クリスティアン・ツィメルマン ピアノリサイタル@ミューズ所沢の巻

プログラム
感想

3大Bの神妙で重い曲+自国作曲家のヴィルトゥオーゾ・ピースというおなかいっぱいプログラム。まずバッハは音色の使い分けが半端ない。多声部を違う音色で弾くテクニックを使いまくる上に、装飾音も毎回違うなど、演奏設計もバッチリ。フィナーレの直後に第1曲の序奏→長調トニカで終止、という演出も非常に感動的で良かったです。しかしピアニッシモの音色、響きの美しさが素晴らしい。何度も感嘆のため息をつきました。
ベートーヴェンはかなり速いテンポで攻め、第一楽章の攻撃性とかびっくりするほどです。第二楽章も速め。感動する暇がなく置いてきぼりにされる感もあり、個人的にはもう少し味わって聴きたい曲で、だからやや遅めのテンポが好きなのです。ただ老人みたいな弾き方をされても困るのでこれはこれでいいかな、という感じもして、ちょっと微妙なところです。ここで前半終りなのですが、ちょっと、あまりにも凄いのでめまいが。
後半のブラームスは小品ですが、完成度ではこれが一番だったかも。ピアノの響きや音色の美しさ、制御の行き届き方が完璧。ラストはシマノフスキのコンサート用ピース。ポピュラー曲のようなわかりやすいメロディを、超絶技巧を駆使して変奏していきます。3大Bと比較すると内容の軽さは否めないけれども、非常に重い曲が続いた後なので、リサイタルの最後をこのくらいのショーピースで華やかに締めくくる方がよいと思いました。
以前は息の詰まるような、聴衆に緊張感を強いる演奏をしていて、うまいけれどあまり積極的には聴きたくないタイプだったのですが、少し変わったようです。日本ツアー最終日だったせいもあるかもしれませんが、演奏全体に適度な余裕があり、肩が凝らずに楽しむことができました。あと、音色表現に関して格段に進歩したのがうれしい。ツィメルマンの数少ない欠点として、どうかするとモノトーン的な響きになってしまうことがあったのですが、その欠点が払しょくされてきました。