スーパーピアノレッスン:ショパン編byルイサダの巻

楽譜の上に色違いのインクでルイサダ氏の指示がいろいろ入っています。弾きにくい箇所はオリジナルの運指を提案したり、左右の手への音符配分を再構築して難度を下げたりと、演奏家らしい裏技・小技が冴えています。また強弱記号やペダル記号もいろいろ補完してあって、日本人が陥りやすい無機的・機械的なショパンにならないような工夫もあります。ほかにも、微視的なペダルの踏みかえに言及したり(ショパン演奏においてペダルは非常に重要)、横の流れを示すフレージングではフレーズを切る箇所を明確に指示しています。このような記載のある楽譜は少なく貴重です。要はルイサダ氏の演奏をそのまま楽譜として説明してくれているような内容です。ロマンティックで華やかで洒脱な彼のピアニズムの秘密がわかるような気がします。
先に書いたように、細かな指示が色違いで書かれているのがポイントです。運指はショパン自身のものとルイサダ独自のものが併記され、「必ずしも楽譜どおりの指つかいで弾かなくてもいいですよ」ということを示していますし、補完された強弱記号やペダル記号からは「楽譜に書かれていない微妙なニュアンスを読み解く、あるいは作り出す」という、ピアノ演奏に不可欠な創造性を啓蒙してくれます。このような点もピアノのレスナーの役に立つでしょう。
近年のクラシック楽譜はとにかく原典主義であり、ショパンの楽譜も「エキエル編ナショナル・エディション」という原典版シリーズがショパンコンクールで採用されています。正確性では抜きんでているのですが、一般のレスナー原典版で練習するのは骨が折れます。この本ように現役の名ピアニストの指示の入った実用的な楽譜が出ることは意義があると思います。一つだけ問題点を挙げると、選曲に工夫が欲しかったです。ルイサダ氏の最も得意とするレパートリーが並んでいるのですが、最初のワルツ以外は難易度の高い曲が続き、かなりの上級者でないと手が出ないと思います。でも貴重な楽譜ですから、今は弾けない人も将来のために買っておいて損はないと思います。