クリスティアン・ツィメルマン ピアノリサイタル@所沢ミューズの巻

この戦略的プログラムを見よ。最初と最後がノクターンで、しかも調性が同じ。ノクターン5番が選ばれた理由は「嬰ヘ長調だから」としか考えられません。長調の曲で短調ソナタ形式楽曲を挟む構成も見事。各曲ともいろいろ感心しながら聴いていたのですが、最後に「舟歌」が始まった時に、あまりにも見事に第1曲目とつながってしまったので、非常に感動しました。あの舟歌はすごい名演。この人は舟歌が得意みたいなので期待していたんだけど、ここまで素晴らしいと本当に「感動・感涙」としかいえません。
ポーランド生まれで、ショパンコンクールの優勝者としては、こういうプログラムは非常にプレッシャーがかかると思うんです。実際、数年前はショパンを避けてる感じがあったんですけど、今年はプレッシャーすら楽しむ余裕を見せていて、ツィメルマンの底なしの精神力をまざまざと見せ付けられた思いです。テクニック的にはウナコルダの多用が印象的。ノクターン5番やスケルツォ2番なんか、半分以上ウナコルダでした。あまりに左足を使ってるので、リヒテルみたいにブツブツ小言を繰り出すような演奏になっちゃうとイヤだなあと思っていたのですが、ピアノの調整がよくウナコルダを踏むと柔らかく甘い音色が出ていて、ロマンティックな響きになっていました。右ペダルもけっこう神業で、ソナタ3番のフィナーレや舟歌のコーダであんだけ盛大に鳴らしまくって全く濁らないのはどういうことなんだとか、いったんダンパーを上げたあともう一度戻して残響を混ぜることでいったん消えそうになった音量を上げてしまうワザとか*1、すごかったですね。
あとときおり変なタイミングで装飾音やフレーズを弾くことがあって、面白かったです。ソナタ2番の葬送行進曲のトリオなんか半拍以上早く旋律を弾き出したりしてトチッタんじゃないかと驚いたんですが、繰り返し時にも同じように弾いていて、ああこれが前に出すルバートなんだと理解した次第。非常に独特です。

*1:そういうテクニックがあるということはウワサには聞いていたが、実演で聴けたのは初めて。