スティーヴン・コヴァセヴィチのベートーヴェン ピアノソナタ全集の巻

これも中古屋で安く売っていたので購入したまま放置されていたBOXで、昨日から今日にかけて聞きました。 新品でも2000円台で購入できるほどお安いですが、演奏はとても立派です。

Stephen Kovacevich - Beethoven : The Complete Piano Sonatas / Bagatelles

Stephen Kovacevich - Beethoven : The Complete Piano Sonatas / Bagatelles

 

あまりテンポを揺らさないストイックなスタイルで、速めのテンポで流れるようなフレージングを信条としている人だと思います。なので、重厚な演奏がお好きの方は少し物足りないかもしれません。しかし、ワルトシュタインのスピード感や、ハンマークラヴィーアの手の内に入った表現と見通しのよさは他のピアニストでは味わえないものがあると思いました。弱音の美しさと、絶対に破綻しないフォルティッシモの対比も見事です。

バガテル集も入っています。これがとても面白い。それぞれの曲の性格をしっかり把握して、バラエティ豊かな表現で洒脱に弾き分けています。いままでベートーヴェンのバガテルはあまり興味を持てませんでしたが、こういう演奏を聞くと弾いてみたくなりますね。

スティーブン・オズボーンのラフマニノフ関係CDの巻

またまたスティーブン・オズボーン氏の登場。今回はラフマニノフ関係のCDです。

オズボーン氏はどちらかというとカンタービレがあっさりしているピアニストなので、ロマンティシズムや感傷性の表現は抑えめで、純音楽的な演奏だと思います。その一方で、きわめて充実したフォルテを出せる人なので、雄大な表現を味わうことができます。

こちらのCDは選曲がコンセプチュアルです。メトネルの小品+ソナタop.53-1とラフマニノフソナタ2番はどれも変ロ短調なんです。その 合間にコレルリ変奏曲が加わっています。
ラフマニノフの2曲は見通しの良さに関しては文句なくナンバーワンです。音符が多くごちゃごちゃしやすいフレーズもしっかり整理して演奏できるので、常に余裕があるのがその要因ですね。特にソナタ2番のフィナーレはオズボーン氏の特徴である胸が熱くなるようなフォルティッシモを存分に堪能できる名演です。

前奏曲集はop.3-2の鐘から始まって、op.23とop.32が収録されています。これも実に見事でして、楽曲ごとのキャラクターの弾き分けなど本当に鮮やかで感心します。ただ欠点があって、あまりにも楽譜どおりにビシッと弾ききっているので、ロシアらしくないというか、寒さや厳しさといった表現が若干弱いと感じます。たとえば有名なop.23-5などは、ロシア人ピアニストだと主部の凍てつく寒さの表現と、中間部の濃厚な歌いまわしの対比がいかにもロシア風で良かったりするんですけど、そういうことはしないんですね。でも表現がおざなりというわけでなくて、楽譜に対してじっくり向き合っていることは十分伝わってきますし、とても真摯な演奏だと感じました。

ポリーニのベートーヴェン ピアノソナタ全集の巻

在宅勤務でテレワークしながら聴いているCDシリーズです。
だいぶ前になりますが、この全集もセールで安かったので買ったまま放置されておりました。 

Maurizio Pollini - Beethoven Complete Piano Sonatas

Maurizio Pollini - Beethoven Complete Piano Sonatas

 

 ポリーニは鍵盤を離すタイミングが遅いピアニストで、音を短く切るスタカートがいまひとつスパッと切れないとか、速いフレーズがダンゴになりがちとかいろいろ問題があると思うのですが、カンタービレなフレーズになるとこの特性がめちゃくちゃ良い方向に作用するんですね。なのでこの全集も気に入らない部分と、ものすごく好きな部分がごちゃごちゃに混ざった感じです。ただ、その一瞬の良さのために聞き続けるのはしんどいなというのと、重厚長大系な作品になると弾き飛ばしているような雰囲気もなきにしもあらずに思えました。緻密な演奏が好きな自分としては、残念なCDだなと感じました。

ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q 主題歌 桜流し を演奏してUPしましたの巻


ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q 桜流し を弾いてみた:楽譜付 Evangelion 3.0 You can (not) redo. Sakura Nagashi Hikaru Utada

シン・エヴァンゲリオン劇場版が延期になってしまったのでなにか弾こうと思ってこの曲を弾きました。

una corda(ソフトペダル)を多用しているので、久しぶりにINTEGRA-7のピアノを弾いています。MONTAGEのピアノより慣れているので強弱表現が思うようにできました。

プロコフィエフのピアノソナタを弾いてみたの巻(その2)

その1を書いてからだいぶ経ちますが、思い出したように弾いているプロコフィエフソナタです。放棄していた7番以降をがんばって勉強しました。

harnoncourt.hatenablog.com

・8番
この曲は第一楽章が重くて長く、中間に三拍子の変奏曲風で優美な楽章を挟み、最後は快速な曲調で華やかに終わります。つまりベートーヴェンの熱情ソナタの構成に近いです。そのため発表当時は画期的な7番と比較して退歩しているという批判もあったそうです。
第一楽章は冒頭こそ月光ソナタのようにまったりと始まるのですが、徐々に盛り上がってすさまじい音楽になるあたりはさすがです。特に、少ない音符で激しい慟哭と緊張感を表現した中間部は白眉だと思います。こういうのはプロコフィエフの十八番。この楽章は長いのと対位法が面倒なので難易度は10/10です。第二楽章は5ページのノクターン風の楽章です。難易度はソナタアルバム1程度ですけど、これを弾きたいという人はあまりいなさそう。もちろん自分は大好きです(笑)。第三楽章はピアニスティックに盛り上がるので難しそうに聞こえるものの案外弾きやすい(多少は弾きやすくなるように書いている)。転調しまくるのでいろいろな調のアルペジョ練習になるかもしれません。難所はたぶん人によって違っていて、速いところが苦手な人もいれば中間部の跳躍が音を外しやすくていやらしいとか、まあがんばりましょう。自分はアルペジョの中に突然同音連打が混ざるところが弾ききれないです。

ずっと6番を偏愛していた私ですが、新古典派という観点から見た場合この8番がもっともまとまりが良いように思いました。

・9番
この曲は全体的に禅問答のような構成(問いかけと応答という形が多い)で、盛り上がりに乏しいので集中力を維持するのに苦労します。しかし技術的な難易度は高くないです。ソナタアルバム2に入っている人なら余裕でしょう。でも難解なのでプロコフィエフ初心者がこれを弾くのは無理だと思います。なおフィナーレの終盤において、5連符トリルの上で旋律が奏でられる場面はどうしてもベートーヴェンソナタ32番を思い浮かべてしまいます。ハ長調ですしね。

以上でプロコフィエフピアノソナタ第2回を終わります。最も人気の高い7番をスルーしてしまって申し訳ありません。あまり好きじゃないのよね。ちゃんと勉強して理解すれば好きになれると思いますけれども。

 


 

Stephen Hough のブラームス後期ピアノ曲集、内田光子/テイトによるモーツァルト ピアノ協奏曲、樫本大進のベートーヴェン ヴァイオリンソナタの巻

自分にとってはブラームス弾きという認識のハフさん渾身のブラームス後期ピアノ曲集です。悪いはずがありません。

Brahms: the Final Piano..

Brahms: the Final Piano..

  • アーティスト:Hough, Stephen
  • 発売日: 2020/01/10
  • メディア: CD
 

ハフさんはイギリス出身ですが、現在はオーストリア在住で二重国籍ということで、そのへんのゲルマン系より遥かにドイツっぽい解釈を披露する一方で、音色の作り方はフランス的な優美さもあります。達観しているけれども、決して諦めの境地ではない音楽になっていると感じました。
op.116 ~ op.119 の4作品が全部聞ける点でもありがたく、末永い愛聴盤になりそうです。

 

Mitsuko UChida - Mozart Piano Concertos

Mitsuko UChida - Mozart Piano Concertos

  • 発売日: 2006/04/11
  • メディア: CD
 

内田&テイトによるモーツァルトのピアノ協奏曲は、もうド定番ですね。自宅勤務(テレワーク)になって流しっぱなしにするCDとして真っ先に選んだのが、このシリーズでした。このコンビの演奏は昔はあまり好きではなかったのに、改めて聞いてみるとかなり良かったです。自分の好みが変わったというより、聞き方が変わったのだと思いました。これは中古屋で安く購入したボックスでしたが、傷がついていて最後まで再生できない盤があったのでそれだけ買い直そうかと思ってます(笑)

 

Beethoven: the Complete Violin Sonatas

Beethoven: the Complete Violin Sonatas

  • アーティスト:Beethoven, L.V.
  • 発売日: 2014/01/28
  • メディア: CD
 

 内田さんの次に聞き始めたのが樫本大進さんのベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ全集。ピアノはコンスタンチン・リフシッツです。まだ1~3番しか聞いていませんが、ストレートかつみずみずしい演奏でとても気に入りました。

独墺系の作曲家ばかりになってしまいましたが、今後しばらくテレワークが続くのでショスタコーヴィチ交響曲弦楽四重奏曲ラソンとかやっちゃおうと思ってます。

海苔波形じゃないのに音が悪いCDの巻

analog

analog

  • アーティスト:米倉利紀
  • 発売日: 2019/01/23
  • メディア: CD
 

すごく好きなCDなんです。
なのにマスタリングが良くないので極めて残念なサウンドです。

たとえば2曲めの「幻」という曲。下記の波形を見ると海苔というほどひどくないように見えます。実際、全体的な音圧はそれほど高くなくて、いわゆる海苔波形のCDよりも若干ボリューム上げて聞いています。
ところが、歪んで聞こえることがあるのです。しかも、よりによってボーカルが歪みます。

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歪む部分を拡大するとこんな感じ。
0.2dB(リミッターの設定でしょう)において波形がクリップしているのがわかりますね。

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比較的静かなバラードなのですが、ボーカルが声を張り上げるロングトーンでこの状況になります。多数のクリップがランダムに生じますので、歪感などという生易しいものでなく「バリ、バリバリ」というノイズとして知覚できます。これはもう製品回収並みのミスだと思います。名曲だらけの素晴らしいアルバムなのに本当に残念。リマスタリングしてほしいです。

全体が歪んでいるのではなく部分的にこういう状況になると、機器の故障を疑って買い替えを検討しだしたり(笑)、自分の耳のトラブルではないかと思って不安になるので勘弁してほしいですね。あと自分の歪に対してかなりシビアということがよくわかりました。気にならない人もいるかもしれませんが、このアーティストに関しては「CDよりライブのほうが圧倒的によい」という人だらけなんですよ。それは単にCDでボーカルが歪んでいるせいではないか、という話にもなってしまうと思うのです。