ヤマト音楽本の入稿が終わりましたの巻

コミケ用の宇宙戦艦ヤマト音楽本を入稿しました。本文44ページになりました。見本はそのうちUPします。あまり難しいことは考えずに、好きなことをやろうと思って原稿を書きました。こういうスタンスだと気が楽になるのは当然ですけど、原稿の進み方もスムーズでよかったです。

表紙のために久しぶりに絵を描きました。デジタル作画にもチャレンジしました。Astropadというアプリを使って、iMacで起動しているクリスタに対して、iPad Proを液晶タブレット代わりに使ってお絵描きしています。これがダメだったらワコムの高い液タブ買うしかないなあって思っていたんですけど、全然大丈夫でした。ワコムよりいいんじゃないかと思います。

コミケにはもう1冊、ユーリ!!! on ICEの音楽本を出すつもりなので、ひきつづき頑張ります。ほとんどの印刷会社はコミケの10日前入稿でも大丈夫だそうで、昔とは比べ物にならないスピードですけど、割高になったりするので、できるだけ今月中の入稿を目標にします。

ようやくモラトリアムが終了したらしい米倉利紀氏のライブ@Zepp Tokyo の巻

自分の米倉氏歴に関して、過去の日記を読み返してみると、1999年9月に出張帰りの飛行機の中で偶然 "good time" プロモを見たのがきっかけで聴き始めて、途中でフォローするのをやめたりして、また戻ってきて、今回が初ライヴ参戦です。

まずフォローをやめた理由から書くと、この人の音楽はキャリアを続けても変化がなく、どのアルバムを聴いても同じ印象で、面白みを感じなくなってしまったからです。ただライブがすごいという話は聞いていたし、セクシャリティを含めあまり自分を隠さなくなったようなので、2年半ほど前に sTYle72 というアルバムから戻りました。これが良かったので、レビューしてます。

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このアルバムも15年前と変わらないナルシシズムや、カッコつけた感はありました。サウンドの方向性も驚くほど変わっていない。ですが、それを変わらない個性だと、ポジティブに捉えられました。同じことを15年も続けるのは、大変ですからね。そこからまた聴くようになったのですが、昨年リリースした swich というアルバムでガラッとサウンドが変わりました。一言でいうと大人のサウンドです。そして今年リリースした smoky rich というアルバムはその方向性をさらに洗練しつつ、より自由で(本人の言葉を借りるなら「ゆるい感じ」)、懐の深い音楽になっていて感動しました。こんなふうに変わった彼の音楽をナマで聴きたいと思ったのが、重い腰をあげさせてくれたという話です。

smoky rich

smoky rich

 

 ↑大人のためのポップス。おすすめでございます。

今回のライブでもMCでもそのあたりを語っていて、「自分もそろそろ大人にならないと」とか、「勝ち続けないといけない、みたいなガツガツした姿勢がなくなってきた」という気持ちの変化を素直に音楽に表したということでした。45歳を前にしてようやくモラトリアム終了ということですね。

ここまででかなり長いエントリーになってますけど、もうどうせなら書きたいことを書こう。

米倉氏の変化の件ですが、まず歌詞が変わっています。1999年の時点では「恋も仕事も全部!乗り切ろう!」*1と書いています。これはマーケティング的にいうと独身のF1層をターゲットにしているのですが、要は彼自身がF1メンタリティを持ちつつ、若々しい力強さをアピールしたかったのだと思います。この傾向は2013年リリースの sTYle72 でも続きます。なにしろ1曲めのタイトルが "higher and higher" ですから、40歳超えてもまだ気分は若者で高みを目指すのです。これをカッコいいと捉えるか、痛いモラトリアム(反抗)と捉えるか、微妙なところです。何に対するモラトリアムかというと、ズバリ「老い」に対するモラトリアムです。ところが近年のアルバム switch の1曲め "chance" では、これを「自分が変化するチャンスが来た」とポジティブに捉え、「あまり難しく考えず」しかし「たった一度の人生だから、がむしゃらに生きてみよう」と歌っています。老いや人生の終わりを肯定しないと、一度きりの人生という言葉は出てきません。ものすごい変化です。

40代は、老後や人生の終わりを意識しはじめる年代です。ここをどう乗り越えるかは、万人に降り掛かってくる課題ですが、表現をなりわいとする人にとっては特に大きい障壁になると思います。例えば三島由紀夫(45歳没)の最期は、ここを乗り越えることを拒絶して、自分の理想とする形で自らの人生を終わらせたと見ることもできます。

逃れられない老いを拒絶しても不毛なので、まずは許容した上で、自分自身の中で折り合いを付けていく。これが米倉氏のいう大人になることではないかと思いました。

サウンド的な変化としては、ゆるさの演出としてリズムの跳ね方が甘くなっています。DTM的に分析すると、SWING値が50から20~30くらいに落ちている(笑)。これはアレンジャーに拍手です。米倉氏はMCでも「ゆるい感じで」を連発していて、感覚的にオーダーしているようですが、それをうまくサウンドに落とし込んだと思います。もちろんユルユルにならないように、2・4拍に入るスネアなどに溜めがあります。今回のライブでもジャストより少し溜めがあるドラマーを起用していました。オーディエンスが縦ノリではなく横ノリになっていた要因の1つはこれですね。

ボーカルに関しても、さらに向上したいという意欲があると語っていたのが印象的でした。これ以上なにを望むかというほど歌える人ですし、このライブも歌に抱腹絶倒のMC*2にと3時間声を出しっぱなしで全然平気という恐るべきスタミナを見せつけてましたが、この部分だけは加齢に抵抗したいという彼のプライドですね!

*1:"good time"

*2:これも噂では聞いていたんですが、想定外にトークが上手くて驚愕。よどみないトークで客をいじり倒す芸人魂のようなものを感じました(笑)

宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち 第二章より加藤さん家のBGMを演奏してUPしましたの巻


宇宙戦艦ヤマト2202 第二章より加藤さん家のBGMを弾いてみた

 

UPしましたー。

第二章の感想は、ネタバレ無しのやつをご覧ください。とりあえず、コミケに出すヤマト本の原稿でてんやわんやです(;´Д`)

コミックマーケット92にサークル参加しますの巻

8月12日(土)東地区O(オー)ブロック-22a サークル名「コスモピアニスト」です。宇宙戦艦ヤマト第一作&2199の音楽解説の薄い本を出す予定です。がんばりますので、よろしくおねがいします。

ほんの思いつきで申し込んだら抽選に通ってしまいました。これでもう今年の運を使い切った感じですけど、マイナージャンルなので競争率が低かったんじゃないかと思います。

宇宙戦艦ヤマト2202 第二章 発進篇感想の巻(ネタバレなし→あり)

新宿ピカデリーでの最速上映を見てきました。ネタバレしないで広めてくれという公式のお願いに従い、ネタバレなしありで感想を書きます。(公開されたので解禁します)

1.全体像

例によって駆け足展開で、シーン転換が唐突なことが多いので、画面で起きていることの裏や省略されたもの(プロットや脚本にあってオミットされたこと)を、脳内で補完しないとわかりづらいと思います。あと第一章でも感じたことですが、2199で既出なことは既出として処理されることと、事象が起きている場所を明示的に説明しないことがあるので、唐突なシーン転換と相まって、いろいろわかりにくい構成になっています。なので、初見ではかなり面食らって、あとで頭の中が整理されることで全体像を把握できた感じです。

以上を好意的に捉えると、スピード感のある演出ということになりますが、これは旧作でのじっくり系演出や、2199におけるノスタルジー感とは全く異なっていて、新しい方法論だと思いました。おそらく2202は最後までこんな感じの演出だと予想します。

2.福井晴敏は好きなことをやっている

第二章に至って、この作品は2199の置き土産的な設定と、さらばヤマト・ヤマト2の展開を流用した、福井晴敏のオリジナル作品だという認識を強く持ちました。

第一章のときは謎の盾(実は波動防壁)とかアンドロメダ進駐式の派手な演出とか、ケレン味全開なビジュアル表現が目立ったのと、旧作オマージュ感が強いシーンが多かったため、福井氏がなにをやりたいのか今ひとつ伝わってこなかったのですが、今回は旧作オマージュはファンサービス*1に過ぎず、本当にやりたいことはそこではないというのが明確に伝わってきました。

シナリオ面では、キャラクターの主観的な描写が多かったガンダムUCとは異なり、視点を増やして多角多面的・俯瞰的に物語を見せようとしていることがわかります。ただ尺に収めるためにはカットせざるを得ない場面もあるので、その結果としてシーン転換が唐突になっているようです。おそらくシナリオ段階ではもっといろいろ書かれていてわかりやすいと思うので、2199と同様にコンテ前のシナリオの発売を希望します。

古代は純粋ではあるけれど、司令部に反抗するなど子供っぽい性格に描かれています。この辺はガンダムUCと共通するところで、長官や山南さんなどは、もう完全に可愛い息子として見ていることが、表情からわかります。今後ここに土方さんも加わると思うので、おじさんキャラに育てられる古代がどんな未来に向かうのか楽しみです。この部分は完全にオリジナルですね。

島は司令部との確執から軍を辞めようとしていたようですが、このほうが大人っぽいですね。あと真田さんは第一章から裏工作が多くて、古代を立てる形にしつつ自分は責任逃れができるポジションに行こうとするのが、すごく大人っぽくて嫌らしいです。こういうキャラ大好きです(笑)

バレルとキーマンは今のところ狂言回しの役どころで、説明セリフが多いながらも、根回しタイプのバレルさん、ちょっとイヤミなキーマンというキャラ像をうまく確立していると思います。リメイク作品におけるオリジナルキャラの扱いって難しいと思うんですが、この2人はうまくいっていると感じます。

あとヤマト2199では実際の天文学的な情報が取り入れられていましたが、今回も次元断層で最新の天文学の知見がチョロっと入ってきます。あれは福井さんのアイディアかな。よく勉強なさってると思いました。要するにウラシマ効果の逆バージョンなのですが、反重力や負の質量(=負のエネルギー)、虚数の速度(二乗するとマイナスの値になる=エネルギーがマイナス)といった自分もいま非常に強い興味を持っている事象なので、まさにタイムリーなネタでした。それをリアルなものとしてではなく、SFギミック的に取り入れているのがヤマトっぽくていいです。実はここ、すごく書きたいんですけど、ネタバレになってしまうのでどうしても書けません

もう一つ重要なのが、(白色)彗星という言葉が一度も出てこないことです。あれは天文学的には彗星ではないと言われ続けてきましたが、2202は最初からそんな言葉は存在しないものとして扱われているのが清々しいと思います。

3.その他

活動休止を発表されていた細谷佳正さんが出演なさっています。実はこれが一番心配でした。加藤の声が聞けて嬉しかったです。

ネタバレ回避するのがつらいエントリーでした。ということで、みなさん6月24日を楽しみに待ちましょう。

*1:このファンには福井氏自身も含まれます

弦楽器を打ち込むようになったの巻

自分がDTMをやるときは、リアルタイムに鍵盤を弾いてシーケンサーに記録したものをクオンタイズ*1したり、差し替えるなどしてトラックを作っていきます。打ち込み(音符の長さを指定して、音程と打鍵の強弱だけ鍵盤から入力するやりかた)は、ドラムくらいしかやってなかったんですが、弦楽器も打ち込むほうが効率的なので、打ち込むようになりました。

なぜ打ち込むようになったかというと、弦楽器をポリフォニック・モードで演奏する場合は厳密な音符の長さの制御が必要で、それが自分の演奏技術ではできないから、というのが最大の理由です。フレーズの音と音がブツ切れになってはいけないし、次の音と重なりすぎてもいけない。繊細なコントロールをしなくてはいけません。モノフォニック・モードなら、次の打鍵をすると自動的に前の音が消えるので弾きやすいんですが、INTEGRA-7の弦楽器をモノモードで弾くと不自然なニュアンスになるので、ポリフォニック・モードで弾くしかないのです。そんなわけで、音符の長さをあらかじめ指定できる打ち込みが大活躍です。

なお、管楽器はモノモードでも自然な演奏ができるので、相変わらずリアルタイム演奏でやってます。

打鍵がコントロールができないのは、実はキーボード(Roland A300 pro)自体の問題もあります。本当に弾きにくいのです。なので買い替えたいんですけど、INTEGRA-7と組み合わせるにはRoland製品の機能が必要なので我慢しております。

電子楽器界隈では、日本メーカー各社のピアノタッチ鍵盤は進化しているのに*2、軽量鍵盤はコストカットのため質が低下しています。それでも折に触れてはいろいろな鍵盤を試しています。近年良いと思った軽量鍵盤は、なんといっても Native Instruments の KOMPLETE KONTOROL です。コスト度外視の豪華仕様で、機能もタッチもすばらしいです。

*1:拍子に合わせる機能

*2:海外製キーボードはFATORというメーカーの寡占状態

デジタルピアノ&ステージピアノ新機種レビュー(2017年版)の巻

Roland RD-2000を購入しようと画策する日々を送っていますが、購入を決める前に他の機種も見ておきたいということで、たくさんの電子ピアノ・ステージピアノが比較できる島村楽器新宿店で比較試奏してきました。

ヤマハ:グラビノーバCLPシリーズ

3年サイクルで新製品を出すヤマハは、今年もスケジュール通りに新機種を発売しました。その内容は、より明確にカワイを意識したラインナップです。どういうことかというと、まず上位2機種4モデルにグランドタッチ鍵盤という、明らかにカワイCAシリーズを模倣した鍵盤を搭載し、それ以下の機種と差別化するという戦略です。黒鍵の素材も格段に良くなりました*1。これでようやくカワイと対等に渡り合えると思います。あと上位機種しか搭載していなかったベーゼンドルファーのサンプルを下位機種にも搭載したことで、下位機種も売れているそうです*2。カワイよりも演奏しやすいのが特徴だと思いますが、いい加減に弾いてもありえないほど同音連打が入ってしまうとか、甘いタッチでもきれいに鳴るとか、気持ちよく弾ける要素が満載で、自分がうまくなったと錯覚する危険性があります。ヤマハの方針(音楽をエンジョイする)には沿っているとは思います。

Clavinova(クラビノーバ) CLPシリーズ - 電子ピアノ - ヤマハ株式会社

  • CLP-685
    最上級モデルで新開発の鍵盤を採用していますが、打鍵感が同社のアップライトピアノに近いように思えるのと、若干ガタつき音があるので、あまり好きではありません。タッチそのものはCLP-675より軽く感じます。譜面立てがアップライト方式なのは改善してほしいところです。
  • CLP-675
    CLP-685とは鍵盤が違っていて、こちらのほうがグランドピアノに近いタッチ感ですし、タッチの強弱で音色が変化するのがリアルです。このモデルは設計が熟成されていて、完成度が高いと思います。
  • CLP-645
    2世代前のフラッグシップに使われていた木製鍵盤を採用していますが、タッチ感は生ピアノとは程遠いです。また音色の強弱の段階数が減っているようで、タッチの強弱による音色変化に乏しいので、サウンドの面でも生ピアノから遠いです。クラシックピアノの練習をするなら、CLP-675以上を選択すべきだと思います。

コルグ:G1 Air

松井咲子を起用して勝負に出たらしいステージピアノです。波形はスタインウエイ、ベーゼンドルファーヤマハの3種類のサンプルを搭載しています。スタインウエイはKRONOS流用っぽいですが、強弱の段階が省略されているようで(3段階くらいしかない)、表現力が乏しいです。ヤマハも同様。女性をターゲットにした感があり、鍵盤を撫でるような弱いタッチで弾いても芯のある音色が出る設定になっていて、その意味では弾きやすいと思います。問題はベーゼンで、これの波形だけ音色の段階数が多く、弱音の表現力が格段に高いです。柔らかい音色が好きな人は、ベーゼンで弾いたほうがいいと思います。下記のホームページでデモ演奏を聞けますが、ベーゼンだけランクが違うことがわかると思います。

www.korg.com

ローランド:RD-2000、FP-90ほか

RD-2000と同じPHA-50鍵盤を採用したことで話題のFP90は、実質的にはRD-2000のマスターキーボード機能とV-piano音源を省略し、スピーカーをつけたモデルです。スピーカーとアンプを内蔵した分だけ、RD-2000より重くなっています(23.6kg)。ということで、自分はRD-2000でなく、FP-90を購入しようと思います。これで十分なので。ローランドのピアノ製品は、PHA-50鍵盤採用モデルとそれ以外という区別が明確ですね。あとこれも話題になったKIYORAは、外観がオシャレなFP-90です。FP-90は見た目が野暮ったくて20万円超の高級感とかまったくないのですが、KIYORAの高級感は素晴らしい。サウンドデザイナーがアプリ経由というのが欠点ですね。デジタルピアノは10年くらい使えますけど、タブレットスマホはせいぜい3~4年で買い替えますし、古いアプリはどんどん使えなくなります。

www.roland.com

 

新製品ではありませんが、今回もカシオGPシリーズを試奏してきました。弱音の表現力では、やはり段違いだと思いました。次がローランドの製品で、ヤマハ、カワイになるともう弱音の表現はあまり望めません。GP-300や500を弾いていると、自然に音色や音量を意識した演奏になりますので、中級以上のピアノレスナーのかたでデジタルピアノの購入を考えている際はぜひ考慮していただきたいと思います。

※追記

KORG Grandstageとnord piano 3も試奏しました(結局nord piano 3を買った)。レビューは下記参照。FP-90を買わなかったのはPHA-50鍵盤に違和感を覚えたからで、そのあたりのことも書いています。

 

harnoncourt.hatenablog.com

 

*1:電子ピアノの黒鍵の素材の悪さについては、以前から多くの人が指摘しています。

*2:最初からやれよ、と思った人も多いでしょう。