ストリングス音源レビューの巻

自分は弦楽器オタクで、長年に渡りいろいろなストリングス音源を使ってきましたのでレビューします。自前で演奏した動画があるものはリンクを付けています。

最初に結論を書くと、生オーケストラの弦楽器をシミュレートする用途では現状では LA Scoring Strings(LASS)がベストな選択だと思います。特にクラシック音楽好きの人や、生の音を知っている人、音楽を聞いてオーケストラスコアが想像できるような人はこれでないと満足できないと思います。

一方で、生オケの再現が目的でない場合はLASS以外を選択したほうがよいケースも多々あると感じています。結局のところ「用途によって使い分けましょう」ということになりますけれども、各社さまざまな趣向をこらした音源を用意していて、同じものは一つもないと思いますので、使い分けのポイントなどもわかる範囲で書きたいと思います。

 

※ハード音源の部

  • Roland SL-JD80-04 Strings Ensemble
    JD-800用の波形拡張カードです。奏法バリエーションは少ないし、生音とは違うのだけど、低音域がよく伸びていて極めて高品位。コントラバスの音圧がすさまじく、今でもこれを超えるサウンドはなかなかないと思っております。JD-800自体がよくできたシンセでした。

    https://www.youtube.com/watch?v=83fE6bYsB0U

  • E-MU PROTEUS/2 Orchestral
    おそらく世界初のオーケストラ専用音源モジュールです。デモ演奏がセンセーショナルだったのですが、しょせんはPCMシンセなんですよね。このタイプの専用音源モジュールは他メーカーがほとんど追従しなかったのでE-MUオンリーになってしまいました。
    弦はイマイチなのですが、金管の厚みやハープや木管の存在感と温かみは素晴らしく、音作りが上手いメーカーだなと思いました。上記のSL-JD80-04のデモ動画で鳴っているハープやピチカートはこれを使っています。
  • Roland SRX-03 Symphonic Strings
    FANTOMシリーズ用の波形拡張カードで、ソロ楽器も収録されています。レガート音が使いにくい上に、音色が寒々しいかんじで使いにくかったです。しかしチェロとコントラバスは野太い音色で好きでした。ゴリゴリしたマルカートやピチカートは生々しくてよかったです。
  • Roland SRX-06 Complete Orchestra
    SRX-03の欠点が解消されていて、ふくよかな響きが特徴でよく使いました。弦楽器以外も使いやすいです。
    SRXシリーズはINTEGRA-7に全部入っているため値下がりすると思ったんですけど、そのINTEGRA-7が値上げに次ぐ値上げで20万円くらいになってしまったため、SRXの中古価格も下げ止まり状態になっています。SRXを鳴らせる最も安いハード音源は、soniccellになります。ハイレゾ(96kHz/24bit)に対応したAD/DAコンバータを持っているおすすめのハード音源です*1
  • Roland INTEGRA-7 Strings Section 1/2(Super Natural Acoustic)
    INTEGRA-7は2012年発売で、まだ現役で売られている長寿な音源モジュールです。
    これに搭載されたSuper Natural Acoustic音源のストリングスは、MIDI全音域が鳴らせる変わり種です*2。さらにベロシティクロスフェードが127段階というまさにSuperなアコースティック音源で、とりわけ管楽器の表現力は現在でもそのへんのサンプリング音源では太刀打ちできないレベルにあります。*3
    とはいうものの、Strings Section 1/2で実用的に使えるのはヴァイオリンの音域だけで、低音域になるほどシンセっぽくなってしまいますので、実質的にはViolin 1+Violin 2ということになります。ソロ楽器は逆で、ヴァイオリンやヴィオラがシンセっぽくて、チェロやコントラバスがリアルになります。
    以上のようなことから、自分の使い方としては、ヴィオラ以下の合奏は内蔵されているSRX-06にやらせて、ソロのSN-Aサウンドを混ぜるのが基本でした。このあたりがよくわかるのが下記の動画です。

    https://youtu.be/be58aQBZ4LM?t=94

    SN-Aはベロシティとコントローラ(モジュレーション)の両方で音量・音色を変えられるようになっていて、モジュレーションの値が低い状態でも強い打鍵をするとフォルテで鳴るので、リアルタイムで演奏しやすいのが特徴です。しかしこれが罠なのです。ベロシティの前後関係を判断して大→小だと自動的にレガートになり、小→大だとリトリガーになるのですが、リトリガー時には先着音が不自然に消えてから後着音が鳴るので、いびつなフレージングになってしまいます。直前に鍵盤からいったん指を離してから次の打鍵をしたほうが自然なニュアンスになります。かように、リアルタイムで演奏するには指先の厳密なコントロールを要求されて難しいので、打ち込み用と割り切ったほうがよいと思います。なお1音鳴らすのに4音分のリソースを使う上に、レイテンシーがあるためいろいろ苦労しました。またベロシティでアタック速度も変化するため、ピアニッシモでは速いパッセージを弾くことができません。それでも使っていたのはクロスフェードが完璧だったから、としか言えません。

    https://www.youtube.com/watch?v=x5vxgFXCXVg

ここまでの音源は、すべてドライな(残響感がない)サウンドです。自分はこれに慣れてしまったので、次に上げていく残響感のあるソフト音源に苦労することになります。またINTEGRA-7で感じたレガートの難しさをクリアできる音源は、自分が所有している中ではLASSとCSS(Cinematic Studio Strings)になります。

 

※ソフト音源の部

  • EastWest Quantum Leap Symphonic Orchestra
    通称QLSOです。かなりシェアがあるようでネット上の情報も多く、セールで安かったの購入したのですが、どうにもシンセっぽい冷たいサウンドでダメでした*4。あと残響感が強く、リバーブをオフにしても消えません。自分は残響はマニュアルでコントロールしたいので許容し難いところがありました。最上位のPlatinumに入っているClosedポジションの音でも残響感はあります。残響の何をコントロールしたいのかというと、残響の質です。残響成分だけにEQを使いたいのに、楽器本体と一緒になっているので手出しのしようがありません。またdivisi(ディヴィジ。1stヴァイオリンや2ndヴァイオリンなどのパート内をさらに分割すること)がないのも地味につらいし、レガートも不得意ということでINTEGRA-7で苦労していたことが何も解決しないばかりか、かえって使いにくいということで購入したもののまったく使わないというオチになってしまいました。
    本稿とは無関係ですが、QLSOの金管楽器や打楽器は好きです。これらはオーケストラの後ろの方にある楽器なので、残響感があっても違和感がないのです。ただし木管楽器は残響感がわざとらしく、ソロ演奏には耐えられないです。QLSOに限りませんが、総合オーケストラ音源は合奏させるのが前提なので、ソロ演奏には向かないと考えます。
  • EastWest Quantum Hollywood Strings
    QLSOの弱点をよく補っています。divisiもあるし、残響感も減っています。音色も厚めでスロ~ミディアムテンポの曲にはよく合います。表現力もあるし、ベロシティクロスフェードも自然です。ただしオーケストレーションが雑だったり、音量コントロールを誤ると中音域が重いもっさりとしたサウンドになって響きが混濁します(反省)。
    問題点は、アタックが遅くて速いパッセージに追従できないので、速いパッセージに弱いことです。実はこれ、多くの音源に該当することなのですが、Hollywood Stringsは全体的な出来が良い中でアタック速度だけが残念なのでメインになりにくいというところがあると思います。あとPLAYというソフトでコントロールするのですが、操作性が非常に悪くてつらいです。また多くの人が指摘する通り、大容量のパッチは読み込みに時間がかかるのでSATAより高速なm.2(NVMe規格)のSSDUSB3.1やThunderbolt 3接続で使ったほうが良いと思います。
    ちなみにシン・ゴジラ劇伴のPersecution of the masses*5の弦がこれだそうで、中音域の重苦しさが忍び寄る災厄を予感させるようで見事だと思います。
  • Vienna Instrument Syncron-ized Strings、同:Chamber Strings、同:Appassionata Strings
    全体的にシンセっぽい音色です。あとレガートの挙動がおかしいです。しかも無印・Chamber・Appassionataでおかしさの中身や度合いが違うのでさらに困ります。特に無印のレガートは同音連打時の鳴り方が不自然なのでまるで使えません*6。音はさすがのViennaでとても美しいのですが、残響成分たっぷりで音像が異様に遠いです。レイヤーして後ろの方で鳴らすには良いけど前面に出せません。Syncron-izedシリーズは残響込みの廉価版ということを知らないで買ってしまい、弦に関してはどんなにがんばって打ち込んでも思ったように鳴らせないので後悔しております。←この残響(Synchron IRというらしい)ですが、オフにできてドライな音にすることも可能だそうです。調査不足でした。
    Viennaは価格が高いシリーズでも弦楽器は大なり小なりシンセっぽいところがあると思いますが、SY77やスーパーファミイコン的な90年代を彷彿させるサウンドは日本人には馴染み深いようで、良い音に感じる人が少なくないのも理解できます。
  • Vienna Instruments Synchron Strings Pro
    Viennaの価格が高いシリーズのストリングス音源の最新版です。高いと言っても、かつてのVSLのような分割商法ではなく、これ1つでヴァイオリン~コントラバスまで用意されています。奏法やアーティキュレーションがめちゃくちゃ多いだけでなく、レガート演奏に昨今流行りのワード "Agile" (アジャイル。素早いという意味)を冠したモードが加わったのが特徴だと思います。これはおそらくSpitfireのPerformance Legatoを意識したもので、猛烈に速く弾くと音程が甘くなるというストリングスの特徴をシミュレートしていて、かなり使えそうです。
  • AudioBro LA Scoring Strings(イチオシ)
    おそらく現状で最高峰のストリングス音源です*7セクションごとに細かくマイクを立ててスタジオで収録する状況をシミュレートできる音源で、非常に使いやすいです。さらに各パートがソロ(トップ奏者)と数名ずつで構成された3つのグループに分かれているので、divisi対応はもちろんできますし、LASSだけで小中大の3段階の編成をこなせるようになっています。こんなユニークなつくりなので、オーケストラ譜の読み書きを勉強していない人は使いこなせないと思われます。初心者には極めてハードルが高い音源でしょう。
    サウンドは実に生々しくて、残響感がないのが大きな特徴です。また、それほどアタック感が強くないのに速いフレーズでも追従できる立ち上がりの良さも使いやすさに貢献しています。レガートは、ベロシティ小→大のときも自然につながってしまうのに違和感があります。リトリガー感がないというか、弓を折り返す感じが乏しい。ここは自然につながったからヨシ!と割り切るか、弓のダウン・アップの切り替えを明示的に打ち込むしかないだろうと考えています*8
    欠点は、ときおりひどく音程が悪いキーがあることと、ノイズが多いことです。メーカーいわく「それが生音の醍醐味です」*9。音程に関しては、ボーカル用のピッチ調整プラグインを導入している人もいるという話です。ノイズはEQ処理が推奨されておりますが、iZotope RX 7で手軽に除去できることを確認しています。RX 7はアナログレコードのプチノイズや環境音的なノイズはもちろん、弦楽器(ギターなども含む)の雑音を消すのにも有効です。ちなみに、人数の割にスケール感がありませんし、ヴァイオリンなどは線の細い楽器が合奏している感じでひ弱なんですけど、そもそもヴァイオリンは線が細い音色が特徴なので問題ないです。
    使い始めてすぐに、「この楽器ならこういう表現ができるんじゃないか?こんなやりかたはどうか?」とアイディアが湧いてきたので、それだけ音楽的な仕上がりなのだと実感しました。「この音源なら」と思えない、人間臭い振る舞いを見せてくれる素晴らしいツールです。
  • Cinematic Studio Strings
    通称CSSです。自分のように、LASSと組み合わせて使っている人がけっこういるようです。両者は相互補完的なところがあって、CSSはdivisiは使えないですし、LASSのようなヒステリックとさえ言える高域の伸びのよさはないものの、音程は安定していて適度な厚みと暖かさのあるサウンドです。そんな感じなので、フレーズの開始部は繊細な表現ができるLASSで作り込んで、サスティンの厚みはCSSで表現する使い方になっています。
    CC01が強弱、CC11が音量という設定はLASSと同じなのでレイヤーで鳴らしても良いのですが、LCSSは音の出方がかなり遅いので注意が必要です。LASSと同タイミングで鳴らすと明らかにずれますので、MIDIデータを少し前にずらす必要があります。高域が伸びないことは誰でもすぐ気づくと思いますが、EQで補正可能です。

持ってないけど興味あるもの・あったもの

  • Spitfire Chamber Strings
    実はSpitfireのソロ弦のセットをセールで買っています。音の良さはもちろんですが、Performance Legato(パフォーマンスレガート)というパッチが秀逸です。要は適当にキーボードを弾くと勝手に最適な奏法で鳴ってくれるのですが、速い音階を弾くギュルルルルッ!と駆け上がるのがとてもリアルです。Chamber Stringsは合奏でこれができます。divisiがないのが残念ですね。
  • Spitfire Studio Strings
    LASSを意識した音源のようで、Chamber Stringsよりドライなサウンドですしdivisiにも対応しています。またChamber Stringsより人数を減らしていて、その分だけ全体的に音像が小さく低音も伸びないかんじです。あとベロシティレイヤーはChamber Stringsより少なくフォルティッシモがないので表現力に乏しく、弦楽器がメインとなるクラシック系の楽曲には厳しいと思います。Performance Legatoもありません。
    ただ弦楽器らしさは堪能できますし、なにしろChamber Stringsの半値以下でこのクオリティは驚異的です。歌モノやポップス系のBGMなどでオブリガード的に中高音のストリングスを入れるとしたらこれがファーストチョイスになるんじゃないかというくらい使いやすそうだと思います。下記の動画で、両者を所有している人が比較演奏しつつ忌憚のない意見を述べているのが参考になります。
    https://www.youtube.com/watch?v=GLV0MoXWZAQ
  • Spitfire BBC Symphony Orchestra
    総合音源で、ものすごくゴージャスなQLSOだと思います。総容量600GB程度で、わざわざBBCなんていう葵の紋処を出してくるあたりはEW Holywood Orchestraを意識した様子がありありと伝わってきます。ハリオケと違うのは残響感が極めて強いうえに、この残響感が決定的にサウンドを特徴づけているということです。そのあたりがQLSO的だと感じた理由です。そんなわけで、ディテールにこだわる人には総じて不評で、自分もデモを聞いた段階で「ちょっとこれはないな」と思いましたが、音楽の捉え方や聞き方、作りかたが大雑把な人(悪い意味でなく)は「こういう感じの音っていいよね!」と評価するではないかと思います。
    Spitfireはイギリスの会社ですが、そもそもイギリスはクラシック音楽の本場とは言い難いと思います。20世紀はアメリカの音楽界と相互に影響し合ってきて、近年は完全にアメリカナイズされていると感じますので、こういう流れになるのも致し方ないのかなと思っております。

*1:自分は2台所有

*2:ソロ楽器もあって、ヴァイオリンだろうとチェロだろうかまわず全音域鳴らせる

*3:サンプリングとヴァーチャル系のハイブリッド設計らしく、そんなことが可能になっている。

*4:キャラクター的にSRX-03とかぶるところがある

*5:蒲田くん登場シーンに流れる

*6:バグではないかと思うような挙動を示す。

*7:お値段含め。

*8:まだ使いこなしていないので検討中

*9:開き直りやがった

ここがいいよ&ダメだよIvory II American Dレビューの巻

Ivory II American Dを使い始めてけっこう経ちました。おおむね好きといえる音源ですが欠点も見えてきたのでまとめてレビューします。これから購入する人の参考になればと思います。

 

1.いいところ

  • 音像が大きい上に低音域がよく伸びているので、クラシック音楽的な(ドイツ・グラモフォンレーベルのような)雄大なピアノサウンドが容易に得られる。
  • ベロシティレイヤーが多く、ピアニッシモからフォルティッシモまでの表現力が高い。
  • 音色調節の幅が広く、かなり実用的に使える。
  • サスティンペダルを踏んだときの共鳴シミュレーションの塩梅がよい。Pianoteqのようなレベルではシミュレーションできていないけれど、適度な共鳴感で響きが濁りにくい。
  • フルコンサートピアノを弾く気持ちよさを味わえる。
  • ベロシティ感度の設定機能が優れていて、自分に合ったベロシティカーブを作れる。

クラシック音楽っぽいピアノサウンド」というのは、D274というピアノの良さを損なうことなく再現できているということです。低音部の太い響きときらびやかな高音部が絶妙に共存していること、D274の名前の通り全長274cmの大きな楽器で響板という面から音が出てくるので、その音像の大きさをステレオサンプリングで再現できています。

しかし、この特徴はそのままダメなところというか、使いにくさに直結していくので注意が必要です。クラシック系の曲をソロで弾くならおすすめできる音源です*1
ベロシティ感度設定もよくできていて、いろいろなキーボードに対応できると思います。VIENNA SYNCHRON PIANOはベロシティ設定が壊滅的にダメなので、リアルタイム演奏派には厳しいです。HANS ZIMMER PIANOもベロシティ設定の使い勝手が極めて悪いです。この2つに関しては改めてレビューする予定ですが、HANS ZIMMER PIANOはともかくSYNCHRON PIANOはサウンドも含め過大評価だと感じます。

 

2.ダメなところ

  • 残響感が少ないステレオサンプリング。
  • ステレオ幅を狭めると音が痩せる。デフォルトでStereo Width(ステレオ幅)が狭くなっているプリセットは位相の問題で音が悪いので、必ず100%に広げて使う必要がある。
  • つまり、モノラルで使うことができない。
  • ステレオ幅100%でしか使えないとなると、アコースティック系(アンプラグド系)で、なおかつピアノが主体となる曲以外には極めて使いにくい音源といえる。

たぶん無響室でステレオサンプリングしていると思うんですが、残響感がないのでエフェクト(リバーブ)が必要です。Ivory II付属のリバーブはパラメータを細かく調整できないので、こだわりたい人は別途ご用意くださいということになります。自分はリバーブプラグインを持っているので特に問題はありません。
それより問題は位相です。楽器の音像が大きいとポップスやロックでは使いにくいのでStereo Width(ステレオ幅)のパラメータを調節して左右を狭めてみたのですが、音の伸びがなくなって、楽器の音色自体が変化してしまいました。位相の問題で、波形が変化したためと思われます。

ちなみにこの手の位相の問題はIvory IIのようなサンプリング音源に限らず、ステレオ出力のシンセサイザー音源でも起きます。なんでもかんでもステレオにすればいいというわけではございません。

 

3.対策

  • 総合音源やハード音源のピアノを使う
    こういう音源に収録されているピアノはクラシック系のソロに使うのは厳しいですが、ロックやポップスには非常によくマッチします。特に近年の日本製のハード音源(シンセ含む)のピアノはバンドで使う前提でサウンドメイクされているのでとても良いと思います。
  • 多マイク収録の音源を使う
    Ivory IIのアンチテーゼのようなコンセプトで、多マイク収録のピアノ音源がいろいろ発売されております。マイクが増える分だけ容量は大きくなりますが、こだわる人は導入していますね。
  • 音像が小さい楽器からサンプリングした音源を選択する
    ヤマハC7や、スタインウエイBなど、フルコンサートピアノよりひとまわり小さいサイズのピアノをサンプリングした音源が出ています。
  • バーチャル系音源を使う
    ポップスやロックで評判がいいのはやっぱりローランドのSNピアノです。クラシック向きではないけれども、アンサンブルで生かせるサウンドです。クラシック向きなのはPianoteqかなと思ってます。

 

 4.雑感

こういう欠点までレビューしている人が少なくて、ちゃんと使わないで適当に記事を書いているいるDTMブロガーが多いのではないかと思いました。モノラルにできないことや位相の問題は、この音源を使ってなにか制作すればすぐ気づくと思います。
まどか☆マギカだか何かのアニメ劇伴でこの音源を使った人がいて*2、ソロに限定していたという話で、どうしてそんなことになるのかな?と不思議だったのですが、自分で使ってみてソロ以外で使うのが困難ということを実感しました。

 

5.自前の演奏で解説

www.youtube.com

マイクポジション= Audience、Stereo Width = 100 です。
Audienceといってもマイクの位置はかなりピアノに近いと思われます。その証拠に、高音域ほど明瞭にセンター定位しますが、音域が低くなるに従って音像が遠くなり、同時に左右の広がり感が大きくなります。

このサウンドはスピーカーで聞くとかなり気持ち良いのですが、ヘッドフォンだと違和感があります。また良くも悪くも低域に締まりがないのでポップスやロックで使おうとすると、左手の使い方に制約が生じます。

*1:でもそういう人ってDTMerでは少数派ではないでしょうか

*2:詳細失念w

DTM関係ブラックフライデーセールの巻

今年になってソフト音源に移行したばかりで定番のDTMプラグインを持っていないので、そのへんを揃えることを目的にリサーチしています。(随時追記)

 

※今回のセールですでに購入済みのもの

  • Waves HORIZON
    定番のエフェクトツールバンドルです。iZotopeの Neutron 3 Advanced と Ozone 9 Advanced を持っていて、機能的にかぶるところがあるので不要ではないかと思って手を出さなかったのですが、フェアチャイルド670をエミュレートしたコンプと、マキシマイザー類、コンボリューションリバーブの3つは定番だろうと思って入手しました。フェアチャ670は単体売りでもっといいやつもあるんですけど、わずかな違いなので、まあいいかと。
  • Relab LX480
    かつてのリバーブの王様LEXICON 480Lのクローンです。粒子感ゼロの自然な残響が素晴らしいです。パラメータが多く、コーラスでウネウネさせるなど効果音的な使い方もできます。SF映画で聞いたあの音はこれで作っていたのか!という再発見があります。操作ノブが6つあるから6ポイント分のディレイを実装しちゃうのも、なかなかクレイジーな発想です。普通のエンジニアだと、1つのディレイのパラメータをノブに振り分けると思うんですよね。
    正価で4~5万くらいのものが、7割引になったので買ってしまいました。オリジナルのハードウエアの値段*1を知っていると5万でも十分すぎるくらい安いのですが、Exponential R4 (これも定価で3~4万くらい*2)で十分だろうと思ってました。アコースティック系のピアノソロに使うなら断然LX480のほうが好みの響きになるので買ってよかったです。
    なお480Lが80年代の製品なのでLX480も派手さはなく、地味ながら上質な響きが特徴だと思います。R4は華やかな残響が持ち味で、ケースバイケースで使い分けることになると思います。
  • HEAVYOCITY関係
    GRAVITY、DAMAGE 2、VOCALISE 2、PUNISHを購入。DAMAGE 2以外は50% offです。HEAVYOCITYは派手めなサウンドの劇伴音源で有名な会社ということなのですが、Roland Sound Canvas SC-88の派手なだけで使い勝手が悪い音色とか、YMOのTECHNODELICで使われていた痛いサンプリング音がハイファイになって蘇った、みたいなところがあって、要は好みのサウンドなので買いました。PUNISHはエフェクトプラグインで、直訳すると「処罰する」ですが、デモ音源を聞く限りでは中身はエキサイター+コンプレッサーのようです。REPRO-5でフォトムジークをやったときにエキサイター+コンプレッサーでスネアの音作りをやってとても苦労したんですけど、PUNISHだと一発でできます。
  • Audiobro LASS 2.5
    有名なストリングス音源です。6割引だったのでフルセットで購入しました。同社のブラス音源も素晴らしいのですが、バグってるらしいということと、とてもメモリを食う(パッチ1つ2GBなんてものもある)ということで今回は見合わせました。ブラス音源はCinematic Studio Brassを検討中です。
    弦楽器は編成の規模を変えて使い分けたいという気持ちがあります。しかし、ソロ・小編成・中編成・大編成と買い揃えるのは大変ですし、いろいろ問題も出てきます。実はviennaの音源でそれをやってしまったのですが、編成が大きくなると音像がボケてサウンドの雰囲気まで変わってしまうんですね。LASSは各セクションがdivisi対応のためあらかじめ3パートに分かれていて、パートのON/OFFで人数を増減できるんです。つまりサウンドの雰囲気は同じ状態で、規模だけを変えられるようになっているんです。これは大きなメリットだと思っています。

購入予定

  • KOMPLETE 13 Ultimate
    別の音源のためにKONTAKT製品版が必要なんですけど、KONTAKTを単体で買うのはもったいないということと、MASSIVE くらいは持っていたいし、DAMAGE(無印) もほしいので狙ってます。例年、11月末あたりに安くなるそうです。
  • Cinematic Studio Strings
    これも11月末あたりにセールになりそう。HEAVYOCITYと同じくシネマティック音源です。結局のところ劇伴好きなので仕方ないかなと自分で納得しています。Cinematic Studio Stringsを買うと同シリーズのソロ音源やブラス音源が割引になるので、少しずつ揃えようと思います。

*1:200万くらい

*2:しかしiZotope Ozone 8 のオマケだったので実質無料

劇場版 鬼滅の刃 無限列車編 煉獄さんの曲を演奏してUPしましたの巻

www.youtube.com

www.nicovideo.jp

「炎」はみんな弾いているので、アマノジャクの本領を発揮して違う曲を弾いてみようと思って、何度も映画館に通って劇伴を覚えてアレンジしました。

楽譜を書きはじめたあとでも映画を見て検証をしているので、音符が少ない部分はかなり耳コピ精度が高いと思います。ただ2曲目の前半はほとんど聞き取れないところもあって、半ば捏造になっているのでご了承ください。

(以下ネタバレ)

 

 

1曲目は猗窩座との戦いで押されたときに、ふと母親を回想するシーンの曲です。実際はオケも入っているんですが、ピアノソロで弾いても大丈夫だと思ってソロでやりました。こういうコラールの曲は耳コピしやすいです。

2曲目は炭治郎たちに最後の話をする場面の曲で、初回鑑賞のときにいい曲キターと思いつつ泣いてしまってどうしようもなく、2回目で今度こそと思いつつまた泣いてしまい、3回目からようやく冷静に聞き取れるようになりました。この曲はオケがメインなので、ピアノ用にアレンジするのがまず一苦労でしたが、煉獄=炎がテーマなので、メタファーとして上昇アルペジョを多く入れることで強引に解決しました。あとサウンドに変化をつけるために本物の劇伴で使われたオーボエと児童合唱を入れています。どちらもINTEGRA-7ですが、合唱は入れて大正解で、入ってきた瞬間にブワーッと盛り上がる感じがうまく再現できたと思います。これでいい気になって弦楽器まで入れてみたのですが、あまり良くなかったのでオミットしてしまいました。

真・女神転生III Nocturne HD Remaster限定版のピアノアレンジCDがすごすぎたの巻

shin-megamitensei.jp

自分は、メガテン女神転生)は初代ファミコンの第一作からやっています。その決定盤ともいえる真メガテン3がHDリマスターになりました。この限定版の特典にピアノアレンジCDが付いてくるということで楽しみにしていたのですが、いざ聴いてみたら予想以上に素晴らしいアレンジと演奏でとても気に入りました。なので採譜して弾きます、といいたいところだけど、メガテン関係は怖い話をいろいろ聞くのでちょっとビビってます。

この限定版は残念ながら予約が瞬殺状態で、もう入手できないと思います。でもピアノアレンジCDは配信されるようなので、興味のある方はぜひ聴いてみていただきたいと思います。アレンジの方向性は、いかにも「フランツ・リスト編」というかんじの正攻法的クラシック系と、フュージョン系の2パターンになっています。どちらも聴きごたえ十分なピアニスティックなアレンジですし、ピアノで演奏することで耽美的・怪奇的な要素がいっそう表現されて、メガテンらしい妖しい世界を存分に堪能できます。

Prophet-5やREPRO-5の使いこなし:ポリ・モジュレーションの巻

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Poly-Mod

この画像はProphetだとPoly-Modというセクションに相当します。ProphetやREPROのこのパラメータの使い方がわからないという人がいるので、備忘録を兼ねてまとめておきます。

1.何ができるのか?

電子回路的に説明するとSOURCEの出力をDESTINATIONの入力に結線することができます。

2.使用例
(1)フィルターエンベロープ(一番左のノブ)
・FREQ Aに接続する
フィルターエンベロープでOSC-Aのピッチ(音程)を変化させます。シンセブラスなどで音が出る瞬間に半音くらい下の音程からしゃくりあげるようなニュアンスにするテクニックがあまりにも有名です。ただこれは1980~90年代に使われすぎた影響でダサい印象を与えかねないので要注意です。
オシレータシンクONの状態で使うと、音程はOSC-Bの音程と同じ状態を保ちつつ、倍音成分がエンベロープに沿って変化する独特な音色になります。これはProphetならではのサウンドで、リードを弾くときに使う人がいますけど、自分はそういう恥ずかしい真似はできません。そもそもシンセでリードを弾くこと自体が恥ずかしいと思ってしまいます*1
・PW Aに接続する
OSC-AのPW(パルス幅)を変化させますので、これもエンベロープに沿って倍音成分を変化させることができます。琴などの撥弦系や、ピアノ系の音色を作るときに有効です。
・フィルターに接続する
フィルターエンベロープはもともとフィルターに使うものなので、2重で適用してもあまり意味がないと思いがちですが、オーバードライブ的な効果になってノイズを音源にすると爆発音が作れます。
(2)OSC-B
・FREQ Aに接続する
いわゆるFM(Frequency Moduration)になりますので、鐘のような非整数次倍音を作り出すことも可能です。このときOSC-BをLO-FREQモードにして、なおかつキーボードトラッキングをOFFにすると、OSC-BはLFOと同等になります。そこへ上記のフィルターエンベロープを混ぜることで、複雑なピッチ変化を与えることができるようになります。
・PW Aに接続する
OSC-BをLFO的に使用して、PWMのために利用するのが一般的です。
・フィルターに接続する
キーボードトラッキングONの状態でフィルターに接続すると、エキサイターを使ったような音色変化が得られます。ProphetやREPROはフィルターのキレが良く、倍音が減りすぎてその結果として音色がこもりやすいという弱点があるのですが、そのようなときにこのモジュレーションをちょっと上げるとギラッとした倍音を付加し、なおかつ音圧が上がったようなニュアンスをもたせることができますエフェクターを使うことなく音圧を上げて存在感を増すことができるので非常に有用です。自分はこの機能をしばしば使います。坂本龍一さんも多用していると思います。

*1:小心者。

劇場版 鬼滅の刃 無限列車編を見たの巻(ネタバレあり)

TV版ラスト5話予習の上で見てきました。
やはり一見さんお断りなところは否めないものの、ファンムービーとしては100点の出来栄えだと思いました。ただし普通の映画としては脚本や構成に問題が多く、せいぜい50点くらいです

まず、TVアニメ4話分くらい*1の内容を2時間かけてガッツリやるので、テンポが悪いです。やたらと回想シーンが長いとか、意味不明なギャグを入る演出とか、この作品の良くない部分が集約されているされているとも言えます。

シナリオ面では序盤の煉獄の使い方が極めて稚拙なのが問題です。
劇中において彼と主人公の関係性描写が希薄なため、この映画自体が「すごい先輩に出会えたけどすぐ死んじゃった」みたいな単純な流れになっています。こういうところでは、アニメオリジナルの補完を入れていいと思います。
たとえば、煉獄はTVアニメの終盤において主人公より先に無限列車の偵察に出ています*2。そこへ主人公たちが合流するところから映画がスタートするのですが、「先に偵察に出ている」という情報提示が曖昧なので、一見さんにはわかりにくいのです。そこで、いったん煉獄を偵察から戻して主人公たちに現状説明をする体裁で観客に対しても作品背景を紹介した上で、改めて主人公たちと一緒に鬼退治に向かう、という流れにすれば、一見さんにもわかりやすい自然な導入になるのです。

下弦の壱についても同様で、このキャラこそ回想シーンを入れるべきなのに、何も背景説明がないため雑魚的な変態にしか見えないのが惜しいです。

*1:劇中の経過時間はせいぜい12時間くらいではないかと思います。

*2:この偵察に出る場面ですでに死亡フラグが提示されている。