プロコフィエフ ピアノソナタ6・7・8番:アブデル・ラーマン・エル=バシャの巻

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エル=バシャの演奏の基本は『コントロール重視で抑制的』だと思っていて、今回のCDもその路線です。ただ全体的にポリフォニーを意識していて、多声部を異なる音色やアーティキュレーションで弾き分けることを徹底しており、その表現が極めて緻密で精緻です。普通のピアニストだとポリフォニーの表現において主要なパート以外は目立たないように演奏して主パートを浮き彫りにしますが、エル=バシャはそういった副次的な要素も、ささやくように横槍を入れるニュアンスだったり、明後日の方向を向いて歌ったり、手を変え品を変え表現してきます。すべてのフレーズ、すべての音符に意味があると考えて(というか意味を見出して)、一切の要素を漏らさず弾ききるという強い精神力が感じられます。
そのため圧が強い演奏ですし情報量がものすごく多いです。7番なんかは最初から最後まで情報量が多いので、ひたすらくどいです。エル=バシャの演奏からクドさを感じる日が来るとは思わなかったのでとても驚きました。絶対に弾き飛ばさないという強烈な自意識が伝わってきます。この自意識過剰感はまさにプロコフィエフの音楽ではないかと思います。

こんな演奏のどこが抑制的かというと、フォルテの最大音量を明らかに抑えているところと、主旋律をあえて一本調子で弾くことで強調する場面が多い点が挙げられます。

なおエル=バシャのこの傾向は突然生じたものではなく、その萌芽は下記の動画(プロコフィエフトッカータ)でも聴くことができます。やはり「私は弾き飛ばすようなことはしませんよ」という演奏です。

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こちらの演奏が収録されたCDは10年ほど前にブログで取り上げていて、やはりエル=バシャの演奏の変容に驚いています(笑)

harnoncourt.hatenablog.com