アレクサンドル・クニャーゼフ& ニコライ・ルガンスキー リサイタル@紀尾井ホールの巻

クニャーゼフ(チェロ)&ルガンスキー(ピアノ)のリサイタルでした。

どちらも生で聴くのは初めてで、録音では今ひとつと思っていたクニャーゼフが想像以上に素晴らしく感動的な演奏会になりました。

※プログラム
ショスタコーヴィチ チェロソナタ
・フランク ヴァイオリン・ソナタ(チェロ版)
ラフマニノフ チェロソナタ

・アンコール
 ブラームス:マゲローネによるロマンスop.33-12「別れるべきなのか」
 ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ第3番ニ短調op.108第3楽章
 J.S.バッハトッカータアダージョとフーガ ハ長調BWV564よりアダージョ

クニャーゼフは正攻法型のチェリストで、真摯でストレートな感情表現なのでわかりやすかったです。強弱表現の幅がとても大きくドラマティックでした。ピチカートがものすごく大きく響くなど、物理的に音量が大きいのでかなり迫力があります。
ルガンスキーはコントロールを優先するタイプのピアニストで、アンスネス並の精緻な強弱コントロールでびっくりしました。録音だとピアニッシモのバリエーションがわかりにくいんですが、生演奏ではバッチリでした。

各曲の演奏ですが、ショスタコーヴィチは適度にグロテスクさを抑制していて、独特のアイロニーやユーモアをうまく表現していました。フランクはどうかなと思っていたのですが(ロシア系の演奏家はフランス音楽と相性が悪いことが多いので)、フランス系演奏家の洒脱さとはまた違ったダイナミックな表現で、フィナーレなどはひときわ感動的でした。この2曲は割と慎重に弾いていましたが、ラフマニノフソナタは一気呵成に弾ききって、エネルギッシュな盛り上がりになりました。そしてアンコールのブラームスが意外に(といったら失礼ですが)よくて、ブラームスのCDを買ってしまいました。

情熱的なクニャーゼフを、理知的でバランスの取れたルガンスキーが支えるという構図はなかなかよかったですが、ルガンスキーの演奏をソロで聞いたら「上手いな」以上の感想を抱けるかどうか、疑問が残りました。楽曲の造形をきっちり作り上げることを第一義にしているようで、音楽に対する共感の表現や自分自身の立ち位置の表明が弱く、一歩引いた音楽なのです。なのでよく言えば玄人受け、悪く言えばアピール力がないように思えます。
このあたりは先に名前を上げたアンスネスにも通ずるところです。知と情のバランスだったら情に寄った演奏のほうが自分は好きです。せっかくのライヴなので、録音みたいに綺麗な演奏でなくてもいいのではないかと思うのでした。ということで、ルガンスキーにはもう一皮むけていただきたいと思います。
ただ全体としては非常に満足度が高い演奏会で、アンコールを含めて2時間半近くを高い集中力を保って演奏しきった二人に大拍手です。