シン・エヴァンゲリオン劇場版(以下シンエヴァと呼称します)は言うまでもなくヱヴァンゲリヲン新劇場版の最終作で、ストーリーや演出はもちろん、劇伴*1も前3作の流れを踏襲すると思っていました。実際、事前公開されたアバン1の音楽はエヴァQのアバンの音楽とコンセプトと同じで、自分はかなり落胆したのですが、3.0+1.0だから3.0(エヴァQ)の要素から始まるのだろうと納得していました。
しかし3.0の要素は(表面上は)アバン1だけといってもよく、その後は前3作とはかなり異なるコンセプトの音楽が展開されます。特に新作は1950~80年代のニーノ・ロータやミシェル・ルグランといった往年のロマンティック・シネマミュージックの影響が色濃く出た楽曲が多く、ルグランや羽田健太郎(日本版ルグランのような人)の劇伴が好きな自分はとても嬉しい内容となりました。
ということで、実際の使用順にサントラの感想や音楽演出について思ったことを書いていこうと思います。楽曲名は Shiro Sagisu Music From Shin Evangelion ほかに準拠します。また原曲や元ネタがある場合は楽曲名の横に作品名を追記しています。なお曲順に間違いや抜けがあったらごめんなさい(最初に謝っておく)。
- EX01 バッハ「主よ、人の望みの喜びよ」- EOE
これまでのエヴァンゲリオン。エヴァ破の「綾波を返せ!」のタイミングで転調しています。ここに合わせて映像の編集をしたと思います。旧劇場版ことEOE(The End Of Evangelion)でピアノ編曲版が使われました。 - EX02 真実一路のマーチ - EVA 2.0
これはエヴァ破の「365歩のマーチ」と同じ精神でしょう。ただBメロ(真実一路~)でいきなりマイナーに転調するのが変なんですよね。普通はワンクッション入れますよね。 - EX03 世界は二人のために - EVA 3.0
意味深な選曲ですが、意味深に聞かせてるだけだと思います。というか、エヴァQの「ひとりじゃないの」と同じテーマですね。 - M01 paris - シン・ゴジラ
エヴァ44A航空特化タイプの出現に合わせて開始。シン・ゴジラの蒲田くん登場シーンに使われた「Persecution of the masses (1172) / 上陸」が原曲で、脅威の出現という意味があると思います。 - M02 if a cause is worth dying for then be - EVA 2.0
ボスキャラ4444Cとおつきの44Bの登場。44Bがフレンチ・カンカンみたいにラインダンスを踊ります。イントロの下がる音階はTVアニメ版の「THE BEAST II」のイントロから、そこに続く下がる半音階はエヴァ破の2号機対第10の使徒(ゼルエル)の終盤に使われた「The Final Decision We All Must Take (2EM33)」の最後の部分からの引用。主部もエヴァ破の第8の使徒(空から降ってくるアレ)戦前半で使われた「Destiny (2EM15)」の進行をそのまま流用。新規要素がない。 - M03 euro nerv - EVA 1.0
「4444C、完全に沈黙!作業時間あと残り30秒!」スパニッシュなEM20です。フランス人は昔からスペイン音楽が大好きなので*2、スペイン音楽を引用するのはおかしいことではありません。 - M04 tema principale: orchestra dedicata ai maestri
新作。アバン2の最初から流れます。ニーノ・ロータ風の、ともすれば古臭さのあるロマンティックナンバーで、m7-5などマイナー系のおいしいコード(日本人が好きなコード)が多用されます。自分はこういう大仰な曲が大好物で、初見のときなんかこの曲が始まった途端にもう泣いてしまって、始まって15分も経ってないこのタイミングで泣くなんてありえないと焦りました。tema principaleというのはメインテーマという意味ですが、言われるまでもなくメインテーマっぽさが強い曲です。
公開日の前日にこの曲が使われる場面までの動画がアップされていますが、自分は見ないようにしていました。見なくて本当によかったです(笑)*3 - M05 berceuse: piano
トウジの家に向かうシンジと黒綾波。サティ風の小品で、タイトルの意味は「子守歌」。穏やかに聞こえますが、転調が多く旋律も重音が多用されるなど凝った手法が使われています。鷺巣氏のこういう曲は即興的に作っているように思います。 - M06 Qui veut faire l'ange fait la bête (piano solo) - EVA3.0
トウジ家での夕食。エヴァQでシンジとカヲル君が星空の下でデートする場面で使われた曲です。音源もエヴァQのサントラです。 - M07 prettiest star - EVA 2.0/彼氏彼女の事情
ケンスケの家に向かうシンジとケンスケ。エヴァ破 Instabilite: Orchestre (2EM22)の新アレンジ。原曲は彼氏彼女の事情の「孤影悄然」ですが、エヴァ破ではアスカのテーマ曲のようなところがあったので、アスカ登場前にこの曲が流れるのは必然ですね。 - M08 yearning for your love
おはようって、何?~農業アニメが展開します。 - M09 tema principale: piano dedicata ai maestri
シンジ家出。メインテーマのピアノ版が流れます。ここまで来ると、ピアノ曲が流れるときは孤独感を強調していることがわかります。このピアノ曲で孤独を表現するのはエヴァ序からやられている演出手法ですが、シンエヴァのラストにネタバラシが待っています。 - M10 hand of fate
綾波の農業シーンその2。この曲を流しながら止め絵で見せます。おおむね1小節ごとにカットが切り替わります。穏やかな調子だと思っていると、"Such is hand of fate"からの展開で泣かせる名曲。 - M11 soul love: guitar to orchestra segue - 彼氏彼女の事情
シンジ君復活。これは「彼氏彼女の事情」の「天下泰平」という曲が原曲です。 - M12' karma(ボーカルoff) - EVA 2.0/彼氏彼女の事情
封印柱の説明など。"karma" のボーカルをoffにしてオケだけにしたものと思われます。原曲は彼氏彼女の事情の「一期一会」です。エヴァ破ではミサトのセカンドインパクトの回想シーンに使われたRobe des Champs (2EM20)に相当します。 - M12 karma - EVA 2.0/彼氏彼女の事情
加地さんと、加持さんの息子の件。ここでボーカル入りのkarmaが使われます。karma=因縁。ミサトとゲンドウの抱えた因縁が似ていることが暗示されます。 - M13 unwelcome: piano
現時刻を持ってBM03の監視拘束の任を引き継ぎます。全体的には静謐な曲なんだけど、トウジから送られた写真を見てサクラが涙を流すところで音楽もじわっと盛り上げるのがうまいです。 - M14 m & r: piano - EVA 2.0/彼氏彼女の事情
マリとアスカのやり取りからはじまって、ミサトとリツコの長セリフにつながる場面。女性同士の会話のシークエンスですね。ミサトの態度に重きが置かれたシーンなので、ミサトのテーマであるkarmaのバリエーションが使われたのだと思います。ミサトとリツコの会話のテイを取って空白の14年間における加持さんのことやら、ヴンダーの本来の役割などを視聴者に伝える説明シーンです。 - M15 lost in the memory
M14のシーンを受けてのミサトのニアサー回想~最終決戦準備。この辺りは説明が多いのですが、モノローグでなくダイアローグ(相手がいる会話)にすることで説明くささを軽減しています。 - M16 EM10A alterne - EVA 1.0
ヴンダー発進。ここでついにエヴァ序(1.0)の曲が入ります。シンエヴァの3.0+1.0というタイトルの意味は音楽でも回収されるのです。 - M17 激突! 轟天対大魔艦
2番艦Erlösung(エアレーズング)*4の登場でこの音楽。初見のときのワイ「いきなりやりおったwww」これはギャグでは? - M18 metamorphosis - シン・ゴジラ
ヴンダーがネルフ本部と黒き月に追いつく。シン・ゴジラの「作戦準備 / Black Angels (Fob_10_1211)」の要素が使われている曲です。ホラー系のアレンジだなと思っていたら、鷺巣先生が解説でオーメンのジェリー・ゴールドスミスの手法だと書いてました(笑) - M19 paranoia
ヴンダーからエヴァ2機とも発進する。M18からシームレスに入るのでホラーの続きよろしく大量のバケモノども(エヴァンゲリオン Mark.07)が登場します。この戦闘がただの物量戦で時間つぶし的なのは、ネルフがヤリを作るために時間を引き伸ばしたいからですね。シンエヴァのサントラでは数少ない打ち込み系の楽曲でもあります。 - M20 mirror mirror: refrain - EOE
マリの「ゲンドウ君は何を企む?」というセリフの直後に入ってきます。いかにも何か企んでそうな雰囲気の不気味な曲で、旧劇場版の「夢のスキマ」のモチーフが入ってきます。 - M21 this is the dream, beyond belief...
裏コード999からのアスカ+2号機の使徒化。ここでアスカが退場するのでドラマティックな曲になっています。そもそも旋律が始まった瞬間に「またアスカがやられるんだ!」とわかってしまうしめっちゃ泣けます。かなりの長尺ですがフルで流れます。 - M22 thème du concerto 494
エヴァっぽい何か(エヴァMark.09改)が登場。ミシェル・ルグラン~羽田健太郎風のドラマティックなピアノ協奏曲です。こういうのにも弱いので、流れ始めた瞬間に涙です。どれだけ俺を泣かせれば気が済むんだ。しかもBメロに入るときのマイナー9thでさらに泣かせにきます。
なおピアノ協奏曲の劇伴は、TVアニメの「瞬間、心、重ねて」で流れたもの以来ということになります。 - M23 psycho
ゲンドウがヴンダー甲板上に登場。挨拶している間になんの躊躇もなくゲンドウの顔面に4発撃つリツコさんはもちろん旧劇場版と対比されると思いますが、イデオンにおけるハルル・アジバも思い起こします。
合唱やオーケストラを使った大規模で派手な曲が続いたので、ここで静かな不気味さを湛えた独唱の曲をもってくるのは見事な対比だと思います。また人類補完計画やセカンドインパクトの真実が淡々と明かされていくのも効果的です。 - M24 i’ll go on loving someone else =version orchestre= - EVA 1.0
初号機に乗る決意を告げるシンジ。タイトルの通り、エヴァ序のI'll Go On Lovin'Someone Else (EM02)のオーケストラ版です。エヴァ序で初めて初号機に乗る前にもこの曲が流れていて、繰り返しの物語であるエヴァという作品の本質をこの1曲だけで余すところなく表現できていると感じます。エヴァ序のときもいい曲だなあと思っていたのですが、このアレンジは本当に素晴らしい。もう泣くしかないですわ。降参です。*5 - M25 不明
裏宇宙(マイナス宇宙)へ。
ピアノのアルペジョだけの曲なのですが、元ネタがわかりません。 - M26 pillars of faith
エヴァ初号機再起動~ゴルゴダオブジェクト到着。このあたりから「ひょっとしてこれはギャグでは?」というセリフやカットがちょくちょく入っているような気がしました。ゲンドウは真剣なんだけど、妙におかしい。 - M27 voices in my head
初号機vs.第13号機のどこか滑稽な戦いのBGM。オケも合唱も不協和音で叫ぶので難しいです(実はCマイナー)。3拍子なのがポイントだと思います。 - M28 what if?: orchestra, choir and piano
アディショナル・インパクトの開始。鷺巣氏の解説で宮川泰さんの名前が出てくるけれども、宮川氏お得意の6の音(ラ)から始まる明るい曲で、合唱が加わるピアノ協奏曲になっていて、円満に終わるかと思ったら、そうは終わらない。 - M29 EM20 =wunder operation=
ヴンダーは総員退艦命令が出され、エヴァ8号機がエヴァMark.10~12を喰らい尽くします。 - M30 the path - REBIRTH
ヴンダーに残るミサトの決意を肯定的な歌詞で表現したとても泣ける曲。和声進行や弦楽器のフレーズがパッフェルベルのカノンのオマージュになっているので旧エヴァREBIRTH編のタグを付けてあります。 - M31 born evil - EOE
ゲンドウとシンジが電車に乗って、ゲンドウが延々モノローグで語る場面。ピアノが好きだった、としゃべるときにピアノのフレーズがふっと上がってくるのがとてもうまいと思いました。
エヴァでおなじみ電車での禅問答シーンは苦痛だったんですが、Qでそれが出てこなかったら寂しかったんですよね(笑)。シンエヴァのクライマックスで出てきたので、待ってました!という感じでした。この音楽も最高で、初見のときにすぐにクリヤ・マコトさんのピアノだとわかりました。彼はエヴァの劇伴だと割とまったりとした演奏が多い印象がありますが、本当はこの曲のように切れ味鋭いアドリブプレイが得意なピアニストです。 - M32 citation from ‘joy to the world’
ヴンダーと8号機が新たな希望の槍をシンジの元へ届ける。「もろびとこぞりて」と言ったほうがわかりやすい曲かもしれません。 - M33 夢のスキマ - EOE
ゲンドウの退場シーンですが、ユイを見出すのでEOEでシンジがユイと会ったときに流れたこの曲が使われます。なおThe End of Evangelionのサントラから流用です。 - M34 pensées intimes: piano dans l’orchestre à cordes - EVA 2.0
式波・アスカ・ラングレーとしての回想シーン。新曲ということにはなっていますが、アスカの曲なのでエヴァ破で使われた「孤影悄然」のモチーフが出てきます。 - M35 ave verum corpus
カヲル君の補完シーン。大好きなモーツァルトの曲で、これも流れ始めた瞬間に滂沱の涙でした。通常はもう少し遅いテンポで演奏されますが、尺を合わせるためにやや速めのテンポになっています。原曲のオケは弦5部+通奏低音(オルガン)ですが、通奏低音がなく、ホルンが加わっています。なお渚司令は【空白の14年間】の間の出来事だったと思われます。 - M36 VOYAGER ~ 日付のない墓標 - EOE
NEON GENESISから「さようなら、全てのエヴァンゲリオン」。楽器構成を含めてユーミンの原曲に忠実なアレンジです。ただこれはEOEにおける「甘き死よ、来たれ」に相当する曲なので、終盤になるとヴァイオリンにそのフレーズが引用されてきます。歌はユイさんですね。 - EX04 One Last Kiss
歌詞を聞いて、なんだユイさんの曲じゃないか、と思いました。 - EX05 Beautiful World (Da Capo Version) - EVA 1.0
シンジの曲だと思ってたけどゲンドウの曲だった!という驚き。しかしシンジとゲンドウが鏡合わせのような存在だから、どちらの曲でもあるんだろうな、と思いました。そして最後はエヴァ序の曲で締めることで3.0+1.0というタイトルを完璧に回収して終劇です。