テンペストがようやくわかってきたの巻

4月からこの曲弾いてるんですけど、なにしろ練習不足でどうしようもありません。簡単だとナメて苦労した第三楽章もようやく仕上がってきました。それと同時に曲の構造もわかってきました(遅すぎ)。主要動機は非常に単純で、第一楽章:D-F-A-D(ニ短調トニカ)、第二楽章:D-Es-F、第三楽章:短調トニカとF-E-D(第二楽章テーマの転回)の組み合わせ、という構造です。第三楽章は動機素材をそのまま使っており、隣接3音フレーズもしくは短調アルペジョが大部分を占めます。ロンド主題以外のつなぎの部分でもこの動機で展開する徹底ぶりです。第三楽章におけるしつこい左手のアルペジョの存在意義が今ひとつよくわからなかったのですが、これで謎が解けました。
というわけで、第三楽章のテンポも決まりました。この楽章は速いテンポで演奏すると疾走感があって格好よいのですが、現実問題として隣接3音フレーズをカンタービレに聞かせようとすると、テンポを落とさなければなりません。すなわちベートーヴェンの指示のとおりアレグレットが適切ということになります。実際、最初の「ラファミレ」というフレーズの繰り返しを「ファミレ、ファミレ、ファミレ、ファレミ、ソファミ、ソファミ、・・・」と3音の流れを意識して丁寧に歌っていくと、ピアニストがCDで弾いているより少し遅いテンポになります。このテンポだと疾走感はなくなり、深い悲しみが前面に出てきます。最後にアルペジョが消えていく終結部に説得力を持たせるためにも、疾走してはいけないんですね。深い悲しみをたたえたまま、去っていかなければならないのです。
さて、ここで思い出さなければいけないのは調性です。テンペストで用いられたニ短調は死や地獄を暗示する調性なのです。モーツァルトではピアノ協奏曲20番、ドン・ジョヴァンニ(まさしく地獄落ち)、そしてレクイエム。ベートーヴェンはこの曲の第一楽章で激しい闘争と死、第二楽章で天国の安らぎ、第三楽章で悲しみを描いた、と考えると見事につじつまが合います。