音楽図鑑 - 近況報告

はてなダイアリーから移行しました。

【音楽用語シリーズ】デクレシェンドとディミヌエンドの違いについての巻

ネットを検索すれば音楽用語の意味がわかる便利な時代ですが、微妙なことになると回答にたどり着きにくく、また外国語の訳としてそれは本当に正しいのか?と首を傾げたくなるような解説もあります。そんなわけで、ちまたの音楽用語における重箱の隅をつついていきたいと思います。
今回はdecrescendo デクレシェンドとdiminuendo ディミヌエンドです。一般的な音楽用語辞典だとどちらも「だんだん小さく」ですが、本当にそれでいいの?というお話です。

 

1.語源

どちらもイタリア語なので、語源を調べます。

(1)デクレシェンド

de+crecendo つまりクレシェンドの反意語です。crescere(増大する)という動詞の名詞系の逆の意味なので、「だんだん小さく」で問題はありません。英語だとincrease ⇔ decreaseという関係で、こちらのほうが増大・減少という対比がわかりやすいと思います。

(2)ディミヌエンド

di+minuere 強調の接頭詞+小さくするという言葉です。minuereはラテン語ではminuoという単語で、ここから minimum つまり最小という派生語が生まれていますので、ディミヌエンドの終点は本来は最小の音量になると思われます。
とはいうものの、単語は時間の経過とともに意味が弱まる(劣化する)傾向があり、300年前と100年前と現在ではニュアンスが違っている可能性が否定出来ないということと、そもそも作曲者がディミヌエンドの本質を理解していない可能性もあるので、「本来は」という言葉を付けています。
なお英語だと diminish です。この単語は消え去るとか衰えるという意味がありますから、decreaseとは全く違うということがおわかりいただけると思います。衰えるという意味に捉えると、音量だけでなくテンポも遅くしたほうがいいという可能性も出てきて、事態は複雑化するのです。

2.ざっくりとした結論

語源を知っていて、なおかつ楽曲中で使い分けているイタリア系の作曲家は当然区別が必要で、楽曲中で片方しか使っていない作曲家(特にドイツ系)は両者の違いを神経質に考慮する必要はないと思われます。ただしドイツ系でもシューベルトのように両者を使い分けている場合は、明確に差を意識する必要があります。シューベルトディミヌエンドリタルダンドの意味も加わります。このあたりは歌曲っぽい指示だと思います。

ということで、ここからは細かい調査報告です。暫時追加するつもりです。

(1)ベートーヴェンピアノソナタ(ヘンレ版)

ベートーヴェンは影響力が大きい人なので、作品数が多いピアノソナタを全部調べてみましたが、熱情が境目になっていました。つまり、熱情まではほぼデクレシェンドを使っていて、熱情から完全にディミヌエンドに切り替えていますので、両者は同じ意味で使っていると考えられます。ただし、30番と31番でデクレシェンド表記が復活しています。これは特定のフレーズの音量を下げるという意味で使っていると思われます。

・初期~15番:デクレシェンドのみ
・16番:第二楽章はディミヌエンド。第三楽章はデクレシェンドが使われる。
・17番(テンペスト):ディミヌエンドが多いもののデクレシェンドも混在していて明確な使い分けがなされていない(同じようなフレーズにdim.とdecresc.の指示があり、適当に書いていることが推測できる)。
・18番:デクレシェンドのみ。19/20番はどちらもない。
・21番(ワルトシュタイン)、22番:デクレシェンドのみ。
・23番(熱情)~29番(ハンマークラヴィーア):ディミヌエンドのみ。
・30番:第三楽章の第二変奏に一箇所だけ短い区間にデクレシェンドが使われているほかはディミヌエンド
・31番:やはり第三楽章の嘆きの歌で短い区間にデクレシェンドが使われているほかはディミヌエンド
・32番:ディミヌエンドのみ。

(2)シューベルト

詳細は調査中ですが、ピアノソナタ20番では両者併用していたはず。

(3)ショパン

エチュードディミヌエンドのみですが、さらに音量を下げたいときに smorz.(スモルツァンド)を使うのが特徴です。またカンタービレな表現を重視する曲ではかなり几帳面にデュナーミクや演奏指示を書いていて、機械的な演奏にならないように腐心している様子が伺えます。

 

※予告:このシリーズ続きます。
モデラート:中くらいの速さってどういうこと?
ドルチェ:イタリア語でドルチェといったら甘いお菓子のことですが音楽用語は?
アクセント:sf、fz、rf の違いについて。諸悪の根源?はやっぱりベートーヴェンだった。