EPIC移籍後2枚目のアルバムです。
いまひとつプロデュースの方向性が定まらなかったようで、シティポップ風だったりAOR、ドナルド・フェイゲンのコピーみたいな曲からバラードとさまざまな楽曲が入っています。全体としては洗練された方向でまとめたかったようです。
本論はこのアルバムに入っている「あなたにつつまれて」という曲です。これは彼女のEPIC時代の最大の名曲といってもよいバラードで、シングルカットもされています。
お聞き頂けばわかるように打ち込みではなく生楽器主体の王道のラブ・バラードです。大橋さんの歌唱力を最大限に活かした歌詞、曲、アレンジになっております。
大橋さんは1984年から4年ほど休業しているんですが、休業前より声のトーンが太くなってバラードでの表現力が向上していることがよくわかります。
当時(1988年)、アレンジャーの清水信之氏がキーボード・スペシャルという雑誌でこの曲のコード進行やアレンジ上のポイントを解説していて、なるほど!と感心したことを覚えております。そういった情報に触れることで、自分は徐々に音楽の聞き方が分析的になってきたと思います。
EPIC3枚目のPagodaというアルバムはタイトルから想像がつくように、コンセプチュアルな作品になっています。日本に住んでいる女性と、海外に行ってしまった「あなた」の物語を女性視点で描いています。ここまでの2枚でアグレッシブでアレンジをしても大橋なら歌えるということが知れわたっていたようで、1曲目から井上鑑氏が非常に冒険的なアレンジを繰り広げています。自分的には大好きですし聴き応え抜群なんですが、ちょっとマニアックかな~という気もします。
当時まだレコードがあった時代なのでA面、B面を意識した構成になっていて、A面ラストはSnow Fallという別れを描いたバラードで、めちゃくちゃ泣けます。キーはメジャーなのにサビで泣かせるコード進行を持ってくる構造です(これもアレンジは井上鑑)。B面はほぼほぼ「一人も悪くないわね」という歌が続きますが、最後の曲で「あなた」と一緒に散歩していることがわかるというパッピーエンド構成です。
しかし、この圧倒的なボーカルの前にはどんな分析も無力だよなあ、としみじみ感動しながら今日も彼女のアルバムを聴くのでありました。
EPIC時代の3枚はすでに廃盤ですが、再編集版2枚組CDはまだ売ってます。「あなたにつつまれて」のB面曲でアルバム未収録の楽曲も入っていてお得です。