新装版あちらこちらぼくら上・下(たなと)の巻

たなと先生にしては珍しい普通の男子高校生マンガです。「たなと」は言うまでもなくタナトスからの引用で、そんなPNをつけてしまう人ですからエキセントリックな設定の作品が多かったですし、特に攻め役が人生を捨ててるような(まさにタナトスを具現化したような)ところがあって、その痛さのある設定や描写に共感や魅力を覚える人もいたと思います。でも今回はそういうネガティブな要素は控えめで、無意識的に好き合ってしまった二人の微妙な心の動きを丁寧に描いています。押しかけで始まった友人関係の話なので終盤までBLという雰囲気ではなくて、徐々に関係性が深まっていく演出が優れていると思いました。クライマックスはかなり切なくて泣けます。

たなと先生の作品はかなり癖が強くて読む人を選ぶところがありましたが、この作品はどなたにもおすすめできると思います。amazonの評価がオール5になっているのも頷けます。 (でも坊主頭フェチだけは揺るがないw)

先日読んだワンルームエンジェル(はらだ著)と動揺に、この作品も幸せでリアリティのある終わり方をするので、昭和ファンタジーJUNEじゃなくて平成リアルBLドラマなんだなあという思いを持ちました。

 

新装版 あちらこちらぼくら 上 (eyesコミックス)

新装版 あちらこちらぼくら 上 (eyesコミックス)

 

 

新装版 あちらこちらぼくら 下 (eyesコミックス)

新装版 あちらこちらぼくら 下 (eyesコミックス)

 

 

※ 期間限定でビックコミック版第1巻が配信中

 

アレクサンドル・クニャーゼフ& ニコライ・ルガンスキー リサイタル@紀尾井ホールの巻

クニャーゼフ(チェロ)&ルガンスキー(ピアノ)のリサイタルでした。

どちらも生で聴くのは初めてで、録音では今ひとつと思っていたクニャーゼフが想像以上に素晴らしく感動的な演奏会になりました。

※プログラム
ショスタコーヴィチ チェロソナタ
・フランク ヴァイオリン・ソナタ(チェロ版)
ラフマニノフ チェロソナタ

・アンコール
 ブラームス:マゲローネによるロマンスop.33-12「別れるべきなのか」
 ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ第3番ニ短調op.108第3楽章
 J.S.バッハトッカータアダージョとフーガ ハ長調BWV564よりアダージョ

クニャーゼフは正攻法型のチェリストで、真摯でストレートな感情表現なのでわかりやすかったです。強弱表現の幅がとても大きくドラマティックでした。ピチカートがものすごく大きく響くなど、物理的に音量が大きいのでかなり迫力があります。
ルガンスキーはコントロールを優先するタイプのピアニストで、アンスネス並の精緻な強弱コントロールでびっくりしました。録音だとピアニッシモのバリエーションがわかりにくいんですが、生演奏ではバッチリでした。

各曲の演奏ですが、ショスタコーヴィチは適度にグロテスクさを抑制していて、独特のアイロニーやユーモアをうまく表現していました。フランクはどうかなと思っていたのですが(ロシア系の演奏家はフランス音楽と相性が悪いことが多いので)、フランス系演奏家の洒脱さとはまた違ったダイナミックな表現で、フィナーレなどはひときわ感動的でした。この2曲は割と慎重に弾いていましたが、ラフマニノフソナタは一気呵成に弾ききって、エネルギッシュな盛り上がりになりました。そしてアンコールのブラームスが意外に(といったら失礼ですが)よくて、ブラームスのCDを買ってしまいました。

情熱的なクニャーゼフを、理知的でバランスの取れたルガンスキーが支えるという構図はなかなかよかったですが、ルガンスキーの演奏をソロで聞いたら「上手いな」以上の感想を抱けるかどうか、疑問が残りました。楽曲の造形をきっちり作り上げることを第一義にしているようで、音楽に対する共感の表現や自分自身の立ち位置の表明が弱く、一歩引いた音楽なのです。なのでよく言えば玄人受け、悪く言えばアピール力がないように思えます。
このあたりは先に名前を上げたアンスネスにも通ずるところです。知と情のバランスだったら情に寄った演奏のほうが自分は好きです。せっかくのライヴなので、録音みたいに綺麗な演奏でなくてもいいのではないかと思うのでした。ということで、ルガンスキーにはもう一皮むけていただきたいと思います。
ただ全体としては非常に満足度が高い演奏会で、アンコールを含めて2時間半近くを高い集中力を保って演奏しきった二人に大拍手です。

ドラマ24「きのう何食べた?」のBGMを演奏してUPしましたの巻


よしながふみ原作ドラマ24「きのう何食べた?」のBGMを弾いてみた:楽譜付き

 


よしながふみ原作「きのう何食べた?」のBGMをいろいろ弾いてみた・その2:楽譜付き

 

腐女子界隈で話題のドラマ「きのう何食べた?」の劇伴を耳コピして演奏してみました。低予算ドラマらしく、劇伴も小ぢんまりとしている感じでかわいい曲が多いですね。料理の場面に流れる「きょうの料理」オマージュな曲も好きなので弾いてみたいです。例によって予定は未定です~。

ワンルームエンジェル(はらだ)の巻

最近読んだBLコミックで一番グッときた作品です。思わずアマゾンのレビューを書いてしまいました。昭和時代に須和雪里さんがこういう設定の小説を書いていて、JUNE小説道場主(もちろん栗本薫)に激賞されていたことを思い出しました。平成が終わるというのに、こういう昭和チックな作品が来るというのも面白いなと思いました。

自分がBLが好きなのは、やはり孤独な魂が巡り合って補完しあうという、この宇宙で最も小さな人類補完計画を見るのが好きだからというのがあります。この漫画はまさにそれで、死んだような日々を送るどうしようもない主人公に天使が降りてきて、互いに補完されていくお話です。

ワンルームエンジェル (onBLUEコミックス)

ワンルームエンジェル (onBLUEコミックス)

 

 

大友克洋「童夢」イメージアルバム到着の巻

待望のCDが届きました。
80年代のアルバムなので音質面はあまり期待していなかったのですが、マスタリングが良くて期待以上のサウンドでした。

とてもコンセプチュアルなアルバムで、A面は打ち込み系サウンドで、B面は生演奏が増えてロック寄りになり、最後の3曲はアコースティックピアノが中心になるという流れになっています。
リリース当時は毎日のように聞いていていました。ザ・スクエア参加前の和泉宏隆さんがピアノを弾いています。あまりにも好きすぎてコピー演奏をしてYouTubeにアップしたら、作曲者の伊豆一彦さんご自身がコメントを下さるという僥倖に恵まれました。

 


大友克洋「童夢」イメージアルバムより Act.7 Scene23 を弾いてみた:楽譜つき

ヒノキ花粉と気管支症状の巻

相変わらずダラダラと花粉症が続いています。ヒノキだと思うのですが。
鼻の症状はフルチカゾン点鼻でほとんど抑えられるのでいいものの、飛散が多い日は咳や痰といった気管支系の症状が出てしまい、これが夜中まで遷延するので寝付きが悪くなったりしてQOLを下げてます。

気管支系の症状が毎年少しずつ悪くなっているのがわかるので、今年の花粉シーズンが終わる前から来年はどうなるんだろうと今から不安です。

とりあえず今日は上記の症状のパターン(気管支症状が長引くこと)が判明したので次の週末にアレルギー科を受診しようと心に決めました。

宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち 最終回で起きたことを解説するの巻

私の職場はアニヲタが多いです。年齢層も幅広く、高校時代に森田宏幸氏と自主アニメ制作をした筋金入りの人*1や、メガゾーン23で主題歌を担当していた宮里久美さんのおっかけをしていた世代から、ヤマト2199で初めて宇宙戦艦ヤマトシリーズを見た人までさまざまです。

彼らも宇宙戦艦ヤマト2202を見ていたのですが、最終回の内容がわからないという意見を聞きました。自分も初見のときは意味不明で何度も見ていくうちに理解できましたので解説したいと思います。

f:id:Harnoncourt:20190403093316p:plain

 

1.最終回前の状況
第25話「さらば宇宙戦艦ヤマト」において、ヤマトの臨界寸前の波動エンジンがトリガーとなってテレサを召喚します。
その前にテレサによって山本が隔離されていますが、たまたまヤマト=臨界寸前に至る前の波動エンジンに近いところ山本がいたので、なんとか彼女だけ救うことができたと考えられます。そしてテレサとヤマトは滅びの方舟を消滅させますが、テレサがその崩壊エネルギーとヤマトそのものを高次元へ隔離することで、地球は救われます。

2.最終回の状況
(1)ボロボロのヤマトが時間断層に帰還します。
(2)銀河のCRS*2を修理します。ヤマトも修理します。
(3)銀河のCRSでヤマトを高次元世界へ打ち出します。
(4)ほどなくして時間断層は金色の滝となって崩壊し、その中から古代と雪を乗せたヤマトが出現します。
(5)地球よ、ヤマトは…

3.解説
(1)ヤマトが時間断層に戻ってきた理由
テレサによってヤマトは高次元世界に隔離されましたが、高次元世界では実体を持った物質は存在し得ないのでただちに排出されたと考えられます。地球で6ヶ月後だったのは時間の流れる速度が違うからです。高次元世界には一瞬しかいなかったので山本は餓死することもなく帰還しました。通常区間でなく時間断層に戻ったのは、真田さんの説明通りそこに次元結節点があったからです。次元結節点はワームホールのようなものだと考えられますが、ヤマトという大きな物体が通れるくらい巨大で、なおかつ可視化されているのがポイントです。(量子力学で扱うワームホールは理論的な存在で可視化されません)
そしてこれで時間断層の仕組みも説明がつきます。つまり、時間の進み方が極端に遅い高次元世界と接しているので、時間断層内では時間の進み方が早くなるのです。作用と反作用の関係です。
(2)古代と雪が戻らなかった理由
古代と雪も実体を持ったまま高次元世界に隔離されたのでヤマトと一緒に排出されそうなものですが、意識(ココロ)が戻りたがらなかったので実体も戻りませんでした。
この部分は極めてヤマトらしい展開だと感じます。よくあるアニメや漫画だと肉体だけ現実に戻ったものの意識は戻らないという展開になるのがお約束ですが、ヤマトだからそうならなかったと思います。
(3)金色の滝の出現場所について
本来は、時間断層が出現するきっかけとなった場所、すなわち沖田の魂をコアとしたCRS発動がなされた場所に出現するのが妥当だと思います。もしくは、滅びの方舟もろともにヤマトが隔離された場所です。しかしCRS発動から3年以上経過し、ガトランティス戦役からも半年以上が経過しています。その間に太陽系も移動しているので、地球の近傍に出現するわけがないのです。ということで、これはファンタジーと捉えましょう。
(4)芹沢の涙の理由を勝手に考察するよ*3
最終回で芹沢が「君たちが羨ましい」といった意味を考えてみます。
芹沢も感情的には古代と雪を救出したいのだけれど、立場上から時間断層の存続を訴えざるを得ません。芹沢は常にそういう選択をしてきた人だと思います。そして国民投票の結果、時間断層は消滅したけれど古代と雪が救出されました。
つまり、自分が本心として望んだことがようやく実現できたこと、そして自分自身はその選択をすることを許されないという葛藤から開放された安堵の気持ちが、あの涙になったのだと思います。
最終回での感動ポイントが「Great Harmony」の場面から「大いなる愛」に変わり、いまは芹沢の涙に変わっております。「ヤマトより愛を込めて」の歌詞にあるように、冷血を貫いた芹沢の胸にも愛が蘇った、ヤマトらしいロマンティックなエンディングだったと思います。

*1:このブログに何度も登場している真田さん

*2:コスモリバースシステム

*3:これが一番書きたかったことだったりする