レイフ・オヴェ・アンスネス(指揮・ピアノ)withマーラー室内管 演奏会の巻

※長いです。

アンスネスの協奏曲を聴くのは2度めです。最初はモーツァルトのジュノームでした。例によって完璧なピアノだったということ以外、ほとんど記憶がないのですが、一緒に行った連れに「あなた指揮者に怒りまくって後半のシンフォニー聞かないで帰っちゃったじゃない。ホールの人が呆れていたよ?」と言われて思い出しました。若かったなあ(汗)。
わたしはアンスネスというピアニストには、あまり良い印象がないのです。文句なく上手いし、いつも完璧なのですが、彼の音楽は冷めているんですね。そんなアンスネスが熱い音楽を聞かせてくれるのは、グリークの作品と、協奏曲の弾き振りをするときだけなのです。(ここに例外として、展覧会の絵が加わりました)
ということで、冷たい演奏にならないという期待をして聞きに行って、そのとおりになった、という話を以下に書きます。

1.アンスネスの弾き振り協奏曲について
モーツァルトの20番を弾き振りしたCDやDVDでわかるように、古典派の協奏曲を演奏するときに、アンスネスはオケに対して古楽的なアプローチを要求します。弦楽器のノンビブラート奏法や、ナチュラルトランペットの使用などですね。すごくアーノンクールっぽいのですが、アーノンクールほどの緻密さはないです。緻密さがない分だけ、過度に緊張感が煽られないという良さがあります。

2.オーケストラについて
オケに関しては、モーツァルトの20番の弾き振りの頃からそれほど変わっていないと思いました。ただ、2番、3番、4番とベートーヴェンが進化していくさまを表現していたのは、さすがです。具体的に言うと、2番のアーティキュレーションは軽めで、3番は重め、4番は室内楽アインザッツという分類です。この違いを際立たせていたのが印象的でした。チクルスならではのアプローチといえるでしょう。
2番の第一楽章はオケの調子が出なくて、おっかなびっくり、という感じのノンビブラートなトーンで、もっさりしたアンサンブルになっていました。どうなることかと思ったのですが、第二楽章から取り戻しました。ただ、ピアニッシモで十分に音量が落ちないのが不満でした。アンスネスのピアノは完璧にコントロールしたピアニッシモを出してくるので、同じレベルでオケも演奏して欲しいところです。ちなみに、アーノンクールはもっとオケの音量を絞る(絞らせる)のです。
3番は中期のベートーヴェンらしく、デュナーミクコントラストをはっきりさせた演奏が印象的でした。この演奏がこの日の最高という人もいて、カーテンコールが5回とか6回とか7回?まあとにかくすごかったのですよw
4番は、私が最も好きなベートーヴェンのピアノ協奏曲です。羽田健太郎さんが日本音楽コンクールの本選で(皇帝でなく)この曲を弾いたと知って、さすがわたしのハネケンだと思ったのは言うまでもありません(笑)。演奏内容は、(不遜な言い方だけど)自分ならこう演る、というほど自分自身の解釈と一致していましたので、文句ありません。

3.全体的に気になったコト
オケと、アンスネスの独奏ピアノのアプローチが違いすぎだと思いました。4番はまずまずでしたが、2番、3番でオケをああいうふうにするなら、ピアノのアプローチも変えて欲しかったところです。完璧なピアノなだけに、アプローチの違いが際立つという状況でした。また、ピアノであのアプローチをするなら、オケはウィーンフィルのほうがいいとも思いました。ツィメルマンは若いころウィーンフィルをバックにやはりベートーヴェンの協奏曲を弾き振りをしていますけど、アンスネスもそのポジションに立つ資格は十分にあると思います。

アンスネスのピアノのすごさについては、多くの人が語っていますが、安定性がすばらしいといつも思います。絶対に破綻しないし、どんなパッセージもやすやすと弾いてしまいます。弱音の美しさは言うまでもないですが、豪腕のフォルティッシモでなく、しなやかなバネで深く響き渡るフォルティッシモを出すのが素晴らしいですね。