田村由美「7SEEDS 」は小松左京「復活の日」への意趣返しなのか?の巻

 

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7SEEDSは、「近未来SFサバイバルストーリー」という触れ込みのポスト・アポカリプス作品。当初、こんなハードSFを少女マンガ誌で連載するのはすごいと思って読み進めていったところ、ストーリーの重点が徐々に人間関係にシフトしていって、生き残りメンバー間で性犯罪(未遂)が発生したところで、ああこれがテーマなんだ、いつもの田村由美先生だわ、と納得しました。ポスト・アポカリプスという法秩序のない世界において、性犯罪者と被害者の関係性をしっかり掘り下げながら並行でサバイバルストーリーを完結へと導いていきます。本編35巻、外伝(実はこれが完結編)1巻という大長編で読み応えありました。

全体としては、小松左京の「復活の日」の影響を強く感じる内容です。田村先生的には、復活の日における女性の扱いが許しがたいようで、オマージュと言うより小松左京への意趣返し的なエピソードが多いです。

復活の日」はパンデミックで人類の大半が死んだあとに、南極基地でわずかに生き残った人々を描いた物語ですが、女性の扱いがひどいのです。7SEEDSの中でも「復活の日」に関する話はチラッと出てきて、あの南極では女性が複数の男性の共有物となってセックスをし、子供を生み、育てる役割を担うということが説明されます。実際、すべての女性はその扱いを受容しており、主人公男性の母のように振る舞う人までいるのです。小松左京氏としては女性を聖母として描いたつもりらしいですが、現代的な感覚では人権無視も甚だしいです。

田村先生も「小松先生、それ違うと思います!そんな綺麗事じゃないです!」という気持ちで7SEEDSを構想したのではないでしょうか。そして人権感覚に乏しく強い生存本能だけで生きのびたキャラクターたち(夏Aチーム)と他のキャラクターの確執を描く中で、田村先生の考える女性像を表現していきます。とりわけ重要なテーマとして、『心に傷を負ってしまったら(負わせてしまったら)その傷は永遠に修復できないこともある』ということが7SEEDSの中で何度も描かれています。性犯罪者となったキャラクターですら、心に傷を抱えて苦しんでいる。この痛々しいリアリティこそ田村由美の真骨頂だと思います。

なので、意趣返しと言うより「復活の日の二番煎じになるとしても、女性である田村由美でなければ描けないもの描こう。それは男性である小松左京が描けなかったことでもある」という作者の揺るぎないジェンダープライドが全編にわたって溢れた作品といったほうが良いと感じます。