードが30秒強。ロードが終わればすぐ音が出る。
  • レイテンシー:KRONOS比になるが改善されたように感じた。(ピアノタッチ鍵盤のため気にならないだけかもしれない) 
  • ペダルはデフォルトではサスティンのみ対応。ソフトやソステヌートは別途コントローラを接続すれば設定可能(たぶん)。
  • EQやエフェクトなど、主要パラメータがデフォルトでノブにアサインされていて、操作性が極めて良い。ベロシティ調整もノブにアサインされているのが「わかってらっしゃる」感じ。
  • デフォルトでCC80/81がコントローラにアサインされている。これはローランドのMIDIマスターキーボード(Aシリーズ)を意識した仕様だと思って、自分的には好印象。
  • ここまで「デフォルトで」を何度も繰り返したことからもわかるように、箱から出してセッティングして電源ONですぐ即戦力だ。
  • と思ったら、まずペダルのキャリブレーション(初期値調整)が必要。なおペダルキャリブレーションはnuma stageも必要で、最近のピアノタッチマスターキーボードのトレンド機能っぽい。
  • ベロシティ調整がPre-MIDI/Post-MIDIを選択できる。ベロシティ調整を本体音源とMIDI出力両方に反映させるのがPre-MIDIで、本体音源をスルーしてMIDI outのみに適用するのがPost-MIDI。これは最初から外部音源を使う前提の仕様で、他メーカーだとヤマハP-300/500など限られた機種しか持っていない機能。
  • アコピの音はKRONOS+αなので特に書く必要はないと思うけれども、搭載された波形が綺麗で使い勝手は良いと思う。
  • エレピ系ではFM音源の挙動がシミュレートされているようで、DXエレピはあの音色変化がちゃんと再現されている。たださすがにMONTAGEのFMエレピにはかなわない感じ。
  • 出力はローエンドがカットされているようで、スタインウエイのフルコン特有の低音のふくよさがない。試奏したモニターの性能によるかもしれないが、これはKORGにかぎらず日本メーカーのピアノ音源特有の音作りだと感じている。ポップスやロックにおいては、100Hz以下が伸びているとベースとかぶってサウンドが濁りやすいので、このくらいスッキリした低音のほうがアンサンブルで使うときは都合がいいという判断だろう。
  • アコピは高音域の音色が生々しくてよい。ダンパーがない音域(上から1オクターブ半)は軽視されがちで、安い機種になると波形がループに入るタイミングが早く違和感があるのだけど、とてもスムーズ。
  • エフェクト(特にリバーブ)の質が高い。いいプラグインを積んでいると思う。リバーブのパラメータもパネル上のノブで簡単に変更できる。
  • KRONOSの弟分ということで音色数が多く、レイヤーやスプリットなどの機能もよく考えられている。
  • 欠点は、同時発音数がちょっと少ないこと。1ボイスで4エレメントを消費するSGX-2のアコピは60音まで。ただ同じく4エレメント消費のINTEGRA-7の32音(実質値)や、40音のnord piano 3と比べればマシなほう。
  • やはりスタインウエイの波形が入った唯一の日本製のステージピアノというのがステータスだろう。MIDI機能を含め完成度が高い製品だと感じた。
  • これで御三家(ヤマハ、ローランド、KORG)のステージピアノが揃ったが、すでにヤマハCP4 STAGEは一世代前の製品に思えるので、ダンパーON時の共鳴シミュレートなどデジピ分野の機能をフィードバックした新機種が出ることを期待したい。 

 

<nord piano 3購入に至る経緯を時系列で要約>
  • この数ヶ月、ピアノタッチのMIDIマスターキーボードを探していて、ステージピアノやデジタルピアノを片っ端から調べる。
  • 必須機能:ピアノタッチ88鍵、2ペダル(サスティン+ソフトペダル)、サスティンは連続検出のハーフペダルが使える、ベロシティ調整、譜面台、USB-MIDI。日本製のステージピアノは譜面台が使えないのが最大の難点(この時点では)。
  • あると便利:スタインウエイD274の波形搭載、3ペダル(付属だとなおよい)、純正スタンド、詳細なベロシティ調整、ピッチベンダー&モジュレーションホイール、USB-Audio、シンセサイズ機能、本体重量20kg以下
  • ネット動画で音色を比較して、nord piano 3の音色が最高だろうと目星をつける。スタインウエイの音色は当然として、フォルテピアノモーツァルトベートーヴェンの時代のピアノ)の音色は、ちょっと衝撃的だった。ちゃんと状態の良いフォルテピアノを探してきてサンプリングしていて、「この音色が弾きたい!」と思わせてくれる。

    www.youtube.com

    次点はStudio logic numa stage。日本製品ではKORG KRONOSがnord pianoに迫るレベルで、Rolandヤマハの音色はアコースティック系のピアノソロで使うにはちょっと厳しい。(Roland音源でアコピ演奏みたいなことやってますが)
  • KRONOSとnord stage2を比較している動画があって、スタインウエイの波形は非常に似ているのだけれど、KRONOSのどこか日本的な佇まいのある澄んだ音色よりも、nordのコクと奥行きのある音色のほうが圧倒的に好みに合うことを知ってしまった。サンプリングに使ったピアノの特性や調律&調整の違いもしくは、サンプリングする音をプレイした演奏者の違いだと考えられる。


    Korg Kronos Vs Nord Stage 2

  • とはいうものの、身近にnord pianoを展示している店がなく、価格も高いしサポートにも不安があるので候補から除外。
  • numa stageは所有者はみな絶賛しているけれど、展示店における扱いがひどく(営業努力が不十分な証拠)やはりサポートに問題があることが判明。FATOR鍵盤というのも微妙に気にかかる。
  • KRONOSも起動に120秒かかるとかレイテンシーといった諸問題がある上、シンセを求めているわけではないので候補から除外。
  • そうこうしているうちに、Roland RD-2000が発売になる。
  • RD-2000は多機能すぎることと、純正スタンドが大きく接地面積を取る上に譜面立てがないなど許容しがたい仕様もあるため、同レベルの機種でスタンド+3ペダル+譜面立てが付いたRoland FP-90が第一候補に浮上。
  • FP-90をじっくり試弾すると、鍵盤のリリースに違和感があることが判明。PHA-50鍵盤だが、おそらくアイボリーフィールSの欠点(ちょっと触ると音が出てしまう)を防ぐために、鍵盤を押し上げる力を少し強くしている。そのため、打鍵保持力を緩めると思わぬところで鍵盤が上がってきて、テヌートが解除されてしまう。そして、そうならないようにするために、意識的に鍵盤を押さえ込むような奏法になって、演奏技術的によろしくない。(立って演奏したり、椅子を高くして腕の重みで鍵盤を押さえれば問題ないレベルとは思う)
  • そうこうしているうちに、KORGがGrandstageを発売。なんと譜面立てが付く。国産ステージピアノとしては非常に珍しい。ひょっとすると初ではなかろうか。
  • ということで、購入候補に急浮上したGrandstageを楽器屋で試奏することにした。
  • まず御茶ノ水の楽器屋でルック&フィールと音をざっと確認。セッティング状況が悪く、椅子に座っての演奏やペダルの確認などはできず。余談だけど、ピアノタッチ鍵盤なのに座って演奏確認できないような店は滅んで別の商品を並べたほうがよいと思う。結局別の店で再確認しなければならなくなる。御茶ノ水はこんな楽器店ばかりなので、キーボードや電子ピアノを選定するのには向かない。
  • (実名出してしまいますが)池袋の石橋楽器にGrandstageが展示されていることを確認し、ここならきっと特等席(2ヶ月前にRD-2000が置いてあった場所)に置かれていて、じっくり座って弾けるはずなので、行ってみることにする。
  • 実際に行ってみたら、特等席にはnord piano3が置いてあった。まって、そんな話は聞いてない。というか、そもそも2ヶ月前に店のホームページにはnord piano 3 完売って載ってたよね?そういえばCLAVIAはヤマハが国内代理店になっていてサポート面もクリアしてるし、純正の譜面台もヤマハで扱ってるし、一気に購入候補トップへ返り咲き。
  • このページの1番上の状態になる。

 

 <nord piano 3試奏記>
  • デモ動画では鍵盤がすごいってアピールしてるけど、鍵盤の奥の方を弾いたときの挙動は今一つで、日本製デジピの鍵盤の出来の良さを実感する。もちろん普通に弾く分にはまったく問題ないし、スタインウエイの鍵盤を意識しているようで、軽くスムーズなアクションで弾きやすい。
  • ペダルシミュレーション(開放弦共鳴)がリアルで気持ちが良い。ただ、この気持ちよさを味わうためにステレオで演奏すると40音ポリになってしまう。モノラルで演奏しても60音ポリ。いまどきこれはひどいが、INTEGRA-7のSN音源ピアノ(ネットにUPしてるピアノ演奏に使ってる)が実質32音ポリくらいなので実用上許容範囲と判断。
  • 3本ペダルが標準でついていて、踏み心地が気持ちいい。とにかくペダルシミュレーションがすごいので、ペダルを踏んでポーンと弾くだけでウットリ(*´∀`*)
  • シンセみたいな外観が謎だったけど、要はGrandstageと同じで、主要パラメタに一発でアクセスできるようになっている。EQやエフェクトも直接つまみ操作で変更可能。
  • 結論としては、音色だけでnordを選択した。生ピアノの選定と同じでビビビッとくる楽器を選んだ形です。

コミックマーケット92終了の巻

C92終了しました。拙サークルまでおいでいただいたみなさま、ありがとうございました。多くの方にお声をかけていただき、とても嬉しかったです。席を外していてお会い出来なかった方もいらしたようで申し訳ありませんでした。

宇宙戦艦ヤマト音楽本「魂の変奏曲」はお昼すぎには完売して驚きました。こちらは再版する予定です。ユーリ!!! on ICE音楽本「ユーリ!!! 超絶音楽解説集」は残ったので、下記サイト(BOOTH)にて通販を行っています。魂の変奏曲も再版できたらBOOTHで通販します。

cosmopianist.booth.pm

コミケ合わせで2冊も本を出すのは無謀で、2冊めのユーリ本はできたとしても20ページ以下だろうと予想していました。ヤマト本の入稿が早かったのでスイッチを切り替えてユーリ本に取り組んだ結果、想定を遥かに上回る60ページになりました。劇伴本などというニッチ極まりないジャンルな上に、気持ちが先走った独りよがりな内容なので、1冊も売れないのではないかと不安でしたが、多くの方に手にとっていただき感謝の気持ちしかございません。

運営面では、サークル参加が久しぶりすぎて完全に初心者モードでした。ヤマト本を手で持ち込み搬入したのが失敗で、大した部数ではなかったんですが、下半身にどっと疲れが来ました。あとビッグサイトの東1~6ホールは空調の効きが悪くて(東7・8ホールと比べて建物の断熱性が低い)、油断していると熱中症になりそうでした。

ということで、いろいろ反省することもあったコミケですが、なんとか無事に終えることができてホッとしております。冬も参加申し込みをしましたので、スペースが取れたら新刊を出したいです。そのためにも、ヤマト2202のサントラを早く発売してください。

コミックマーケット92参加の巻

いちおう最終のご案内ということで、お品書きです。

8月12日(土曜)東2ホール O-22a サークル「コスモピアニスト」 で参加します。

☆頒布予定物1「魂の変奏曲」☆
B5 48P 500円 宇宙戦艦ヤマト(第一作)&2199サントラ解説本
宇宙戦艦ヤマトのサントラは、主題歌をアレンジしただけの楽曲や、主題歌の旋律の一部を切り出したモチーフを利用した楽曲が多いです。 このことに関して、宮川彬良氏は「変奏曲(Variation バリエーション)のようだ」とたびたび発言していますが、実際には単なる変奏に留まらない楽曲も少なくないので、第一作と2199の楽曲がどのような変奏曲になっているのか、わかりやすく解説しました。

☆頒布予定物2「ユーリ!!! 超絶音楽解説集」☆
 B5 60P 500円 ユーリ!!! on ICE スケトラ&サントラ解説本
ユーリ!!! on ICE のスケトラとサントラの解説という形を取りながら、私的な感想やら妄想を書いた本です。音楽的なことはもちろん、キャラクターのことも好き勝手に掘り下げています。最初は全4曲12ページの薄い本の予定だったのに、愛が止まらなくてスケトラ全曲+サントラ20曲以上を取り上げたら60ページになってしまいました。

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「魂の変奏曲」は、ヤマト第一作と2199に焦点を当てて、取り上げた楽曲もわりと限定しています(全部で20曲少々)。出し惜しみをしたわけではなく、変奏にスポットを当てることでテーマを明確にしたつもりです。いまさら第一作の劇伴を解説するのもどうかと思いますが、40年近く聞いてきているにもかかわらず新たな発見もあったりしたので、書いてよかったなと思ってます。なおヤマト2202第2章のヤマトークにおいて、彬良さんが第一作の音楽に関して言及したことと全く同じことを書いていたので、聞き方や分析が間違っていないことが担保されました。というか、自分は間違ってないんだってことがわかってホッとした(笑)

「ユーリ!!!超絶音楽解説集」は、当初は離れずにそばにいて、Yuri on ICE、愛についてeros/agapeだけについて書くつもりでした。でも他にもいい曲があるし、全部のキャラクターに言及したくなったので、ものすごくページ数が増えました。キャラソン的な扱いでスケトラを解説していますけど、変な思い入れが混ざってるので普通にキモいと思います。終わって半年しか経ってない作品で、しかも映像を見直しながら書いたので、気持ちが滾ってるんですね。だから仕方ないです(開き直り)。書きながら全話を3回くらい見直してしまいました。またサントラに関しては、CD発売から入稿までに正味4日しか時間がなかったので、限定的な扱いにするつもりだったんですけど、あれだけ劇伴を耳コピ演奏した手前、お手軽に済ませるもいかないんですよね。ということで、サントラも大半の曲を取り上げました。

ユーリ!!! on ICE 音楽本入稿しましたの巻

コミケで頒布するユーリ!!!音楽解説本の入稿が終わりました。60ページという、けっこう厚い本になってしまいました。

最初の予定は、離れずにそばにいて、Yuri on ICE、愛についてeros/agapeの4曲だけで12ページくらいの薄い本にしようとしていたんです。でもスケトラって他にもいい曲あるじゃん、とか、サントラ盤も発売になるよな、と書きたいことだ雪だるま式に増えて結局スケトラは24曲すべて、サントラもほとんど言及してしまいました。

真面目に音楽的なことも書いていますけど、それ以上にキャラのこととか、作品に対する想いを語っている、非常にうざい本だと思います。

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表紙は全◯出版社の意匠を拝借しました。そしてかろうじてヴィク勇カラーです。恥ずかしい(;´Д`)

ヤマト音楽本の入稿が終わりましたの巻

コミケ用の宇宙戦艦ヤマト音楽本を入稿しました。本文44ページになりました。見本はそのうちUPします。あまり難しいことは考えずに、好きなことをやろうと思って原稿を書きました。こういうスタンスだと気が楽になるのは当然ですけど、原稿の進み方もスムーズでよかったです。

表紙のために久しぶりに絵を描きました。デジタル作画にもチャレンジしました。Astropadというアプリを使って、iMacで起動しているクリスタに対して、iPad Proを液晶タブレット代わりに使ってお絵描きしています。これがダメだったらワコムの高い液タブ買うしかないなあって思っていたんですけど、全然大丈夫でした。ワコムよりいいんじゃないかと思います。

コミケにはもう1冊、ユーリ!!! on ICEの音楽本を出すつもりなので、ひきつづき頑張ります。ほとんどの印刷会社はコミケの10日前入稿でも大丈夫だそうで、昔とは比べ物にならないスピードですけど、割高になったりするので、できるだけ今月中の入稿を目標にします。

ようやくモラトリアムが終了したらしい米倉利紀氏のライブ@Zepp Tokyo の巻

自分の米倉氏歴に関して、過去の日記を読み返してみると、1999年9月に出張帰りの飛行機の中で偶然 "good time" プロモを見たのがきっかけで聴き始めて、途中でフォローするのをやめたりして、また戻ってきて、今回が初ライヴ参戦です。

まずフォローをやめた理由から書くと、この人の音楽はキャリアを続けても変化がなく、どのアルバムを聴いても同じ印象で、面白みを感じなくなってしまったからです。ただライブがすごいという話は聞いていたし、セクシャリティを含めあまり自分を隠さなくなったようなので、2年半ほど前に sTYle72 というアルバムから戻りました。これが良かったので、レビューしてます。

harnoncourt.hatenablog.com

このアルバムも15年前と変わらないナルシシズムや、カッコつけた感はありました。サウンドの方向性も驚くほど変わっていない。ですが、それを変わらない個性だと、ポジティブに捉えられました。同じことを15年も続けるのは、大変ですからね。そこからまた聴くようになったのですが、昨年リリースした swich というアルバムでガラッとサウンドが変わりました。一言でいうと大人のサウンドです。そして今年リリースした smoky rich というアルバムはその方向性をさらに洗練しつつ、より自由で(本人の言葉を借りるなら「ゆるい感じ」)、懐の深い音楽になっていて感動しました。こんなふうに変わった彼の音楽をナマで聴きたいと思ったのが、重い腰をあげさせてくれたという話です。

smoky rich

smoky rich

 

 ↑大人のためのポップス。おすすめでございます。

今回のライブでもMCでもそのあたりを語っていて、「自分もそろそろ大人にならないと」とか、「勝ち続けないといけない、みたいなガツガツした姿勢がなくなってきた」という気持ちの変化を素直に音楽に表したということでした。45歳を前にしてようやくモラトリアム終了ということですね。

ここまででかなり長いエントリーになってますけど、もうどうせなら書きたいことを書こう。

米倉氏の変化の件ですが、まず歌詞が変わっています。1999年の時点では「恋も仕事も全部!乗り切ろう!」*1と書いています。これはマーケティング的にいうと独身のF1層をターゲットにしているのですが、要は彼自身がF1メンタリティを持ちつつ、若々しい力強さをアピールしたかったのだと思います。この傾向は2013年リリースの sTYle72 でも続きます。なにしろ1曲めのタイトルが "higher and higher" ですから、40歳超えてもまだ気分は若者で高みを目指すのです。これをカッコいいと捉えるか、痛いモラトリアム(反抗)と捉えるか、微妙なところです。何に対するモラトリアムかというと、ズバリ「老い」に対するモラトリアムです。ところが近年のアルバム switch の1曲め "chance" では、これを「自分が変化するチャンスが来た」とポジティブに捉え、「あまり難しく考えず」しかし「たった一度の人生だから、がむしゃらに生きてみよう」と歌っています。老いや人生の終わりを肯定しないと、一度きりの人生という言葉は出てきません。ものすごい変化です。

40代は、老後や人生の終わりを意識しはじめる年代です。ここをどう乗り越えるかは、万人に降り掛かってくる課題ですが、表現をなりわいとする人にとっては特に大きい障壁になると思います。例えば三島由紀夫(45歳没)の最期は、ここを乗り越えることを拒絶して、自分の理想とする形で自らの人生を終わらせたと見ることもできます。

逃れられない老いを拒絶しても不毛なので、まずは許容した上で、自分自身の中で折り合いを付けていく。これが米倉氏のいう大人になることではないかと思いました。

サウンド的な変化としては、ゆるさの演出としてリズムの跳ね方が甘くなっています。DTM的に分析すると、SWING値が50から20~30くらいに落ちている(笑)。これはアレンジャーに拍手です。米倉氏はMCでも「ゆるい感じで」を連発していて、感覚的にオーダーしているようですが、それをうまくサウンドに落とし込んだと思います。もちろんユルユルにならないように、2・4拍に入るスネアなどに溜めがあります。今回のライブでもジャストより少し溜めがあるドラマーを起用していました。オーディエンスが縦ノリではなく横ノリになっていた要因の1つはこれですね。

ボーカルに関しても、さらに向上したいという意欲があると語っていたのが印象的でした。これ以上なにを望むかというほど歌える人ですし、このライブも歌に抱腹絶倒のMC*2にと3時間声を出しっぱなしで全然平気という恐るべきスタミナを見せつけてましたが、この部分だけは加齢に抵抗したいという彼のプライドですね!

*1:"good time"

*2:これも噂では聞いていたんですが、想定外にトークが上手くて驚愕。よどみないトークで客をいじり倒す芸人魂のようなものを感じました(笑)