ティボーデのドビュッシー ピアノ曲全集の巻

今日は Jean-Yves Thibaudet のドビュッシーピアノ曲全集を聞きました。いままで数名のピアニストの全集を聞いてきて、ミシェル・ベロフが標準かなとか思っていたのですが、一般的かどうかはさておいて、好きなタイプの演奏はいまのところこのティボーデ盤がダントツでナンバーワンであります。やはりこの人はテクニックが圧倒的に優れていて、際どい表現を飄々とやってのける感じがなんともオシャレで好きなのです。

我々アマチュアドビュッシーを弾くとどうしてもペダル過多で、ボワンボワンに響かせた演奏をして悦に浸りがちです(お前だけだろ、という話もある)。しかしこの人は響きのコントロールが抜群にうまくて、もうちょっと聞かせて、というところでスッと響きを消し去ってしまうんですね。甘える仕草を見せてプイッと他所へ行ってしまう猫のようなピアニズムです(実はラヴェルの全集でもこの人のピアニズムを猫のようだと評したことがある)。そこがたまらない。

CDは全部で4枚。2枚組が2回に分かれてリリースされたようです。
こちらはPreludes(前奏曲集)というタイトルの2枚組CDですが、実はこれが全集の第1弾です。iTunesに取り込むと「Debussy: Complete Works For Solo Piano, Vol. 1」と表示されます。

Preludes Books 1 & 2

Preludes Books 1 & 2

  • 発売日: 1996/08/13
  • メディア: CD
 

前奏曲集と版画、あとは2つのアラベスクや喜びの島などが収録されています。西風と花火で恐ろしいほどのテクニックを炸裂させる一方で、アラベスク1番は遅めのテンポを選択して地に足のついた解釈をきかせます。難易度が低い曲なので、つい高速で弾いて大したことないテクニックをひけらかしたくなる自分への戒めになりました。喜びの島はゴージャス系の演奏としては最高峰だと思います。

そしてこちらが第2弾。

Debussy: Images,Etudes, Complete Works for Piano, Vol. 2

Debussy: Images,Etudes, Complete Works for Piano, Vol. 2

  • 発売日: 2000/05/09
  • メディア: CD
 

練習曲集、映像、ベルガマスク組曲に子供の領域(←「領分」は誤訳として認めないスタンス)と、小品がすこし。練習曲集は初心者にはかなり難渋なので、有名な作品集と組み合わせたのかなと思います。自分はドビュッシーピアノ曲ではその練習曲集がいちばん好きなんですが、ティボーデの解釈は本当に素晴らしいと思います。練習曲集のCDもいろいろ持っていて、内田光子さんの「真剣に遊ぶ」というスタイルは日本人的にすごく親和性があると思う一方で、ティボーデの場合はその遊びに余裕があるため、いっそう音楽が軽やかに飛翔しているように感じます。内田さんは、ドビュッシーの練習曲集のことを、既成の要素を、既成の概念にとらわれず自由自在に使って、全部空に放り投げたようなものだ、と表現していましたが、ティボーデが奏でる演奏はまさにそういう音楽なのです。
そしてベルガマスク組曲や子供の領域は極めて洗練された表現で、思い入れたっぷりな解釈に対する鮮やかなアンチテーゼになっていると思います。でもまあ、とにかくウマい!さすがの演奏だと思います。