ルイサダ新譜の巻

ジャン=マルク・ルイサダショパンさえ弾ければあとはどうでもいいという感じのピアニストです。大変頭が良い人なので、知的好奇心から興味をもった作曲家の曲を弾いているようですが、ショパンを弾くときだけは理性を突き破って情念が迸ってしまうのです。彼の演奏会に行けば一目瞭然でわかることですけどね。上手にショパンを弾く人は大勢いますが、情念という点では彼こそが現代における最高のショピニストと言えると思います。
そんなルイサダさんがショパンピアノソナタ第3番、リストのピアノソナタスクリャービンの黒ミサ、そして最後に「別れの曲」という興味深いプログラミングのCDを出しました。ショパンを出発点にピアノソナタの変遷を巡り、最後にショパンに戻る構成です。演奏内容は実に見事で、特にリストは過去のどんなピアニストにもなかったスタイリッシュな表現でまとめています。やたらと重厚長大でゲップが出そうなリストのソナタに辟易している方はぜひこのCDをお試しいただきたいと思います。
あとショパンはフランス版の楽譜で弾いています。「別れの曲」の例の中間部とか、パデレフスキ版ともエキエル版とも違う音が鳴るのでドキッとします。ルイサダさんのことなので、いろいろ比較検討した結果「やっぱり私にはおフランス版が似合うわね」と思ったのでしょう。なおウィーン原典版もフランス版を底本にしています。