プログラム
- リャードフ 「キキモラ − 民話」
- チャイコフスキー ピアノ協奏曲第1番(ピアノ:エリソ・ヴィルサラーゼ)
- ショスタコーヴィチ オラトリオ「森の歌」(バリトン:セルゲイ・レイフェルクス、テノール:アヴグスト・アモノフ、合唱:東京オペラシンガーズ+東京少年少女合唱団)
大音量超迫力金管部隊という印象の強いオーケストラですが、今日は全体的に抑え気味で弱音重視の繊細な演奏でした。ヴィルサラーゼのピアノがそれほど音量がないこと、「森の歌」はバリトン独唱が多いこと、などから音量バランスを考慮した結果だと思いますが、そのおかげで細かなニュアンスや弦楽器の音色の使い分けなどがとてもよくわかり、説得力の強い演奏になっていたと思います。
まずリャードフの小曲は軽〜くいっちょあがりという感じの演奏でした。メゾピアノ以下のデュナーミクを駆使して演奏してました。チャイコのピアノ協奏曲は文句なしの名演。先にも書いたように、ヴィルサラーゼのピアノはブロンフマンのような大音量は持っていません。そういう人がこの曲に対してどのようなアプローチをするか興味深かったのですが、デュナーミク(音量変化)で勝負するのではなく、音色の使い分けで勝負してきました。しかも、ポリフォニックな使い分けで、普通のピアニストでは無視してしまうような低域の対旋律を浮き上がらせたりします。またアーティキュレーションが適切なので、この曲に多いスケルツァンドなフレーズひとつひとつが面白く表現されます。第一楽章の第一主題は三連符の頭2つを取って「タラッタラッ」って弾くフレーズですけど、ロシア系の先生に鍛えられた人は確実に三連を表現するのに対して*1、それ以外のピアニストは16分音符の「タラッッタラッッ」という感じに鋭くなってしまいます*2。これはほんの一例ですが、全編そんな感じでとにかく楽譜に正確&忠実なので、見通しがいいんです。曲芸のように弾く人が非常に多い曲ですし、単なる大迫力の演奏に終わることが少なくありません。それはそれで面白いのですが、ヴィルサラーゼの場合テンポが速いにもかかわらず弾き飛ばさない確実な打鍵と音色コントロールがあるので、スリルとスピード感が一層際立ちますし、旋律は確実に歌われるのでとてもロマンティックです。加えてテミルカーノフの伴奏がまたとても繊細なニュアンスに満ちており、特に弦のアーティキュレーションや音色はロシアのオケならではで実に素晴らしかったです。こんな感じにあまり聴いたことがないタイプ演奏なので、果たして聴衆のうけはどうかな?とか思っていたのですが、なんかもうすごい大喝采でカーテンコール5回とか6回とか。もう数えるのもアホらしくなるくらいの絶賛っぷりでした(笑)。
後半の「森の歌」はオリジナルの歌詞でした。共産主義&レーニン&スターリン賛美な部分があり、感情的な部分で引いてしまうんですが音楽的にはなかなか面白いです。過剰なまでに主和音を盛大に鳴らしまくるのが重苦しくて不気味で、このへんはショスタコも狙ってると思いました。この曲もソリストを引きたてるために伴奏はとても繊細。オケをテュッティで鳴らしてからスーーッと音量をさげて独唱に入ったりするのがめちゃくちゃスムーズで、さすがだなあと感心しました。金管パートにエキストラまで入っていたのですが予想したよりだいぶ音量が控えめで、徹底したニュアンス重視っぷりが伺えます。合唱も多彩なニュアンスをしっかり表現していて実に見事。たぶんロシア人よりテミルカ氏の要求には応えられる人たちだったのではないかと思います。